15話 呪いの正体
「呪いは二種類だね。一つ目は忘却の呪い。そして二つ目は口封じの呪いだ」
「二つも呪いがかかっているのか?」
カイルは驚愕し、すぐさま私のもとに駆け寄った。抱きしめようと手を上げたけど、さっきの師匠とのやり取りを思い出したのだろう。しょんぼりとした顔で、手を引っ込めた。
「それにね、忘却の呪いはサクラの聖魔力を使って発動させてる。これがまた厄介だね〜。たぶん彼女はどこかで魔法陣を踏んでいるはずだ。それも瘴気を浄化している最中にね」
(瘴気の浄化中に? なんでそのタイミングで……?)
無意識に首を傾ける私を見て、師匠がクスッと笑い、その疑問に答えてくれた。
「聖女であるサクラが瘴気を浄化すると、『聖気』が国を守る結界に溶け込むでしょ。つまりその瞬間、サクラと結界は『聖気』でつながってるわけ。で、浄化中に魔術を発動してしまうと、この国を包んでいる結界を利用した呪いが完成しちゃうんだよ!」
(結界を利用した呪い? ……じゃあ、みんなが私を忘れちゃったのは、結界の中にいたから?)
その予想は当たっていた。ジャレドは興奮を抑えきれない様子で、さらに語り続ける。
「僕がサクラを覚えているのは、魔術が発動する前に国外へ出たからだろうね。それに魔術耐性もあるし! でもさあ、これって相当な高等魔術だよ。どこかで見た気もするけど、この魔法陣を作った人は天才だな! 僕以外にこんな才能の持ち主がいたとは知らなかったよ」
(師匠の他に、そんなすごい魔術師が……?)
あまりに規模の大きい話に、唖然としてしまう。カイルや司教様も言葉を失っていて、浮かれているのはジャレドだけだ。しかし慌てたのは、聖教会のトップである司教様だ。今までにない迫力で師匠に詰め寄っている。
「ジャレド! それなら、この国中にかかっている呪いを、おまえが解けるのか?」
私とカイルはハッと顔を見合わせた。師匠ならこの呪いを解いてくれるかもしれない! 私たちの顔に笑みが浮かび、思わず手を握り合う。しかしそんな期待は、一瞬で打ち砕かれた。
「俺にはできないよ~。解呪できるとしたら、この国では一人だけだ」
「それは誰なんだ!」
司教様の問いにヘラヘラと答えていた師匠は、急にくるりと私のほうを振り返って指差した。
「聖女のサクラだけだよ」
(わ、わわ、私?)
私は聖女であって魔術師じゃない。しかも瘴気の浄化しかできないのに、どうやって呪いを解けというのだろうか。カイルや司教様も、わけがわからないといった様子だ。
「呪いを解きたいなら、一度この国の結界を壊すしかないよ。伯父さん、結界を作ったのは誰だっけ〜?」
からかうようにクイズを出すジャレドの言葉に、司教様はハッとして頭を抱えた。
「……初代聖女様だ」
「そう! 正解!」
(初代聖女様? そんな人がいたんだ)
この国に召喚された人は私だけじゃなかったのだ。そしてその最初に召喚された人が、この国に結界を張っていたとは……。
「聖魔力を持っている僕たちでも、結界は作れないし壊せない。できるのは聖女だけ。だからサクラ、呪いを解きたかったら、結界を壊さないとね!」
場違いなほど明るいジャレドの提案に、再び司教様は頭を抱える。
「そ、そんなこと、王家が許すわけないだろう……」
「じゃあ、忘却の呪いはもう放置でいいんじゃない? これからの未来が大事ってことで!」
(そ、そんなひどい! 自分は覚えているからどうでも良くなってる!)
しかし師匠のその言葉にすぐさま反応したのは、私ではなくカイルだった。
「野放しでいいわけないだろう! サクラは自分の存在を忘れられて苦しんでいるんだ! ……それに、俺もサクラとの過去をちゃんと思い出したい」
その言葉と同時に、彼は私の手をぎゅっと握った。その熱いほどの手の温もりに、胸の奥が苦しくなる。
(カイル……)
すると師匠は「そうだった! 言い忘れてた!」とポンと手を打ち、私たちを見た。
「良い知らせもあるからさ、そんな睨まないでよ〜」
「それはいったいなんだ? 早く言え」
興奮しているのか、司教様の口調も荒くなっている。すると師匠は両手を広げ、バーンと効果音が鳴りそうなポーズをとった。「口封じの呪いは、今から解呪できま〜す!」
「本当か!」
「良かったな! サクラ!」
(し、師匠〜!)
カイルと私は顔を見合わせ、自然と抱き合い喜んでいた。
(よかった! 話せるようになるんだ! やっぱり師匠は天才だわ!)
結界を壊さないと呪いが解けないという絶望的な状況に落ち込んでいたけど、話せるようになるなら一歩前進だ。カイルも心から喜んでくれているようで、瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
するとそんな喜びであふれている部屋に、あわただしいノック音が響き渡った。
「司教様! お話し中、失礼いたします! 入室してもよろしいでしょうか?」
いつも穏やかなブルーノさんの声が動揺している。司教様もただならぬ気配を感じ、すぐさま入室の許可を与えた。
「アンジェラ王女がお越しになっております。至急、司教様に面会したいと……」
(王女がここに?)
予想もしていなかった展開に、さっきまで大喜びしていた気持ちが一気に凍るのがわかった。




