閑話:オペレーション【ヘタレ】
この閑話書くのクッソ楽しかったです、はい。
──カレン・サンライト。
カロン王国ではその名は知らない人がいない程の知名度であり、サンライト公爵家の若き当主。
文武両道。容姿端麗。そんな言葉が似合う彼女には好きな人がいる。意味としては”ライク”ではなく”ラブ”のほうで。それが自らが雇っているメイドの一人、安里茉央。
そんな女傑ともいうべき彼女とマオがいまだに告白するどころか、付き合う気配すらない。そのわけは……
「あなたたち───マオをどうやってデートに誘えばいいか教えて欲しいの……!」
───彼女がとんでもなくヘタレだからだ……!
「いまさら何言ってるんですか?普通に誘えばいいと思いますが」
「いや、その……二人で出かけることはあってもたいてい仕事関係で、プライベートでは一切なかったし……。そもそも恋とか全然しなかったからデートにピッタリの場所も知らなければ、断られたらどうしようって……」
「ヘタレ」
「ヘタレすぎ」
「ヘタレです!」
「ヘタレだナー」
屋敷に住んでいる者たちをとある一室に集めたカレン。当の本人は真剣な表情そのものだが、聞かされてるナト以外の三人は呆れたものを見る目でカレンを見ている。ちなみにマオは買い出しで街に行ってるのでこの会話が聞かれることはない。
「ていうかマオさんの前では思わせぶりな言動をいつもしているじゃないですか」
「そんなもの見栄に決まってるじゃない!」
「自信満々に言うことじゃないっしょ、それ」
『はぁっ……』とため息を一つ零したローコはある心当たりがあったので、カレンへと伝える。
「なんか南区でカフェできてたじゃん?見た感じシャレオツで評判よさげだし、そこ行けば?」
「……」
「どしたん?」
デート場所の情報を提供したローコの方をカレンはまじまじと見る。その顔は驚いたというか、意外という顔であった。
「いや、ローコはマオのこと狙ってると思ってたから、まさか敵に塩を送ることをするとは思わなかっただけよ」
「あー、そゆこと? んー、まー、あーしはマスターのこと大好きだからね。でも誰に恋をするのかはマスターが決めることっしょ。もし、誰もマスターのこともらわなかったら、あーしが幸せにするってだけだし」
「……マオはローコとくっつく方がいいんじゃないかナー?」
言うなカリス。多分この場にいるほとんどがそう思ったから。
「とりあえずお嬢様はマオさんをそのカフェに誘ってください。もうすぐ帰ってくると思うので」
はたしてこのカレンはちゃんとデートに誘うことができるのか!
「次の休み私と出かけるわよマオ!」
「急にどうした」
買い出しから帰ってきて早々デートの約束を取り付ける。隠れて見ていた四人、ナト以外の三人は天を仰いだ。なんでそんな唐突に……もっとこう……話の流れ的にはあのヘタレには難易度が高すぎるから期待はしていなかった。だけど、もうちょっと会話を弾ませてからみたいなこと出来なかったのか!?というのが三人の内心である。
いまだ手に食材のはいった鞄を持っているマオも急な誘いに困惑している。
「まぁ、いいけど。なんか行きたい場所でもあったの?」
「新しくできた喫茶店に行きたくてね。一人で行くのもなんだからマオを誘ったわけよ」
なんでそこで余計な一言を付け加える!普通に二人きりで行きたいって言えばいいだろ!!
