本日の天気は快晴ですが、昼過ぎには一本の槍が降るでしょう
私たちが避難している人がいるドリムの都市部にまで行かせないために、やらないといけないことは二点。『ストライクボアをなんとかすること』と『破られた城壁を塞ぐこと』だ。
前者はもし走って街の方までいかれたら、私たちの足では追いつけないから。後者は城壁の穴をふさがないと、そこから湧き水のごとく魔物が侵入してくるからだ。いくらカレンやローコたちが強いと言っても魔力は無限じゃないし、数が多すぎて何体か魔物に突破されるかもしれない。
この二つの条件をクリアしないといくら魔物を倒してもジリ貧になる。そのことは私たちも分かっていた。
「マオ! ローコ! あんたたちは壁の穴を塞いできなさい! あの猪は私とカリスでなんとかするわ!」
「分かった!」
「りょーかい!」
私とローコは二人にストライクボアの対処を任せ、穴のあいた城壁へと向かう。いまもその穴を通ってキャンプ場内へと入ってくる魔物へ魔導銃を撃つ。ローコもライフルへと変形させた左手で何体もの魔物を撃ち抜いていく。だが……
「だあああああああっ!!数が多すぎる!!」
「倒しても倒してもキリないわー……むしろ数増えてない?」
私とローコじゃ侵入してくる魔物と倒した魔物との数がまるで追いつかない。一体倒したと思ったら、三体くらいに増えてんだもん……
「! マスター!魔法が来てる!」
「魔法持ちもいんの!?」
私の立っている近くに”ダルク”が撃ち込まれる。幸い当たらなかったけど、魔物が多すぎてどいつが撃ってきたか分かんないし、このままだと防衛線を食い破られるまで時間の問題だった。
「近づくことさえできれば魔導銃に込めた魔法であの穴をふさぐことができるんだけど……魔物たちが邪魔すぎる」
せめてあと一人誰かいれば……なんて思ってしまう。いっそ”ロスヒータ”でもぶっ放すかと考えていると
「マスター、あーしならあの魔物の大群をなんとかできるかもー」
「マジで?」
「試練のときは使えなかったけど、こっちのモードなら!」
ローコの左手のライフルが再び変形していき別の銃になる。見てくれとか大きさはそこまで変わってないんだけど、なにが違うんだろ?
ローコが銃口を侵入してくる魔物たちの方へと向ける。しっかりと狙いを定められた銃口は次の瞬間、火を吹いた。
「ファイヤー!!」
ドドドドドドッ!という音ともに発射された魔力弾は、さっきとは比べ物にならない速度で魔物たちを屠っていく。マジで……あのライフル、機関銃にもなるの?
魔物が城壁の穴を潜り抜けた瞬間、ハチの巣になる光景を見て、少しかわいそうとは思いつつも私は穴のあいた部分に向かって走る。
(ローコのおかげで道が開けた! 後は魔導銃が届く距離にまで行けば……)
近づいていったことで穴から城壁の外側が見える。まだまだ大勢の魔物が城壁の穴を目指し向かってくる。奥の方では魔法が飛び交う様子や煙が立ち上っているから騎士たちも戦ってるんだろう。
一心不乱に走り、有効射程ギリギリまで近くにまで到達する。私は魔導銃を前へと構え、引き金を引く。
「”ロスアウス”!」
放たれた弾丸が”アウス”で生み出した岩とは比べ物にならないほど巨大な岩へと変化する。生み出された巨大岩石は、機関銃の掃射から奇跡的に生き残った魔物を踏み潰し、城壁の穴を塞ぐ。
「ふぅー……これでよしっと」
「マスタ~、おつかれー」
「おつかれー……なんで倒れてんの? どっか魔物にでもやられたの?」
「いやねー、マシンガンモードで発射する弾はぜんぶ魔力弾でさー、魔力ゴリゴリに使うんだよねー」
だからうつ伏せに倒れてんのね。まぁ、もう魔物のおかわりもないし、残ってる魔物もそんなにいないけど……仕方ない少し休憩しよう。カレンたちの手伝いに行こうにも、このままローコを置いとくことも出来ないし、私も少し疲れた……
「むこう大丈夫かなぁ……、大丈夫か。あの二人だし」
――――――――――
「ぬおおおおおおおおおっ!?」
「チッ」
二人を送り出したあと、再び動き出したストライクボアがカレンとカリスに向かって突進する。城壁に穴をあけた一撃、それが自動車並みの速度を伴っているなど相手をする方からしたらたまったもんじゃない。
いくら普通の一般人より強い二人と言えど、ストライクボアの動きを注視しないと回避するのは困難であった。
「あの猪、図体は大きいくせに結構小回り効くのよね!」
「むかし本で読んだ情報だと、足の筋肉が発達しているからできる芸当らしいナー」
魔法を放ってもその自慢の足によって回避してくる。キメラベアと同等と噂される力は伊達ではない。
