”信念派”と”強硬派”
私自身、目の前の光景を理解するのに時間がかかった。多分、周りで見ていた三人も。私が魔物に噛みつかれそうになったとき、突如空から降ってきた槍が魔物に突き刺さるなんて誰も予想できないだろう。
「マオ! 怪我はないかしら!」
「マスター!」
「なにが起きてるんだナー?」
正気に戻った皆が私の方へと駆け寄ってくる。ローコにいたっては私に抱き着いてくる始末だ。……幸いあの槍のおかげで私に怪我はないけど……この槍はいったいどこからやってきたの?
今この場にいるのは恐らく私たちだけだ。他の人たちはみんな警報を聞いてキャンプ場から出ていったはずだし……。そもそも私たちの中に槍を使う人どころか槍を持っている人すらいない。マジでどこから来たんだこの槍?
「一体だれが……」
私と同じ考えにいたった誰かがそう呟いたが、その答え合わせはすぐに行われた。
「――だいじょうぶですか、サンライト公爵家一行」
私たちの誰でもない声が聞こえた方へ全員が顔を向ける。そこにいた一人の男性、少々年季が入った服を身に纏い、整ってはいるがをしているが少しやつれた顔の男がいた。
男は魔物の頭に突き刺さった槍を引き抜き、付着した血を拭っている。どうやら私を助けてくれたのはこの人らしい。
「その……助けていただきありがとうございます」
「……いえ、街に侵入しようとした魔物を倒してくれたのでしょう?その礼です」
そういう男の装いは王国の騎士のものではない。かといってエル教の聖騎士を表す紋章もどこにもついていない。
「うちの使用人を助けていただきありがとうございます。つかぬことをお聞きしますがあなたはいったい……」
「俺は”モンド・ビースト”っていいます。一応、【革命軍】の人間です」
「「「「!」」」」
革命軍という言葉を聞き、私たちは目の前の男への警戒レベルを引き上げる。王都での騒動や最近ではイースの里での一件、そのすべてが革命軍によって引き起こされたものである以上、警戒するのは当然のことだ。だけど、なんで私を助けたんだろ? いちおう敵同士のはずなのに……
私たちが臨戦態勢を取ったことに気づいたのか男は慌てて言葉を紡ぐ。
「待ってほしい。別にあなた方と敵対するつもりはない」
そう言って持っていた槍を手放す。たしかに私を助けたのもそうだけど、わざわざ革命軍だと明かしたうえで武器を捨てるなんて、マジで戦う気ないの?
「それであんたは私たちに何の用かしら? まさかなにもないとは言わないわよね」
カレンは杖を向けながらモンドさんに問いかける。その目には妙な真似をすればぶっ飛ばすという意思が見えていた。
「ここに来たのは単純に結界内に魔物が侵入したと聞いたからです。そしたらあなた方がすでに戦っていたのを見て、勝手ながら助太刀しただけであり、それ以上でもそれ以下でもありません」
「……」
「信用できないのも分かります。最近の革命軍の行動は酷いものですから……。ですがあの一連の出来事はすべて”強硬派”が起こしたものであり、俺たち”信念派”の人たちは……いやこれは言い訳か」
訴えているモンドさんの顔は暗いものだった。強硬派? 信念派?なにがなんだか分からないけどモンドさんが話が通じる人ということは分かった。会ったことのある革命軍の人間は軒並み話が通じない人ばっかだったからね……まぁ、警戒は解かないけど。
「”強硬派”とか”信念派”っていうのはいったいなんだナー? 革命軍の中に派閥でもあるのか?」
「そうです。”信念派”は革命軍が発足した当初の目的『王政を打破し、民衆による政治を始める』ことを目標とした派閥です。一方で”強硬派”は……『革命軍が国を乗っ取り実権を握る』ことを目標とした派閥です」
おい、強硬派どういうことだコラ。当初の目的と違いすぎるぞコラ。それだと首が挿げ替わるだけじゃん。
「目的変わりすぎじゃん。つーか信念派はなにしてんの? 最近の行動見るに革命軍の全体の手綱は強硬派が握ってるぽいじゃん」
ローコが言った疑問は最もだった。発足当初は信念派ばっかりだったはずだし、人が増えていったからってそんな強硬派だけが多くなることある?というのが私の感想だ。
「たしか一年前だっけ? そんときから革命軍が今みたいになったんだよね?」
「そうですが事の始まりは二年前の王都での革命の時です。革命に失敗した私たち”信念派”の大多数は王国騎士団に捕まり、処刑されましたんで……」
「あー、強硬派が増えただけじゃなくて信念派の人数が減ったのね。なるほど」
「それもあるんですけど一番の理由は……」
「――ボクが革命軍のリーダーになったからかな」
会話に急に入ってきた一つの声。どこかで聞き覚えのある声なんだけど顔を見ても誰か分からない。カリスにいたっては青年の顔を見た瞬間、憎々しげに睨みつけている。……どこかで会った?
