14話 ジャレドの診断
「せ、聖女だと! それは本当か? ジャレド!」
「ジャレド! サクラを離せ!」
二人が同時に叫び、次の瞬間にはカイルが師匠の胸ぐらをつかんでいた。あわてて止めようと間に入ったけど、背の低い私では止められない。それでもすごんでいるのはカイルだけで、師匠はヘラヘラと笑って余裕の表情だ。
「もう〜なんなの? カイルはサクラのこと忘れてるくせに、独占欲だけは人一倍なんだから」
「くっ……! しかし! 女性に気軽にふれるな!」
「はあ? カイルだってさっき、サクラを抱きしめてたじゃないか?」
「う……そ、それは――」
終わりそうにない不毛な言い争いにオロオロしていると、司教様がいらだったように二人を引き離した。
「喧嘩は後にしてくれ! それより、彼女が聖女だというのは事実なのか?」
その言葉を聞いた師匠はクスッと笑い、乱暴に椅子に座った。
「事実も事実。僕が魔法陣を作って、伯父さんが聖魔力で発動させて、サクラを召喚したんだ。覚えてないみたいだけどね〜」
どうやら師匠は「自分だけが知ってる」というこの状況が楽しいみたいだ。普段叱ってくる二人への仕返しだと思ってるのだろう。口笛を吹いて「質問があるならどうぞ〜?」なんて、くつろいでいる。
すると二人は師匠の煽りにも気づかず、待ってましたとばかりに質問し始めた。
「ジャレド、なぜあなただけ、サクラのことを覚えているのですか?」
「彼女には聖魔力どころか魔力すらない。それはどういうことなんだ?」
「それに彼女は話そうとすると、喉を痛がる。その理由も知っていますか?」
「彼女はいきなり王宮に現れたそうだが、おまえが転移させたのか?」
二人の猛烈な問いかけに、師匠は自分で質問を募集したくせに、うんざりした顔でため息をついた。
「ちょっと待ってよ〜! 質問が多すぎ! え~っと、最初のは……サクラのことをなんで覚えてるかだっけ?」
「そうです。なぜあなただけが、彼女のことを覚えているのですか?」
カイルは小声で「納得いかないのだが」と呟き、師匠の顔を不満げに睨んでいる。
「そんなの僕が知りたいよ。反対になんで伯父さんたちは忘れてるわけ? じゃあ、次は……、サクラに魔力がないってことだったな。じゃあ、調べてみようか」
肝心な答えになっていない返事に、カイルはため息をつきながら私の魔力の件について話し始める。
「しかし調べるといっても、彼女の魔力は王宮でも教会でも検査しましたが、どちらも無反応でした」
カイルの反論に、師匠は鼻で笑って私のほうを振り返った。
「ふ〜ん。天才魔術師を見くびってもらっちゃ困るな〜。魔力の流れくらい本人にさわればわかる。ではサクラ、こっちにおいで」
師匠が私に手を差し出した。何をするのかはわからないが、ふざけているようには見えない。
(魔力の流れを見てもらったことはないけど、師匠は天才だ。きっと原因がわかるはず!)
一瞬カイルが止めようとしたが、司教様が「カイル様……」と静かに声をかけると、彼は渋々引き下がった。そのかわり私の背後に立ち、じっと見守っている。
「じゃあ、サクラ。目を閉じてね〜」
言われた通りに目をつむると、師匠が私の両手を包み込むように握った。
――その直後。突然、私の体がふわりと持ち上がった。
(え? な、なに?)
驚いて目を開けると、私はカイルに抱き上げられていた。師匠はあきれ返った顔でカイルを見ている。
「ジャレド! 今しようとした行為は、本当に魔力検査に必要なのか!」
抱えていた私をサッと背中に隠すと、カイルは一歩前に出て師匠に詰め寄った。しかし師匠もひるまない。
「必要だよ! おでこを合わせて魔力の流れを調べるの! 伯父さん、カイルをサクラから遠ざけてよ!」
そう言うと、カイルの後ろにいた私の腕をつかんで引っ張っていく。
「カイル様……」
「くっ……!」
司教様に咎められたら、カイルも引き下がるしかないみたいだ。それでも師匠を睨む目は鋭いままだ。
(たしかに、はたから見たらキス寸前な構図よね……)
お互いの両手をつないで額をコツンとする姿は、キスする前みたいだ。真面目なカイルにとって、人前で男女が顔を近づけるなんてあり得なかったのだろう。驚いて止めるのも当然だ。しかし我が師匠にそんなデリカシーは全くない。再び私の手を取ると、お互いの額をくっつけた。
「さ〜て、これから僕の魔力を流すからね」
私はコクリとうなずき、再び目を閉じる。すると、つないだ手からじわりと何かが流れてくるのを感じた。
(なにこれ。温かい……)
私の体の中に、ぽかぽかとした心地よい液体のようなものが巡っている。手のひらから腕に、肩から頭とお腹に。スルスルと血管を通っていくように、師匠の魔力が全身に届けられていく。そしてその優しい温かさが足先まで届いた時、師匠がパッと手を離した。
「サクラ、もういいよ〜」
ジャレドは司教様たちのほうを振り返ると、ニコリと笑った。
「彼女に魔力がない理由がわかったよ〜」
「なに! 本当か!」
二人は身を乗り出し、師匠の話の続きを待っている。するとジャレドは明日の天気を言うような軽さで、検査の結果を笑って報告した。
「うん! 彼女、呪われてるね!」
「な、なにっ! 呪いだと?」
(師匠すごい! アンジェラ王女が私を呪ったって言ってたけど、本当だったんだ……!)
するとジャレドは私の喉を指差し、その呪いについて説明し始めた。




