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【コミカライズ配信中】すべてを奪われた聖女~二度目の召喚で待っていたのは処刑でした~   作者: 四葉美名


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11話 二人の男女にベッドがひとつ


「サイラ、どうしたん……だ! ち、違う! これは、この部屋しか空いてなかったからだ。もちろん俺は床で寝袋で寝る。サイラがこのベッドを一人で使ってくれ!」


 私の反応ですぐにカイルも気づいたようで、彼の顔もみるみる赤くなっていく。この国では、男女同じ部屋で泊まることは、夫婦とみなされる。未婚の兄弟姉妹であっても別室が当たり前だから、私たちは夫婦と思われたらしい。


(でも私は罪人で、彼は命の恩人。どう考えても私が床で寝るべきじゃない?)


 とはいえ、罪人を命がけで守るほどの騎士道精神の持ち主が、それを許すわけがない。せめて寝袋を使うにしても、マットレスの上で寝てほしい。ちらりとカイルの顔をのぞくと、耳まで赤くなっていた。混乱しているのか、小声で「違うんだ……」と何度もつぶやいている。


(よし! ジェスチャーで伝えてみよう!)


 私はまずベッドを指差し、次にお互いを指差してみた。


「ん? どうしたんだ?」


 カイルが気づいたので、私は両手を重ねて頬に当て、目を閉じて寝るまねをする。――が、その途中でカイルは驚いて、ブンブンと音がしそうなほど頭を横に振った。


「だ、駄目だ! 夫婦ではない男女が一緒に寝るなど、もってのほかだ。俺は野営で慣れている。心配しなくて大丈夫だ!」


(そうはいっても、カイルも目の下のくまがひどい。きっと寝不足なんだと思う。それに無実だとはいえ、不法侵入の罪に問われてる私がベッドで、助けてくれたカイルが床だなんて……)


 私はカイルの腰につけた財布袋を指差す。そして自分の顔を指差し、後ろ手に縛られたポーズをして、首を振った。


「それは……っ」


 その動きに、カイルはぴくりと眉を動かし、険しい顔をした。


「……もしかして、俺が宿代を払っているから遠慮しているのか? それとも、自分が罪人だから床で寝ると……?」


 うまく伝わったようだ。でもカイルの体を心配している気持ちは伝わっていない。納得いかない表情で黙っている。


(はあ……声が出せればいいのに)


 カイルも考え込んでしまい、このままじゃ平行線だろう。


(あ! もしかして、寝袋をベッドの上で使ってほしいということが伝わってないのかも!)


 先に寝袋の話をしたせいで、カイルには「二人で一緒に寝ましょう」と誘っているように誤解されたのだろう。


(ふう、話せないのって本当に大変!)


 私はカイルの荷物から寝袋を取り出し、ベッドに置いた。そして、また一番最初にしたジェスチャーを繰り返す。


(この寝袋を私かあなたが、ベッドの上で使う。できれば私が寝袋を使って、カイルにはふかふかの毛布を使ってほしい)


「ん? 寝袋がどうしたんだ?」


 メッセージが伝わるよう一生懸命動いたが、カイルには伝わらない。仕方なく強引に彼の手を引き、ベッドに横になるよう指示をする。


「お、おい。俺は男だから……」


 動揺していたカイルだったが、私が真剣なので、渋々ベッドに横になってくれた。そのままベッドに置いた寝袋に私が入ると、ようやく理解したようだ。


「……そういうことか。寝袋を使うにしても、固い床じゃなく、マットレスの上で、ということだな」

(よかった〜! やっとわかってくれた!)


 苦労のかいあって理解してもらえたので、思わず笑顔になってしまう。寝袋から目だけ出してコクコクとうなずくと、カイルはククっと笑って「わかった」と呟き、私の髪をくしゃくしゃと撫でた。


(撫でられるのは嬉しいけど、これってケリーさんや子供たちに、よくしてたヤツだよね。はあ……やっぱり私って子ども扱いだわ)


「じゃあ今夜は悪いが、俺もベッドの上で寝袋を使わせてもらう。サイラは今のうちに風呂に入るといい。俺はその間に夕食を買ってくる。お湯はボタンを押せば止まるからな」


 そう言うとカイルはベッドから起き上がり、てきぱきと女性用の石鹸やクリーム、それにふかふかのタオルと寝る時用の服を出してくれた。どうやらさっきのお店で、それらも買っておいてくれたらしい。


「女性に必要なものをひと通りそろえたが、肌に合わなかったら言ってくれ。俺は出かけてくるからな」


 パタンと扉が閉まると、私は自然と大きく息を吐いた。気づけばもう夕方。窓からは綺麗な赤い夕日が見えて、なんだか不思議な気分になってくる。朝にはあんなことがあったのに、今はカイルと一緒にいるなんて……なんだか夢のようだ。


(とりあえずお風呂に入ろう。今日は本当に疲れた……)


 モタモタしていたらカイルが帰ってきちゃう。私はあわてて浴室に入ると、備え付けの鏡をのぞき込んだ。


「――っ!」


 驚きのあまり大声で叫びそうになり、あわてて口を両手で押さえる。久しぶりに見た自分の顔は、メイクが落ちてボロボロのギトギトだった。


(ぎゃあああ! 信じられない! メチャクチャひどい顔してる!)


