炎のデスマッチ
”ドム~~~”・・・六属性の内どれかを用いて、ドーム状に壁を作り出す魔法。ウォル系は一方向にしか壁を作れないけど、ドム系は全方位に対応できる。が、その分消費魔力も多く、発動難易度も高い。
剣と魔法の応酬、敵に向かって突撃する者、この戦乱で命を落としたアゼ人から角を切り落とす者たち……。まだまだ戦いが終わる様子がないイースの里の空を駆け抜ける一匹の虫。イースの里ができて以来、最悪な出来事を起こした一番の立役者であるシャンはこれからのことに胸を躍らせていた。
(この速度ならあいつらも追いつけねぇだろ。さーて、角を売りさばいたら何をするかな?女を買ってもいいし、なにより酒だな酒。オレのコレクションに欲しい酒があったんだよなたしか)
シャンがアゼ人のシンを見つけたのはただの偶然であった。たまたま隠されていた角を見てしまったシャンの行動は早かった。当初、シャンはシンの滞在していた家へ忍び込み、シンを殺して角を切り落とそうと考えていた。だが、シンを気絶させた後、部屋を物色している時に調書を見つけたシャンは【調査員】のことやイースの里の存在について知った。
これは使えると思った時にはすでに行動していた。先ずはシンを生け捕りにして寄生した。シャンが【ヒュドラ】においての仕事は潜入などの主に斥候としての役割だった。自らの役割を考えた結果、シンの体には襲撃をかける前にイースの里の下見などに使えるためまだ利用価値があったのだ。シャンの【寄生】は宿主となった相手の脳に寄生し、宿主の体を動かす。しかし、脳に寄生するといっても宿主の記憶を見ることはできないため情報収集は必要なのだ。まさか、この判断が里の厄介な結界を素通りできることにつながるとは思わなかったが。
度重なる幸運にシャンは調子に乗っていた。今回もうまくいくだろうという根拠のない自信をもって。
ゴオォォォォ……
「あん? 何の音だ?」
緑豊かなイースの里において、とても似つかわしくないような音がシャンの鼓膜を揺らす。その音は後ろからどんどんと大きくなって、こちらに近づいていることが分かる。たまらず後ろを振り返るとそこにいたのは……
杖の先から炎を吐き出し、凄まじい勢いで空を飛ぶカレンの姿があった。
◇◇◇
(見つけた!)
小粒程度の大きさだが、それでもシャンの姿を確認したカレンは次の一手を考える。
この移動方法はローコが機械の翼で空を飛んでいるのを見たカレンが自身の技術で再現したものだ。といってもこれができるのは”炎”の魔法に関して天才的な技術を持つカレンだからこそできた荒業である。カロン王国でこれができるのはカレンを除けばルートくらいだろう。
だが、この炎を吐き出す移動方法には魔導人形たちの機械の翼と違い、細かい操作が一切きかず、一直線にしか進めないというデメリットがある。しかも、空を飛んでいるカレンの速度は現代の自動車をゆうに超えており、無理やり方向転換でもしようものなら制御を失い地面に激突することはカレンが一番分かっていた。そのためシャンと追いかけっこをするのはリスクが高いと判断したカレンはシャンの動きを止めようと画策する。
(だけど、あの大きさと速度の相手に魔法を当てるのは難しいわね……。なら……当てなければいっか)
カレンはシャンに向かって火球を何発も放つ。だが、そのどれもシャンの横を素通りするような軌道であり、回避行動をとらずとも外れていった。
「ハッ!ノーコンが」
シャンの鼻で笑う声がカレンの耳に入るが、そんなことはどうでもいい。なぜならすでにシャンは逃げられなくなったのだから。
シャンの進行方向に着弾した火球が炎の壁となり行き先を阻む。いや、それだけでない、他の場所に着弾した火球もカレンとシャンを囲うような炎の壁となる。
「!?」