「あー、あそこなんかできてるなって思ってたけどカフェだったのね。リリーさんたちは一緒に行かないの?」
「あいにく全員なにかしら用事があるらしいのよ」
「へぇー……あの、私も行きたい場所があるからそのとき寄ってもいい?」
「別にいいわよ。どこかしら?」
「……その……下着がね……」
少し顔を赤らめながら話すマオ。その言葉を聞いた瞬間、カレンはマオの服の上からでも分かる、ある一点を凝視する。次に下を向き自身の体を見て、心の中で舌打ちをした。
下着の話になった瞬間、カリスはローコに絞め落とされ、床に転がされる。
「マスターって小さいのに胸だけは意外とでかいよねー」
「うらやましいです!」
「……ナトさんはそのままでも十分可愛いですよ」
マオを羨望の眼差しで見ているナトの頭をリリーは優しく撫でる。だが、その目はなんだか感情が入り混じった複雑なものだった。
その光景を見てローコはあることを思いついた。
そんなことをしていると話終わったのかカレンが三人の元へと近づいてきた。
「ちゃんと約束は取り付けたわ!完璧ね!」
「完璧からほど遠いものでしたが?」
なんであれで誇れるんだ?というのが会話を聞いていた者たちの共通認識だ。こんな調子では当日も不安でしかない……
そんなことを思うのは当然だった。なのでローコはある提案を口にする。
「とりあえず、カレン様は後で反省会があるとして……」
「え?」
「──当日はあーしたちが気づかれないよう尾行するんでヨロ」
「「「──え?」」」
◇◇◇
「先にマオさんの下着を見に行くようですね」
「なんだかいつもと違って会話が少ない気がします!」
「……恐らくデートということを意識しすぎて緊張しているのでしょう」
デート当日、マオに気づかれないよう少し離れた位置で、二人を尾行するリリーとナト。いつものメイド服ではすぐにばれるため、ナトはオシャレを意識し始めた年頃の子のような私服で、リリーは落ち着いた大人な洋装の服を着ている。
この尾行作戦……名付けて”オペレーション【ヘタレ】”は恋愛経験ゼロのカレンを他の四人が遠くから見守り、時折ジェスチャーやハンドサインでカレンへアドバイスを送り、デートを完遂させる作戦だ。ローコとカリスもどこか別の場所で二人を見守っている。
リリーはこの作戦をローコから聞いた当初、『そこまで必要か?』という疑問があったが緊張でへっぴり腰になっているカレンを見て、ローコが正しかったと認識する。
「はぁ……」
まったく、お嬢様のヘタレ具合には呆れてしまう……。今のマオさんなら押せば堕とせるでしょうにというのがリリーの本音だ。恐らくそれはローコとカリスも思っていることだろう。
すると、会話していたお嬢様が突然マオさんの手を取るようにして繋ぎ始める。おそらくローコさんたちの方で指示がありましたね。少し離れているので話している内容が聞こえないのが残念ですが。
「北区ではありませんが、手をつなぐことはできましたね」
「マオさんも少し楽しそうです!」
「このまま意識させていきましょう」
そう、まだまだデートは始まったばかりなのだ……
ランジェリーショップ内にて下着を吟味している二人。この店は王都の中でもかなりの品ぞろえを誇る店で、マオさんは種類が多くて悩んでいるようだった。
「ここはお嬢様に、マオさんに着てもらいたいものを選んでおすすめするようサインを送りましょう」
「分かりました!」
ナトさんがハンドサインを送ると、それを見ていたお嬢様がコクリと頷いて、下着を探しにいく。少しした後、マオさんの元に戻ってきたお嬢さまは上下セットの一着の下着を見せていた。
──普通より少し布面積の小さい、黒のセクシーな下着を持って……
「なんでこういう時だけ大胆になるんですか!?」
「声が大きいですリリーさん!気づかれちゃいます!」
しー!というナトさんの声と仕草で我に返る。いけません私としたことが……。ですがマオさんも持ってきた下着を見て赤面してますし…………いや?少しチラ見してますね? しかし、あれを着る勇気はないといったところでしょうね。ここはもう一つ下着をおすすめするようサインを送りましょう。今度は普通の可愛らしいもので。