 そのうえ髪の毛はバサバサで埃まみれ。不幸中の幸いは、マスカラやアイラインがウォータープルーフだったことくらいだろうか。


(私のズボラ精神が役に立ったわ。お湯で落とせる化粧品ばかり使ってたから、クレンジングなしでもなんとかなりそう)


 それでも! こんな顔をずっとカイルに見られていたなんて! 


「私のこともう一度好きになってくれるかな?」なんて、乙女なことを考えてる場合じゃない! 本当に恥ずかしい……!


(とりあえず洗って綺麗にしなきゃ! きっと匂いもひどかったはず……)


 落ち込みながらも急いで体を洗い、髪を整えると、すでにカイルは帰ってきていた。テーブルにはたくさんの美味しそうな食事と飲み物。さらに追加で、洋服とヘアブラシなど、身の回りの物までたくさん買ってきてくれていた。


(こんなにいっぱい。いいのかな……)


 チラリとカイルを見上げると、なぜだか機嫌が良かった。私が戸惑っているのを察してか「これは君を崖から突き落とした償いだから」と言っている。


(カイルはむしろ助けてくれたのに……)


 でも難しいことは今の私には説明できないし、なにより受け取ったほうが彼の気持ちが軽くなるのかもしれない。そう思った私はぺこりとお辞儀をして、その好意を受け取った。


「さて、食事も終わったし、明日も早い時間に出るから、もう寝ようか」


 心なしかカイルの声が震えているような気がした。お互い微妙な距離を保ちながらそろそろとベッドに上がり、カイルは寝袋、私は布団に入った。


(緊張して眠れないかも……)


 私はバクバクと鳴る心臓の音を子守唄代わりに、ぎゅっと目を閉じる。

 ――すると次の瞬間。肩をトントンと叩かれた。


「よく眠れたか?」

「…………?」


 カイルが私を見つめながら「ぐっすり寝られたようで良かった」と言っている。その言葉であわてて部屋を見渡すと、窓から明るい朝の光が差し込んでいた。


(うそ……! 私、あれからすぐに寝ちゃったの?)


 カイルと同じベッドを使うことであんなにドキドキしていたのに、あっという間に寝てしまったみたいだ。緊張して眠れないかもと思った時から記憶が止まっていて、すでに朝になっている。


(もう! 本当に恥ずかしい!)


 私はぺこりとお辞儀をして、すぐに身支度を整えた。カイルはだいぶ前に起きていたようで、テーブルには朝食が用意してある。これ以上迷惑をかけたくない私は、クスクス笑うカイルを横目に、さっさと食事を済ませ宿をあとにした。


「ここからは馬で行こう。半刻もあれば教会には着くはずだ。馬は初めてか?」


 浄化の旅のときは荷物も多く、主に馬車で移動していた。それでも護衛の騎士たちは馬だったので、時々カイルに乗せてもらったことがある。


(なつかしいな……)


 馬の背をトントンとさわってうなずくと、カイルはなぜか少し暗い顔で「……そうか。誰かの後ろに乗ったことがあるんだな」とつぶやいた。


(もしかして、馬に一人で乗れないと足手まといなのかも!)


 申し訳ない気持ちでうつむいていると、カイルは小声で「気にするなんて馬鹿だな」と言い、私を軽々と馬に乗せてくれた。久しぶりの乗馬は、ものすごく怖かった。遊びでパカパカ歩かせてもらったときとは、まったく違う。これではカイルも私の乗馬経験を気にするわけだ。


「サイラ! もっとしっかり俺につかまってくれ!」


 カイルに言われたとおり、彼の腰にしがみついた。小さく「よし!」と聞こえた気がするけど、それどころじゃない。


(お、お尻が痛〜い!)


 しっかりつかまっていても、スピードが早いのでお尻が跳ねて痛い。あと少しでお尻の皮がむけるんじゃないかと思ったころ、ようやく目的地が見えてきた。


「ほら、あそこが聖教会だ」

「…………」


 懐かしい景色に、胸が締めつけられる。見慣れた町並み、あの頃と変わらない教会の姿。私はまるで浄化の旅から帰ってきたかのような感覚に襲われ、涙をこらえながら教会を見つめていた。すると教会の入り口からひょこっと人が出てきた。その人は驚いた様子で、また中に入っていく。


「……やはり知られていたか」

(え? なに?)

「いや、大丈夫だ。行こう」


 そのまま馬を走らせ、教会の入り口で止まる。そこにはたくさんの人がずらりと並び、私たちを待ち構えていた。私たちが現れると同時に中央に立つ人物だけを残して、皆が一斉にひざまずく。


「お待ちしておりました。カイル・ラドニー聖騎士」

(司教様……)


 白い法衣を身にまとい、大勢の人を従えて立っているこの人こそ、私をオズマンド国に召喚した司教様だった。



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