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魔女と王国と声変わり  作者: 睦月はくろ
第二章 イースの里編
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似て非なる者たち

「なんだろう…………あの魔物」


 結界の核を修復した直後現れた深棲獣にルートは目を見開いて驚いていた。リリーほどではないにしろルートは普段あまり感情が顔に出ない。それがこの異常事態の度合いを表していた。


「…………行かないと」


 深棲獣を一目見て、放っておけば里に深刻な被害が出ると一瞬で判断したルートは、深棲獣のもとへと向かおうとする。その途中、結界の核の修復のために一度切っていた、魔力感知を発動させた。深棲獣の姿は遠目でも見えるほど巨大で本来、魔力感知をしなくても位置は分かるのだが、他の場所の状況を把握するためにルートは魔力感知を使った。


 結構な距離が空いているというのに深棲獣の魔力をひしひしと感じる。別に他のところの魔力が少ないとか動いていないわけではない。むしろ衛兵のアゼ人たちや襲撃者たちが魔法を行使しながら戦っていることで空気中の魔力の量は普通より多くなっている。だが深棲獣の持つ独特な魔力と膨大な量の前にはかすんでしまっていた。


 しかし、ルートが一番気を惹いた魔力は深棲獣のものではなかった。


(!…………この魔力……)


 特別気になるような魔力ではない二つの反応……だがルートにとっては夜空に輝く一番星のように目立っていた。それはルートにとって絶対に忘れることがない魔力……王城に侵入した者たちの魔力だったからだ。


 今の状況的に優先度が高いのは深棲獣を何とかすること。氷の壁が出現したのを確認したことから最低でもウェンが対処にあたっていることは間違いないが、それでもあの魔物は他の魔物と比べて規格外である。いち早く応援に行くべきだ。