「たしか”弱点らしい弱点はない魔物”とも書かれていたような……」
「そうね。魔法は使えないけど」
あれだけ走り回っているというのに疲れた様子は一切見えず、鋭い眼光をもって二人を睨んでいる。その瞳の奥には自らに害をなす者への確かな殺意が感じ取れた。
「――でもやりようはあるのよ」
カレンがにやりと笑う。カレンの頭の中にはイースの里で対峙した虫を思い浮かべていた。目の前の猪とあいつを比べれば、もっと足は速いし、もっと小回り効くわ、的は小さいわとめんどくさかったのだ。
正直この程度どうってことないというのがカレンの本音だった。それにストライクボアと何回か対峙したことがあるカレンは、弱点……というわけではないが楽な倒し方があるのを知っていた。
「カリス、あの猪の突進はあのスピードによるものが大きいの。けど走り出しの初速はそうでもない。速度を出すには直線に走って段々と加速していかないといけない。つまり……」
「――直線に走らせなければいいということだナー」
「話が早いわね。それさえできればただの的のでかい猪なのよ!」
二人は再びストライクボアへと魔法を放つ。飛来する炎の矢や水の刃をストライクボアはジグザグに走ることで回避するが、それは自身の走る速度を犠牲にする行為だった。
ストライクボアを直線に走らせないよう魔法を放つことで、走るスピードを落とさせた二人は次の一手を打つ。
「”ドムエリアル”」
ストライクボアの周りを囲うように水壁が現れる。スピードにさえ乗っていれば易々と回避できる魔法も速度を殺されてしまった以上、水壁から逃げることは不可能だった。
『ブモオオオオオオッ!!』
当然、閉じ込められたストライクボアがこのまま黙って見ているはずがなく、水の防壁へと突進を繰り返す。だが、狭い水の牢の中では十分な助走を確保することができず、水の壁を破る威力をだせずにいた。
「しまいね、”スローフラッシ”!」
現れた数多の光の矢は、ストライクボアの前足、胴体、そして額へ突き刺さる。矢が突き刺さったところから血を流し、「ブ…………ブギィ……」という鳴き声をこぼしたあとバタンッと倒れた。
「なんか呆気なかったナー」
「あんたと私の力量を考えればこんなもんよ」
カレンはそんなことを言うが、これは別にストライクボアが弱いわけではない。むしろ、ストライクボアは王国騎士が一人で戦えば死ぬ確率のほうが高い。王国騎士団でもできるだけ一人で戦わないよう厳命されている魔物だ。
カリスもカレンからのアドバイスなく一人で戦っていれば苦戦しただろう。
「おーい、お二方ー」
「! マオ、ローコ……そっちは大丈夫だった?」
「もちー、ちゃんと塞いできたし、はぐれの魔物もあらかたやっといたよー」
「そう……、それでどうしてマオはローコに肩を貸してるのかしら。まさか怪我でもしたんじゃ……」
「いや、これはローコが魔力切れ近くになっただけ」
「ちょい休んで、肩貸してもらえば歩ける程度に回復したからコッチ来たってわけ」
この時の四人は最大の山場を越えたことにより、張りつめていた緊張の糸が少しだけ緩んでいた。もっとはっきり言えば油断していたと言っていい。
――カレンとカリスの魔力感知に四人とは別の魔力が引っ掛かる。
(この魔力の感じ……)
(――魔物か!)
二人がそのことに気づいた瞬間、別の魔力を感知した場所から一匹の魔物が飛び出してくる。
魔物が飛びかかった先には…………マオとローコがいた。
「!? っ……!」
魔物の存在に気づいたマオは肩を貸していたローコを突き飛ばす。
「へ?……!? マスター!!」
急に押し飛ばされ、素っ頓狂な声を上げたローコも自身の最も大切なマスターに迫る魔物が視界に入ったことで、状況を把握した。
――自分はマオに庇われたのだと。
どんなに必死な声で叫んでも魔物には通じない。モグラに似ているような魔物はマオへ嚙みつこうと口を広げる。
しかし、自身に魔物が迫っているというのに、茉央も黙っているわけがない。急いで魔導銃の銃口を魔物へ向けようとするのだが……
(あ、これ間に合わなさそう)
全ての動きがゆっくりに見え、襲い来る痛みに耐えようとした瞬間!
――ドスッ!!
「…………はい?」
――空から落ちてきた一本の槍が魔物の頭を貫いた。
”ロス~~~”・・・中級魔法の一つ。各属性の初級魔法をそのまま強化したような感じ。この魔法を使えるかどうかでようやく魔導士として一人前と認められる。
魔法の紹介、久しぶりっすね……。正直、人を殺すだけなら初級魔法で十分なんで中級魔法は大型の魔物とかに使われることが多いです。




