エピローグ
第二章 最終話です!
イースの里襲撃事件の二日後、私たちはカロン王国へと帰還した。公爵家に着いた瞬間、なんかめちゃくちゃ安心した。イースの里では色々なことがあったからね……。
結局、当初の目的だった残り火についてはなんも分からなかったらしい。今年に入ってから被害が頻発する原因も分からずじまいだった。というか復興作業でそれどころじゃなくなった。
だけどアゼ人と魔導人形たちが手を取り合って作業しているから元通りになるまでそう時間はかからないらしい。お互い友好的な関係を結べているようで、あのライアーっていうアゼ人の思惑通りになった。
カロン王国に帰還し、各々の日常へと戻った私たち。でも公爵家だけはイースの里に行く前と後で日常がだいぶ変化した。
「マスタ~、廊下の掃除おわったよー」
「手伝ってくれてありがとローコ」
「マスターの頼みならいくらでもやるっしょ」
モップを手に持ったローコから清掃終了の報告を受ける。……うん、ちゃんとできてる。そういえば給仕とかできるって言ってたから、家事全般のことは頭に入ってそう。
一つ目の変化はローコが来たこと。まぁ、カレンに雇うよう交渉したからね。それでも深棲獣との戦いが終わった後、改めてどうするか聞いたけど、私についていくって意思は変わらなかった。
いまはメイドとしての業務を私が教えてる最中。ほんとはリリーさんがするんだけど、ナトちゃんと一緒に治癒した怪我の経過観察のためにルトさんのところに行ってるから、今は屋敷にいないんだよねぇー。
さて、あと一つだけ変わったことがある。それは……
「じゃあ、今日は私がカレンにお茶を淹れる日だから一緒に行こっか」
「りょ~」
◇◇◇
私はローコと共に廊下を歩いていく。行先はもちろん書斎。私の後ろをついてくるローコの手にはトレーが握られており、その上にはティーポッドと空のカップが二つ。
「入るよカレン」
「いいわよ」
書斎の扉のまえでノックをすると、中からカレンの声が聞こえてきた。入る許可を得て中へと入るとそこには、溜まりに溜まった書類の山と少し疲れた顔をしたカレンがいた。
イースの里へ向かう前、書類はある程度余裕をもって終わらせていたけど、一週間以上家を空けてたわけだしね。
「あぁ……もうそんな時間だったのね……」
「お疲れー、ストレート? ミルク?」
「ミルクの甘さ控えめで」
私は慣れた手つきでお茶を淹れていく。すぐに完成したミルクティーをカレンへと提供する。入れてる途中、ローコがまじまじと見つめてきて、少し気になったけど。
「にしてもすごい量じゃん、これ」
「書類のこと? まぁそうね……彼がいなかったら徹夜することになってたかもしれないわね」
カレンが視線をずらすとそこには、イースの里に行く前にはなかった一つの机とそこへ突っ伏す一人の青年。生気のない顔をしている彼の頭には龍のような角が生えていた。
「”カリス”もお疲れ。何か飲む?」
「ストレートで……なんでもいいから水分が欲しいナー……」
私が要望通り提供すると、カリスはすぐさま一気飲みしてしまった。公爵家の関係者としては、はしたない行為だけど、知っている顔ばかりの空間では咎める者は誰もいない。
「ぷはっ! 生き返るんだナー!」
「おかわりもいる?」
「ン、もらうんだナー」
「そんな疲れたんだ……」
「当たり前なんだナー。書類の見方と捌き方だけ教えられて、あんな量渡されたらそうなる……」
「でも、少ししたら覚えて捌けるようになったじゃない。ミスも初日にしては、かなり少ないほうよ」
へぇ~、カリスって意外と書類仕事とか得意そうなんだ。まぁ、基本的にアゼ人は頭のいい亜人だからかな?
ところでなぜカリスがウチにいるのか? それはカリスが【調査員】になったからだ。
【祭壇】の謎が解明されたことで、研究対象を失ったカリスは自ら【調査員】へと志願した。なんでも新たに好奇心を刺激するものを見つけたんだとか。あの襲撃事件で【調査員】の一人が亡くなったからその代わりにカリスが任命されることになった。アードゥルさんはこいつで大丈夫かなぁ、みたいな顔してたけどね。
【調査員】に任命されるまではよかったんだけど、一つ問題が出てきた。それはカリスがカロン王国で住む場所についてだ。亡くなった【調査員】がカロン王国の担当ならその時に滞在してた家を引き継げばよかったんだけど、和道国の担当だったらしく住む家がないこと気づいた。
カリスはそのあと、土下座して仕事を手伝うという条件で居候させてほしいとカレンに懇願した。あの時のカレンの変なものを見る目は今でも覚えてるわ。結局、アードゥルさんも一緒に頭を下げてくれたことでカレンがしぶしぶ了承した。
「そろそろ休憩も終わりよ。夕食前までには終わらせるわよ」
「ヒエーッ!?」
すでに二人のカップは空になっている。書類の束はまだまだ積みあがっており量がうかがえる。そりゃ、カリスも白目剥きそうな顔になるわ。
二人は再び机に向き合い、書類とにらめっこし始める。……多分、これからはカリスが仕事を手伝うことになるから私が手伝うことはなくなるんだろうなぁ……。そう思うと少し寂しいように感じた。
使い終わったカップとポッドを洗おうと厨房に向かっている途中、ローコから話しかけられる。
「マスターはカレン様のこと好きなん?」
「ぶっ!?」
危ない、トレー落としかけたわ! ていうか急にぶっこまないでくれる!?