 普段のルートであればそのように判断したであろう。だが……胸がざわざわする。自身の第六感が【トナコ】へ向かえと体中に伝令する。


「…………一体むこうに、”なに”がいる……」




~~~~~


 目の前の敵は何を言ってるのだろう?


 ナイラの一緒に来ないかという言葉に対してカリスが思ったのは至極当然の疑問であった。


 相手の真意を読み取ろうとナイラの顔を見つめるカリスを意に介さずにナイラは話し続ける。


「キミの記憶力と予測する力は素晴らしいものだ。恐らくアゼ人の中でも一、二を争う。ぜひともウチでその力を発揮してほしくてね。それに……」


 ナイラは一拍置くと……


「キミとボクは似ている」

「は?」


 思わず声が出てしまった。似ている? わたしと目の前の賊が?


「好奇心の塊、気になったことにはとことん突き詰める。そのために必要なことはどんなことでもやる」


 ……いま奴が言ってることは正しい。わたしの好奇心を刺激したもの……【祭壇】。約千年の間、一度も開かれることなく、唯一残っていたのは里に危機が迫った時に開かれるという言い伝えのみ。あまりの謎の多さにわたしは好奇心をどうしようもなく揺さぶられた。まぁ、謎が解けた今、過去のことだが……。わたしは【祭壇】の入り口を開くためになんでもやった。そう、すべて正しい……


 ……だが


「キミとボクは同類だ。どうだい?ボクと一緒にこれからの世界をおもしろおかしく動かしていかないかい?」


 ――やっぱりこいつとわたしは全然違う。


「”ゾルフィン”!」


 ナイラの提案にカリスは魔法をもって返事をする。空気を切り裂いていく風の刃は吸い込まれるようにナイラへと向かうが、またしてもオドの大鎌によって弾かれる。


「断る……ってことでいいのかい?」

「当たり前だナー。それに君はわたしのことを何も分かってない」


 わたしは覚えている……初めて【トナコ】の中へと入った時を。数えることなど馬鹿らしいと思う程の本の量に気圧され、気になった本を片っ端から取っては読む。ページをめくるたびに動いていく歴史や知らないことだらけの知識の塊に心を踊らされた。なぜ偉人たちはこの行動をしたのか? なぜ王はこの判断をしたのか? なぜ民はこの王を慕ったのか? 一日中、考察にふけった。それがどうしようもなく楽(・)し(・)か(・)っ(・)た(・)んだ。


 わたしは別に世界を自分の手で動かしたいなんて思っていない。そんなものは物語の主人公みたいな奴がする。わたしはただ知りたいだけ、考察していたいだけ、歴史が動いていく様子を観察していたいだけ……歴史にわたしの名などいらない。


 ――わたしは一般人(エキストラ)でいたい。


「未来なんて既に決まっているものだナー。わたしたちは起こった事象から正しい事実とそれに関わった意思を読み、記録し、生まれた謎を解き明かしていくだけだナー」

「……なるほどなるほど、キミとボクは相性がどうしようもなく悪いのか」


 一瞬、ナイラは意外そうな顔を浮かべたが、すぐにいつもの考えが読めないニコニコした笑顔になる。勧誘を断られたとは思えないその反応に、カリスは不気味なものを覚える。


「ところで気づいているよ」

「なんのことだナー?」

「キミが時間を稼いでいることに」

「!」


 わたしと同じでこいつらのうち、どっちか、はたまた両方とも魔力感知が使えるのか! ということはわたしの狙いも分かっている! 今コッチに向かっている人のことを!


 カリスは複数の攻撃魔法を展開し、それを二人に向かって放つが躱すか、魔法によって相殺される。くそっ!手数を増やすために複数の魔法を放つと、一個一個の出力が落ちてしまう。かといって強力な魔法を使おうとすれば隙をさらすようなものだ。


 カリスが焦る思考を加速させて、どうすればいいか考えていると、ナイラがあるものを取り出した。それは、バートが持っていた転移の魔道具と同じもので、すでに起動されていた。


 今にもナイラとオドを結界の外へと転移させようかというときに、三人がいる部屋の窓ガラスが割れる。そこから姿を現わしたのは……


 ――カロン王国最強の騎士団長であった。


 カリスは頼もしすぎる援軍の登場に心躍らせ、ナイラとオドは今一番来てほしくない人物の登場に冷や汗を浮かべる。三人は現れたルートがどう動いてくるか、一切の視線を外さずに見ていたが、ルートの姿が一瞬ブレたかに思うと姿が消える。次の瞬間にはナイラの懐へといた。


「!? ナ(・)イ(・)ラ(・)様!」

「……っ」

「……!」


 今にも剣がナイラへと振り下ろされるというときに、オドの切羽詰まった声が部屋に響く。ルートの動きに反応ができていなかったナイラは急に目の前に現れたルートに驚愕のあまり目を見開く。


 一方でルートはもう一人の敵が言った名前に気を取られてしまった。その名前は自分がよく知っている名前……ある日を境に家に帰ってこず、姿を消した家族の名前……。ルートは今、自分が剣を振り下ろさんとしている相手の顔をよく見る。……似ている、中性的で整った顔。記憶にある弟の顔にそっくりだったことにルートの剣はわずかに硬直する。

 その一瞬が明暗を分けた。オドがナイラをかばうようにして一緒に床を転がる。振り下ろされた剣はオドの背中に斜めの傷をを作り、血を垂れ流させる。しかし、どう見ても致命傷とまではいかない傷であった。


(速い! 私の混合魔法(デュアル)が間に合わなかった!)


 背中が痛むのを感じながらオドは内心ヒヤヒヤしていた。あの一瞬の硬直がなければ確実に自分は死んでいた。


(…………速い。それに大鎌と魔力の質からしてハウンド陛下が戦ったローブの男……)


 一方でルートも自身の攻撃に反応することができたオドに驚いていた。


 ルートが二人を捕らえようと次の攻撃をおこなおうとしたその時、ナイラとオドにとって待ちわびたことが起こる。ナイラの手に持っている転移の魔道具が光を放つ。ようやく魔道具がその効果を発揮し、二人を結界の外へと転移させる。


「またね、お兄様」

「!」


 その言葉を残して……


 ナイラとオドが転移した部屋にてその場で立ち尽くすルート。その表情はどこか暗いものであった。


(…………あれはほんとに……ナイラなのか?)


 弟と敵として再会したことに信じたくない思いでいっぱいだったが、転移する瞬間の言葉とナイラの顔がルートの目に焼き付いていた。


(そんなはずは……だってナイラは……)


「ルートさん!!」

「!……どうしたの?」

「どうしたじゃないんだナー!早くあの魔物を止めに行かないと!」


 カリスの深棲獣を指さしながらの発言にハッとするルート。そう戦いはまだ終わってないのだ。


「…………僕たちも急ごう」


 皆が戦っている深棲獣のもとへと向かうべく【トナコ】から二人は走り出す。ルートのスピードについてこれないのかカリスは後方に位置して走っていた。走っている途中、ルートはナイラのことがまだ頭に残っていた。切り替えるべきだとは頭では分かっているのだが、どうしても引っかかる部分がルートにはあったのだ。


(…………あのナイラが持つ魔力は王城で洗脳のデュアルを使っていた奴の魔力と同じだった……。でもナイラは――魔(・)法(・)を(・)使(・)え(・)な(・)い(・)はず……だよね)




◇◇◇


 イースの里から少し離れて森の中へと転移したナイラとオド。目の前にはバートとシモンがいる。別の転移魔道具で逃げて来たのかな?


「やぁ、ナイラくんたちも転移してきたのかい?」

「そうだね、ルート・ホープに見つかってね。いやー、危なかったね。肝が冷えたよ」

「私は背中が熱いですよ……」


 しばらくの間は我慢してほしいかな。ここに留まり続けるのもよくはないし……安全が確保できたら手当してあげるから。


「にしてもこの転移の魔道具はすごいね」

「フフ、まぁこの天才の作品だからね。当然さ」

「お前のはまがい物だろう。それなりに問題と制限があるが?」

「まぁ、そこは今後の課題さ」


 四人は話しながら森をあとにしていく。


(さて、このあとのことが見れないのは残念だけど、どうなるのかな? 深棲獣を相手に)


 いまだイースの里めがけて、暴れている深棲獣を背にナイラは内心ほくそ笑むのだった……






深棲獣を転移させた魔道具はじつはサラが作った魔道具です。それをバートが模倣して作ったのがナイラやシモンたちを転移させた魔道具です。


サラが作った方は

・座標さえ登録できればかなり遠い距離まで転移させることができる。

・深棲獣ほどの大きさのものでも転移が可能。

・発動に時間がかかる。

・魔力を馬鹿みたいに貯めないといけない(人一人が十年ほど貯め続けないといけない量)。


バートが作った方は

・短い距離でしか転移させることができない。

・大きさも人間二人ほどしか転移できない。

・発動に時間がかかる(サラの転移魔道具より時間がかかる)。

・魔力を貯めないといけない(人一人が三年ほど貯め続けないといけない量)。


 というほぼほぼ下位互換な性能です。でもこれ、サラがおかしいだけで劣化でも転移の魔道具を作れるバートはガチの天才です。


次回から深棲獣との戦いになります。いよいよ第二章も終わりですね~。

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