結局、このあとカレンが持ってきた白の下着を購入して店を出た。
◇◇◇
目的のカフェの席に着きメニューの書かれた冊子を開く二人。開店して間もないからか店内はかなりの人で混みあっていて、席に着くまでもそれなりに時間がかかった。
店内に入れば高確率でバレるため外で二人を見守る尾行チーム。二人の座っている席は外がよく見える窓側の席であり、サインも送りやすくちょうどいい場所だった。
「メニューを見てるマオさんが目を輝かせてますね!」
「そうですね……、ほう、マオさんが楽しそうにお嬢様に話しかけています。予想外の展開ですが悪くないですね」
外から見る光景では二人とも楽しそうに話をしていた。やがて頼むものを決めたのか、店員を呼び何かを注文した。店員が去った後も自然と会話が弾んでいる。ここは私たちの出番は必要ないかもしれませんね。
メニューが運ばれてくるまでの時間をただ見守るだけになりそうですね……と思っていた私の目にあるものが飛び込んできた。
「! ナトさん少々ここで二人を見といてください。くれぐれも一人で動かないように」
「? はい!分かりました!」
私は急いで目についたもののところへ向かう。たどり着いたのはある露店、横断幕のような看板には『クレープ』という文字が書かれていた。
「すみません、クレープを二つお願いします」
「はい、承りました!」
注文を終えるとすぐに生地が焼かれている匂いが私の鼻をくすぐる。私が頼んだのはオーソドックスなイチゴと生クリームのクレープだ。このコンビのクレープを嫌いな女の子は恐らくいないだろう。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます」
店員からクレープを受け取るとすぐさまナトさんのところへと戻る。ナトさんには出来立てのものを味わってほしいですからね。
「おかえりなさいリリーさん! その手に持っているものは……?」
「クレープです。どうぞ」
「いいんですか! ありがとうございます!」
ナトさんが初めてクレープを頬張った瞬間、目を輝かせた。
「すごくおいしいですコレ!」
「それはよかったです。口に生クリームが付いてますよ」
私はナトさんの口端についた生クリームを指でとる。そして何か拭き取るものを用意しようとしたそのとき……
「!? ナトさん!?」
「? どうかしましたか?」
リリーの指についた生クリームをぺろりと舐めとるナト。この行動には、いつも無表情のリリーも流石に狼狽えたような顔になる。
「えへへ……おいしすぎてつい……」
「くっ……」
恥ずかしそうに笑うナトの可愛さに胸を押さえるリリー。目の前の可愛いの化身はどれだけ自分を振り回すのかと内心思っていた。
そのあとリリーは他の人には絶対にやらないようナトに言いつけた……
カフェで楽しいひと時を済ませたマオさんとお嬢様は、そろそろ屋敷に帰宅するようだ。三段重ねのパンケーキを見て、テンションが上がっていたマオさんは意外でしたね……。お嬢様もそれを見て楽しそうに微笑んでいましたし、今回のデートは大成功ですかね…………と思った矢先。
「ねぇ、キミ一人?この後暇なら一緒に遊ばない?」
「あはは、待っている人がいるので大丈夫です~」
「へぇー、それって女の子?ならその子も一緒にさ」
「リリーさん!男の人たちがマオさんに話しかけてますよ!」
「明らかにナンパですね……」
ここのカフェできたばかりですし、内装もオシャレな感じですから……女性客が多いんですよね。ざっと見た感じ、八割くらいでしょうか? まぁ、そうなると店から出てくるところを狙ってナンパしようとしてくるやからもいますか……
マオさんも迫ってくる男二人に対し、笑顔で対応してますけど、あれは外面を作ってるだけで内心イラついてるでしょうし。まぁ、あのようなやからを変に刺激するのはよくなさそうですし。
「会計中、マオさんが外で待っている間にこうなるとは」
