【肉の鎧】
木々が生い茂る南の門近く、他の場所同様ここも戦火が広がっていた。下卑た笑みを浮かべながら次々とアゼ人を襲う襲撃者、自らの故郷を守らんとする衛兵たちが火花を散らしていた。
「”ヒータ”!”スローフィン”!」
その中にライハもいた。魔法を唱え、次々と襲撃者たちを倒していく。カロン王国騎士団副団長という与えられた役職に恥じないよう、盟友であるイースの里のためにその力をふるっていた。
きりがないように片っ端から襲撃者を倒していくライハ。そこへ空から自らの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい、ライハさーん!」
「! なんだあんたか……」
「そんな顔しないでくれます?これでも手伝いに来たんですから」
空からやってきたのはリファに乗ってきたマオであった。手には魔導銃を握りしめており、賊に向かって魔法を放っている。手伝いに来たのがマオだったことにはガッカリしたライハだったが、今は一人でも人手が欲しい状況でこれはありがたかった。
「私じゃなくてリリーの方へ行かなくてよかったのか?」
「先にそっち行ったんですけど、ライハさんの方が賊の数が多いからこっちの方に行けって」
リリーさんはライハさんとは離れた場所で賊と戦っていたけど、特に危なげなく戦ってたし、こっちの方が断然南の門に近いから賊の数も多いんだよね。リリーさんの判断も納得できる。
「それで片っ端から倒していけばいいですか?」
「あぁ、それでいいぜ。だけど、巻き込まれねぇよう気をつけろよ」
「? どういうことですか?」
「私の混合魔法は攻撃範囲が広いからな!」
そう言ってライハさんは両手を迫りくる賊たちの方に向ける。魔法で何かを生み出しているわけではない。両手の先には何もない空間があるだけ。だけど、その空間に変化が訪れる。空間の中の景色が歪んでいく。渦を巻くようにどんどんと歪んでいき、そして……
「”解放”!」
空間の歪みが元に戻ったかと思うと、賊たちが見えない何かにぶつかったように吹き飛ぶ。いや実際に何かにぶつかったんだと思う。吹き飛んだ男たちはどれも何かにぶつかった瞬間、白目をむいて気絶してたから。飛ばされた賊たちはどれも一般的な成人男性よりがたいがいいっていうのに……吹き飛ばされた賊たちは建物の壁に打ち付けられ、地面へ倒れ伏している。
「すご……今の衝撃波なに?」
『あれは恐らく”空気”の塊だろう。原理は知らんがな』
私の呟きに答えたのはリファだった。空気の塊って……どういうこと?空気砲みたいなこと?
「それがライハさんの混合魔法ですか?」
「そういうこった。【圧力】つってな、今のは空気を圧縮して指向性を持たせて解放しただけだ」
だけって……地面がえぐれてんですけど……。っていうかリファはよく分かったね。もしかしてグリフォンだから空気の流れとかに敏感とか?
「だから私の前に立つなよ、うっかり巻き込み……誤射するかもしれねぇからな」
「言い直した方が酷くなってません!? 私なんかしました!?」
「ルートさんに近づく女狐だろあんた。それに深夜に起こされたのまだ根に持ってるからな」
うーん前者はともかく後者に関しては何も言えねぇ……すみませんでした。だけど誤射はやめてください、私死ぬんで。
「まぁ、私の混合魔法があればすぐに終わるだろ」
「そうですね、早く終わらせて別のところへ助けに行かないと……」
「ヘイ!そこのガールズ!☆」
突如、戦場には似つかわしくない言葉が聞こえてきた。私たちが振り向くとそこにいたのは……
「ミーとラブストーリーを育まないかい?☆」
『「「…………」」』
濃い顔をしたおっさんが薔薇を口にくわえながら変なポーズをしていた。いや……何言ってんの?と思われるだろうけど、私は目の前の光景をありのまま言ってるだけなんだけどね。
「ライハさん友達は選んだ方がいいですよ」
「あんな古臭いナンパしてくる友達はいねぇよ」
そうっすか……あの場違いすぎる雰囲気にてっきりライハさんの友達ということにして現実逃避したかったんだけど……そっか、違うのかぁ……
『はぁ……おいマオ。ふざけている場合か、あれも襲撃者の一人だろう』
リファの言うとおり、イースの里には王国からの使者である私たち以外人間はいないはずで、あとはアゼ人だけだ。だけど目の前のおっさんには角がないからアゼ人じゃないことは明らか、つまり結界を破って侵入してきた奴らの一人ということになる。
「ふざけてんのか知らねぇけど賊の一員なら……」
再びライハさんがおっさんに向けて手のひらを向ける。そして、先ほどのように衝撃波をおっさんに向けて放った。その間もおっさんは変なポーズから一切動かず、そのまま衝撃波が直撃する。流石に気絶したかな?