突如できた炎の壁に突っ込まないようシャンは急停止する。カレンが放ったのは”ヒータ”でなく”ウォルヒータ”であった。”ドムヒータ”ではシャンの飛ぶ速度では回避行動をとられると捕まえることができないと考えたカレンは”ウォルヒータ”を”ヒータ”のように偽装し、シャンの油断を誘った。かくして、ここにシャンとカレンの戦うリングが形成された。
「チッ、まずいか?……ってお前ひとりだけかよ。ルート・ホープがいないんなら楽勝だな」
この炎のリングにカレンしかいないことに気づくとシャンは嘲るような声をする。その声は完全にカレンのことを舐めている証拠であった。
ふーん……言うじゃないこの虫。その舐め腐った性根を叩き潰してあげるわ。
「なんなら、お前を新しい宿主にしてもいいかもしれねぇ……なぁ!」
カレンの怒りのスイッチを押したことに気づいていないシャンは左右に飛んで攪乱しながらカレンへと接近する。そして、巻き髭の部分が青白い光を放ちながら触手のように振るわれる。
「それ、そうやって使うものだったの?」
巻き髭の意外な使い方に驚いたものの、カレンは体を捻って触手を回避する。だが、触手の猛攻は止まらずカレンに向かって絶え間なく襲い掛かってくる。
(余裕そうに振舞ったものの、あの青白い光……なにかありそうね)
触手の連撃を躱しながらカレンは相手の分析をおこなう。相手の混合魔法が初めて見るものである以上、警戒は怠ってはいけないのだ。
顔目掛けて振るわれた触手を反らして躱したと思うと、今度はシャンがその自慢の速度を活かして突っ込んできた。狙いは……顔?理由は分からないけど、やっぱり顔を執拗に狙ってくるわね。
シャンの突撃をどう躱そうか考えていたカレンは突如、後ろから魔力を感知した。振り返るとそこには水で出来た矢がカレンに迫っていた。
(! ”スローエリアル”!虫の状態でも魔法を使えたのね)
カレンはこの戦闘が始まって以来、初めて驚きをあらわにした。カレンの魔力感知はルートのように万能ではなく、感知できる範囲も少し狭い。後ろから迫りくる水の矢はカレンのすぐそばまで迫っていた。
前からはシャン、後ろから魔法による攻撃……挟み撃ちとなるような攻撃にカレンは……
「――”ウォルヒータ”」
「!?」
私の背後から炎の壁が出現する。迫っていた水の矢は炎の壁へと衝突し、そのまま蒸発した。炎で私たちを囲うときに放った”ウォルヒータ”を一つ発動せず残していてよかったわね。まぁ、これで前に集中できる。
シャンは挟み撃ちが失敗したのを確認すると、突撃をやめ、カレンから距離を取りながら触手で攻撃してきた。だが、そのどれもカレンが手に持っていた杖ではたき落とし、その肌を傷つけることはなかった。
「チッ……」
「中々ヒヤヒヤさせるじゃない。にしてもあんた、顔ばっかり狙ってくるわね」
「……当たり前だろ。顔狙われたら誰だって怯んだりする」
「嘘ね。あんたの混合魔法、多分口から侵入しないと寄生すること出来ないんでしょ」
最初に寄生してたアゼ人の人から出てくるとき、あいつは口の中から出てきた。それに小さいとはいえ、小鳥くらいの大きさの虫が人間の体に入れるところなんて口ぐらいしかない。だから顔ばっか攻撃してきたんじゃない?口を開かせるために。
カレンの予想にシャンは無言で返すしかなかった。図星であった。シャンが相手に寄生するには口から中に入ることが条件だったのである。
炎のフィールドの中、互いがにらみ合う。
(やっぱりこいつ……あんま戦闘慣れしてないわね)
私は心の中でシャンに対する評価をつける。確かにこいつの混合魔法は強いけど、私の読みを聞いたときとぼけるんじゃなくて黙ってしまったり、あの挟撃だって私の位置をよく見れば、火球が着弾した場所の近くだと気づけたはず。
(たぶん、デュアルが強いばっかりにそれ一辺倒になっているのね……。まぁ、なんにせよアレを試すにはちょうどいいわね)
にらみ合いが続く中、カレンは不敵な笑みを浮かべるのだった……