「ナイラ……!」
(! その名前は……)
青年の顔を見たモンドさんがこぼした名前を私たちは知っていた。王城や【トナコ】に侵入した革命軍のリーダーであり…………ルートさんの弟。こいつが……
「何しにここに来た」
「ハハハ、ただの手伝いだよ。人手は多い方がいいだろう?」
「……何を企んでいる」
モンドさんの口調が強いものになっていること、それとさっきの言葉からこいつは”強硬派”……それも派閥のトップなんだろう。にしても今の笑い方、やっぱりどこか聞いたことがあるような……
「! 思い出したわ。こいつ王都で絵を描いてた奴じゃない!」
カレンのおかげで思い出した。たしかアズさんの店へ向かう時に会っていた青年だ。まさか革命軍のリーダーだったなんて……
「手なんて借りてたまるか。それに魔物進行はもうすぐ終息する」
「――ほんとにそうかな?」
私が言葉の意味を聞こうと口を開きかけたとき、突如カレンとカリスの雰囲気が変わった。二人が城壁の方を振り返り、見つめている。いったいどうしたんだろ?
「マオ!ローコ!来るわよ!」
「どういうこと?」
「魔力感知に大量の魔物の魔力が引っかかった!」
「「!!?」」
城壁というのは外部からの攻撃や魔物の侵入を防ぐ役割がある。だが、それは地上からのという前置きがある。
――奴らは空から現れた。
赤く染まった目に人型の肉体についた羽の腕をはためかせた奴らの群れ……巨大な霊峰を住処にしていた魔物”ハーピィ”。
その姿と現れた数に思わず驚愕してしまった。ハーピィたちが今にも私たちに襲い掛かろうと……
『長ー! 地上の人間たちがめっちゃ魔法打ってくんだけどー!』
『当たり前でしょ! 向こうからしたら完全に街を襲いに来たようにしか見えないんだから!』
『あっつ! 羽ちょっと焦げたぁ!』
『俺この大移動を終えたら番いをつくるんだ……』
『死にそうなセリフ言ってんじゃないわよ! というか誰とすんのよ!』
……うん。これ襲いに来たわけじゃないな絶対。なんていうか……苦労してそうだな長って呼ばれてる人。
ハーピィたちの会話から察するに空を飛んで移動してるだけってこと? だとしたら間が悪すぎる。魔物進行の途中で街を横断しようなんて、そんなの街を襲いに来たと勘違いされて当然…………いや、もしかして動かざるおえなかった?
ストライクボアも他の魔物にもソティスの魔力の痕跡はなかった。ということは今回の一件は”魔女の残り火”によって起きたことじゃない。そもそもあのハーピィたちは狂暴化してないしね。つまり魔物たちが一斉にこの近くから離れないといけない理由があったていうこと……になるよね? 予想の域は出ないし、証拠も何もないから自信はないけど……はぁ、こういう時私以外に魔物の言葉が分かる人がいれば意見交換とかしやすいのに。
私が考察にふけっているとまたハーピィたちの会話が聞こえてきた。
『やっぱり霊峰を超えて移動したほうがよかったのでは……』
『……霊峰の天気は変わりやすい。移動してる途中で嵐にでも遭遇したら目も当てられないわ。それに一つの山を越えるのには時間がかかる。あの怪獣どもの喧嘩がどう動くか分からない以上、山を越えてる時間なんてないわ』
長と呼ばれたハーピィが口にした言葉……怪獣ども? もしかして魔物たちがドリムの方に来たのはそいつらが原因か……。分からないけど、ただ一つ言えるのはいま空を飛んでいる貴重な情報源を逃すのはもったいないということだ。
「カレン」
「なにかしら? 話ならもうそこまでハーピィたちが迫っているから簡潔にすましてちょうだい」
「――あの魔物たちと話がしたい」