さっき男たちを吹き飛ばした時みたいに土埃が空中に舞う。だがそれも段々と落ち着いていき、視界が徐々にクリアになっていく……
「!?」
「やれやれ、お誘いの返事が手荒いガールだね☆恥ずかしがらなくていいんだよ☆」
土埃が完全に晴れたとき、私たちの目の前にあったのは、衝撃波によってのされているおっさんの姿ではなかった。目の前に広がったのは……肉の塊。浅黒い色をして時折ブヨブヨとうごめいている、生理的嫌悪を引き起こす肉の壁がライハさんの衝撃波を完全に防いでいた。
「気持ち悪……」
「本気じゃねぇとはいえ私の【圧力】でダメージ一つ見うけられねぇなんて……あんたナニモンだ?」
「フッ……ミーのことが知りたいなんて……これもミーがイケメンだからか……☆」
「いいから答えろ」
「フッ、【ヒュドラ】の三頭目の一人”ミーゴ・ユゴス”さ☆以後お見知りおきを☆」
!こいつがボスの一人ってこと?こんな奴が?人あんなにいっぱいいてるのにもうちょっとマシなやつとか……いや盗賊団に入ってる奴らにまともな奴なんていないか。
「!【ヒュドラ】……だと」
「あぁ、そういえば情報共有しとくの忘れてました。【ヒュドラ】が革命軍に入って今回のこと起こしたらしいです。目的はアゼ人の角を売りさばくことだとか」
「革命軍に……ていうかよく聞き出せたなあんた」
「方法については聞かないでください」
まぁ、うん。我ながら酷い行動だったとは思ってるから……反省も後悔もしてないけど。
「さて……デートのお誘いは拒否されたことだし、ガールにやられっぱなしっていうのは男が廃る☆ガールに暴力を振るうのはあまりしたくないんだけど☆」
「あぁん?チッ……私はお前みたいなタイプは大っ嫌いなんだよ」
「フッ……そういうガールを堕とす方が燃えるタイプだよミーは☆」
いちいち発言がキモイと思っていると、目の前にあった肉の壁が動き出しミーゴとかいうおっさんに纏わりついていく。纏わいついた肉の塊は、やがて全身を覆い空気が抜けたようにしぼんでいく。収縮が終わるとそれは”肉の鎧”としか言えないような姿になった。
「さぁ、ミーの【肉の鎧】の力を味わってもらおう!☆」
「チッ、”解放”!」
肉の鎧を身にまとったミーゴが地面を蹴り、加速しながら私たちに迫る。それを見たライハさんが再び衝撃波を放ち、ミーゴの動きを止めようとする。その衝撃波は先ほどのものより威力をあげたもので普通の人間なら体に穴が空いてもおかしくない威力をもつものだったが、それをミーゴは正面から受ける。
「! 無駄だよガール!☆」
放たれた衝撃波はミーゴをふらつかせるぐらいに留まり、あまり効果がないように見えた。ミーゴは何事もなかったかのように地面を駆け、ライハへと拳を振り下ろす。それを後ろに飛ぶことで回避するライハさん。遮るものがなくなった拳は地面にドゴッという音を立てて叩きつけられる。あの肉、防御特化かと思ったけど、攻撃の方も中々……ふざけた容姿と言動だけどこのおっさん戦闘慣れしてる。
ミーゴに対する警戒度をあげたマオが”ヒータ”を放つ。リファも私に合わせて”フィン”の魔法を唱え、同時攻撃を行う。しかし、攻撃が来ることを予想していたのかミーゴはイナバウアーのような動きで火球と風の球を避ける。
「くたばりやがれ!」
だが、その一瞬の隙に相手の懐に入り込んだライハさんがレイピアのような細身の剣をミーゴの胴体へと振るう。だが……
「!?」
「フッ……ミーが欲しいのは剣ではなく熱い抱擁だよガール☆」
ライハさんの剣は確実にミーゴの胴体を捉えている。だけど、振るわれた剣は肉の鎧によってミーゴの体まで届いていなかった。さっき肉を圧縮した分、肉の密度が上がったのか!
剣が届くほどの至近距離にいるライハへミーゴの拳が再び迫る。顔目掛けて迫る拳をライハは顔を横にそらして躱そうと試みる。ギリギリで拳を躱したライハは剣がこいつには意味がないと考え一度距離を取ろうとする。その瞬間、躱したはずであるミーゴの拳……それに纏わりついている肉が膨張した。
「おぐっ!?」
急激に膨張した肉によって顔面を殴られたライハの頭の鎧が外れ素顔があらわになる。さっきの攻撃で口の中が切れたのか歯に血が付いている。
「ライハさん!」
「うるせぇ!この程度じゃやられねぇよ私は!それよりもこいつ……思ってたよりヤバそうだ」
立て直したライハさんがミーゴの方を睨みつける。これは他の方を手伝いにいくの時間がかかりそうだなと私は心の中でそうこぼした……
混合魔法【圧力】 使用者:ライハ・シアガ
風と炎の混合。名の通り圧力を加える魔法。ライハはこれを空気砲のように使って戦う戦闘スタイルをとっている。
混合魔法【肉の鎧】(バイオメイル) 使用者:ミーゴ・ユゴス
水と土の混合。ブヨブヨとした肉を生み出すことができる魔法。この肉は主に物理攻撃に強く、斬撃や打撃なんかはほぼほぼ意味がないと言っていい。実は明確な弱点がある。