「ナトが行って追っ払ってきましょうか!」
「それだと尾行してたことがバレますし、ナトさんも一緒にナンパされるんじゃないでしょうか?」
「じゃあ、どうしましょう?」
「それなんですが……おそらく大丈夫ですよ」
「?」
ナトさんが首を可愛く傾げていますが、もうそろそろ……
そんなことを思っていると会計を済ませたお嬢様が店から出てきた。お嬢様は男二人に詰め寄られているマオさんを見て、一瞬で状況を理解したのかその間に割って入る。
「私の連れになにか用かしら?」
「あ……」
「!?」
「お!こっちの子もいいじゃん!キミも一緒にどう?」
「おいバカ!やめとけ!」
男の一人はお嬢様のことに気づきましたか。顔が青くなってますね……まぁ、お嬢様は街の治安維持の仕事もしてますから。
「どうしたんだよ?一人は美人だし、もう一人は胸がけっこうでけーぜ?ナンパ成功すれば宿に連れ込むことだって……」
「知らねぇのかよお前!この人はな……」
「二人で話してないで、私の質問に答えてくれるかしら?」
「!? いえ!なんでもないです!じゃあオレたちはこれで……」
「あ! おい! 押すなって!」
男二人はそのままどこかへ行ってしまった。これで懲りてくれたらいいのですが……
「ありがとカレン」
「別にいいわよ。あなたを一人にした私のせいでもあるんだし」
一時はどうなるかと思いましたが、無事に帰路につけそうですね。
「リリーさん!こうなるって分かってたんですか!」
「えぇ、まぁ。お嬢様は自分のものに手を出されるのがキライですから」
あういうムーブを無意識にできますのに……。もしかして変に見栄とか張らずにいれば、今頃付き合えてたのでは?
そのままお嬢様たちは屋敷に向けて歩き始めた。行きのころとは違い、二人は楽しそうに会話を広げている。
私たちも屋敷に戻るためローコさんたちと合流しようと声を発しようとしたとき、ナトさんが帰路につく二人の後ろ姿をじっと見つめていることに気づきました。
「どうかしました?」
「!! いえ、もしかしたらいつかナトもあんな風に楽しそうにデートするのかと思いまして!」
「!」
ナトさんの発した言葉はいたって普通なことでした。いつか好きな人と出会い、デートする……それはナトさんにとっていいことだというのに、なぜか心が締め付けられたような感じが……
(今のは……)
「あれ?でも待ってください?」
羨望の眼差しをしていたナトさんが今度は何か気づいたような声をあげる。
「リリーさん、デートって二人きりで楽しくお出かけすることですよね?」
「えぇ、大まかにはそうですね」
「じゃあ、今日はナトとリリーさんが一緒にデートした日ですね!」
「!!」
ナトさんの言葉に思わずハッとしました。確かに今日一日は普段と比べてもナトさんと共に行動し、ましてや一緒にクレープを楽しむなんてこともした。これはデートしたと言って過言ではないのでは?
「そうですね、デート楽しかったですね」
「はい!」
二人のデートで……主にお嬢様の行動にため息やら考えることが多かったですが……これでチャラということにしましょう。
──今日の公爵家の夕飯は少し豪華だったという……
◆◆◆
おまけ
リリーとナトの会話を気づかれないよう見守るローコとカリス
「なんとか一歩前進てとこかナー」
「あっちの二人はおたがいに恋愛感情に気づいてないっぽかったからねー。その点カレン様の方がまだマシ」
「そうだな……話は変わるんだがナトが言ってたように二人きりで出かけることをデートと呼ぶならば、わたしたちも「ん?」冗談だからライフルを突き付けてくるのはやめてほしいナー」
「いやー、命いらないのかと思って。それにデートじゃなくてペットの散歩だしー」
「わたしペット扱いなのか!?」
「なんかそれっぽい角あんじゃん?」
「出かける時は帽子で隠してるだろ!?」
ちょっぴり傷ついたカリスであった……
ナンパした男二人は魔女たちに顔を覚えられたので、覚悟しといたほうがいい……
次回から第三章に入っていきます!