「えーと、その……まだわかんないかな」
私が考えに考えた結果がこれだ。だってまだ恋とかしたこともないし……、というか前の世界ではそんなこと考える暇もなかったから。
(なら私を恋人に見立てて練習しないかいマオ?)
ナチュラルに心読まないでソティス。
(待ちな、ならあたしの方が適任だろ!)
(いいえ、ここは私が……!)
(仮にも元シスターが恋愛はどうなのよ。ここは私に任せることね)
(お母さんわね~、マオちゃんにはまだ恋人は早いと思うの~)
私の恋愛と聞いて魔女たちがうるさくなり始めたから無視する。こうなると長いんだよねー。
「へぇ……」
私の返答を聞いたローコは顎に手を当てて何か考える。その間もずっとニヤニヤしていた。
「意外と同性間の恋愛に忌避感がないんだー……。それに無意識に……」
「ん?なんか言った?」
「や、なんでも。あー、でも」
ローコが私に近づいてきたかに思うと、耳元で囁かれる。
「――もしマスターの相手がいなくても、あーしはずっと一緒だよ? なんならあーしがもらってあげるから」
「はえ?」
「ほらマスター行くよー。まだ仕事残ってるっしょ?」
そう言いながらローコは固まっている私を追い越していく。今のはそういう……
結局、ローコの発言を飲み込めず、私が再起動するまで数分かかってしまった。そんなこともありながら、公爵家の新しい日常が過ぎていく……
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
小さな光源しかない、薄暗い部屋で紙をめくる音だけが聞こえる。机とソファが二つしかなく、壁もどこにでもあるようなシンプルな色合いの部屋で本を読む一人の青年。
見る人によっては女性だと勘違いしそうな中性的な顔立ちであり、どことなくミステリアスな魅力を感じさせる。そんな彼は本を読みながら楽しそうな笑みを浮かべている。
「ハハハ、やっぱりこの本の記録はボクの推測の裏付けになる」
ナイラが読んでいる本の題名には”カロン王国建国の歴史資料”と書かれており、ナイラたちがイースの里で写したものである。その本はカレン達がアードゥルさんと共に【トナコ】で読んだ、”最悪の魔女”が起こした魔女事変について書かれている本だった。
「それにまさかこんなとこでキミの名前を見るとはね」
ナイラの目線はある一点に釘付けになっている。――アザト・マオという名、その一点に。
「ハハハ、キミはいったいどういう存在なんだい?【魔女】?それとも過去に死んだ人間が蘇った?はたまたただの別人?」
興味が湧くどころではない。頭の中に興味しか存在しないような状態に笑いが止まらない。
そんな笑い声が響く部屋に近づく足音。その足音はどすっどすっという床を力強く踏みしめるような音で、早歩きしていることが分かる。やがてその足音の主が扉を乱暴に開けながら部屋へ入ってくる。
「おい、我にイースの里の資料のことを黙っているとはどういう……なぜ笑っている?」
「ああ、グラーキくんかい。ただ少し面白いことがあってね」
殺意すら感じさせる顔で入ってきたグラーキが、開口一番怒鳴り散らそうとしたが、一人笑っているナイラを見て怒りよりも困惑が勝った。
「理由を答えろ」
出鼻をくじかれたグラーキがそのような言葉を口にするのは予定調和のように感じられた。
「いや、マコトくんを倒した一人である”アザト・マオ”という少女の名がなぜか昔の歴史書に「――アザト・マオだと?」」
グラーキくんがボクの説明をぶった切るよう言葉を放つ。グラーキくんは世俗のことはあまり情報を仕入れないから、初めは珍しい名前に引っかかったのかと思ったけど、その顔はどちらかといえば驚きに近かった。どうやらボクの予想は違うらしい。
「なにか知っているのかい?」
「フン、なに――――二百年前に使った実験体の中にその名前の女がいただけだ」
その言葉を聞いた瞬間、ボクの口角は最大まで吊り上がった。
「――その話、詳しく聞かせてよ」
第二章終幕です!まーた謎が増えたよこの主人公……
にしても二章は長く感じました……。ほんとはもっと投稿ペースを上げたかったんですが、執筆する時間が削りに削られるわで……。前みたいに三日に一話ぐらい投稿できるようになるにはもう少し待ってください。
あと閑話は一話か二話にするか迷ってます。まぁ、今回出さなくてもどこかのタイミングで投稿すると思いますが。




