二つ目の太陽
マコトに一対一で勝てなかったあの日、マオとリファが来なかったら私は今頃この世にはいないでしょうね。最近はデスクワークばっかりだったからね……学園で魔法を鍛えてた時と比べて勘が鈍っていたとは思う。といってもそれは言い訳にはできないけど。
だから仕事の合間を縫って、失った勘を取り戻すことにした。時折リリーと手合わせをしながら、徐々に失った勘を取り戻していくと、一つ分かったことがある。――失った勘を取り戻すだけじゃ、マコトには一生勝てない。それぐらい私とマコトの間には埋まらない実力差があった。
この実力差を埋めるためには……――私の混合魔法【太陽】を一段階進化させる必要があった。
自身とシャンを囲っていた炎を解除する。
「あん? どういうつもりだ?」
逃げ道を用意するかのような利敵行為にシャンは疑問を投げかけてきた。まぁ、普通に考えればそうなんだけど、この魔法は制御が難しいから同時に使用し続けるのはあまりしたくないのよね……。それにあまり意味ないし。
「あんたなんにも気づいてないのね」
「なにがだよ」
「なんで私があんたの攻撃に反撃せずに防戦一方だったと思ってるの。魔力を練ってたに決まってるじゃない」
私が杖を天高くに向けると、杖の先端から一つの火球が浮かんでいく。それは一定の高さまでくると浮かび上がるのをやめ、膨張、膨張、膨張……膨張を繰り返し、周りに炎や紫外線、電磁波をまき散らす。すでに二人の近くの気温は40℃を超え、まだまだ上がっていく。見ているだけで暑くなりそうな炎の塊にシャンは汗を垂らす。やがて火球は直径五メートルほどの大きさで膨張をやめた。宙に浮かびながら、周りを目で直接見えない程の眩しさで照らす、それはまさに……
「ちっちぇ……”太陽”……」
――イースの里に二つ目の太陽が昇った。
「……その太陽をオレにぶつける気か?」
あの太陽を放たれたら直撃せずとも広範囲を焦土と化すのは明白だった。それではシャンの自慢の速度も意味をなさない。
少しの焦りを含んだシャンの言葉にカレンは首を横へと振る。
「馬鹿ね。そんなこと自然に囲まれてるイースの里でしたら、里自体がなくなるわよ」
今だって私が制御しなくなったら上がり続けていく温度で木々を燃やしていくことになってるでしょうし。というかこの”疑似太陽”を放つことは今の私の力量じゃまだできないのよね。
じゃあ、この”疑似太陽”はただの置き物かといわれるとそうじゃない。この”疑似太陽”が昇っている時にしかできない魔法があるのよ。
「”炎の精”!」
カレンが魔法を唱えた瞬間、陽炎のように辺りの空気がいくつも揺らめく。次第にその陽炎たちは色と形を持っていく。カレンと瓜二つの姿をした陽炎たちがシャンを取り囲むようにその姿を現わした。
「ハァッ!? 分身!?」
その姿を見たシャンは驚愕の声をあげる。囲まれたと思ったシャンは急いで巻き髭を何人かのカレンへと振るう。だが、どのカレンも回避することなく、体が振るわれた巻き髭をすり抜けた。
(!? この分身ども実体がねぇ!なら、ただの見かけ倒しか……?)
そう思うのも束の間、分身たちがシャンに向かって”ヒータ”を放つ。向かってくる火球たちも実体がないと思ったシャンは避けようとしなかったが、火球が目の前にまでくると火球が持つ”熱”に気が付いた。
「!?この火、本物かよっ!?」
迫りくる火球たちの隙間を縫うように躱すシャン。虫状態の体格と速度でなかったら、そのまま火球が当たっていたであろうと思うとシャンはゾッとする。
”炎の精”は辺りの気温がとても高い時と日の光が強いとき……つまり”疑似太陽”がある場合でのみ使うことができる魔法……
「生み出された陽炎はそれ自体が炎。炎だから実体がないし、炎が炎を吐き出したって別に不思議じゃないでしょ?ま、聞こえてないでしょうけど」
分身たちにまぎれながらシャンを観察する。あれでも死なないとかめんどくさいわね……。強さはともかく生き延びることに関してはすごいわね。
(まずいまずい!分身と本物の見分けがつかねぇ!このまま魔法を撃ち続けられたら死ぬ!)
分が悪いと判断したシャンは天高く飛びたつ。炎のリングが消えた今、空ならば高度を上げれば、魔法が届かずそのまま逃げ切れると思ったゆえの行動だった。
――だが、それすらカレンの予想の範疇だった。
空へと飛び上がったシャンの目の前には、何体ものカレンの陽炎がいた……
「言ってなかったけど、私の”炎の精”は”疑似太陽の光が届く範囲……つまり半径百メートル以内に作ることができるわ。――もちろん、空中で生み出すことも」
四方八方にいる陽炎たちから放たれた”ヒータ”は、そのまま吸い込まれるかのようにシャンへと当たる。空中に炎の花が咲いたと思うと、その中から一人のスキンヘッドの男が落ちてくる。
(あの男が、虫野郎の本当の姿ね。虫状態ならそのまま燃えカスにできたのだけど……)
シャンは避けれないと悟った瞬間、自身のデュアルを解除し、人間状態へと戻っていた。虫状態は体格を小さくして攻撃を当たりにくくすることや速度が飛躍的に上がる代わりに、肉体の強度が脆いという欠点がある。一発でも攻撃を喰らえばそのまま死亡もあるほど、それなりにリスクのある形態なのだ。
地上へと墜落したシャンに杖を向けるカレン。
「終わりよ」
「ざけんな……まだ……」
焼けただれた体を地面に投げ出しながらも、まだ諦めていないシャン。今にもとどめを刺そうとしたとき、崩壊したはずの結界がイースの里を囲うように復活していく。
「! 結界の修復が終わったのねルートさん。あなたたちの負けよ」
「言っただろ……まだだって。まだ終わらねぇ!」
絶望的な状況であるにもかかわらず、余裕そうなシャンに違和感を覚える。一体何があるというの……
すると、次の瞬間……
…………ゴゴゴ
――大地が揺れた。
なんだそのオワタ式の混合魔法……




