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魔女と王国と声変わり  作者: 睦月はくろ
第二章 イースの里編
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雪だるま

◇◇◇


 私とルートさんは何かあったであろう結界の核を確認しに、アードゥルさんの家へと向かっている。ルートさんにいたってはアードゥルさんを抱えて走っているというのに私より先頭で走っている。だというのに私のスピードに合わせて走っているルートさんを見ると、相変わらず常識外の存在だと思わされる。


「ここじゃ」


 結界の核が管理されている家の離れに着くと、勢いよく玄関の扉を開ける。離れの中は特に荒らされたような形跡はない。だけど、部屋の中心には一人のアゼ人の男が立っていて、その男の近くの床には結界の核だったものであろうものが散乱していた。


 その男の顔を見たアードゥルさんが怒りに顔を滲ませる。


「何をしたか分かっておるのか……シン!」


 シンと呼ばれた男がこっちに顔を向ける。だけど、その様子は異常と言うほかないものだった。目の奥の瞳孔が開ききり、ぐるぐると動き、焦点が定まっていない。そして時折、痙攣したように体をピクピクと動かしていた。


 その様子にアードゥルさんや私おろかルートさんまでも一歩後ずさる。


「あ、ア……るるルート……ホープ……。はや、早かった……ナ」

「シン……?」

「離れてくださいアードゥルさん!」


 固まっていたアードゥルさんにむかって手のひらを向けたシンは、”ダルク”の魔法を唱える。年老いたアードゥルさんの体では唐突な攻撃に対応できず、闇を纏った球が襲い掛かる。


「!…………」

「つツつ、つまンな……邪魔スんなよヨヨ」


 いち早く我に返ったルートさんがアードゥルさんの前へと割り込み、自身の混合魔法で闇球をかき消す。


「…………君は誰」

「……そ、ソこまで分かンのかよ……嫌にな、ナル……いいや、体すてて逃げよ……」


 そう呟いたシンの動きがまた変化する。さっきまでぐるぐると動いていた目を白目にし、口を大きく開いたかと思うと、その中から……


「おゴ……ゴガ……」

「なんじゃ……あれは……」

「…………」

「……”虫”?」


 蚊が飛ぶときの音のような不快な音を立てて口の中から何かが這い出てくる。ようやくその体の全貌が明らかになるとそれは、鳩程度の大きさで、蜂のような羽を持っている。虫のような細い足を何対ももち、口だと思われる部分からは巻き髭のようなものが伸びている。その姿は虫としか形容できない姿であった。


(あの大きさの虫が口の中に入ってた……いや普通に考えてありえない。ということは……)

「…………それが君の混合魔法(デュアル)……」

「自らの体を虫に変形し、他人の体へと寄生する混合魔法……というところかの」

「はん!そういうこった!」


 その虫は私たちのまわりを飛びながら、こっちを睨みつけている。相手に寄生するなんて……強力な混合魔法ね……


「お主……一体何者じゃ」

「”シャン”っていえば分かるか?」


 男の声をした虫からある名前が出てくる。私はその名前に心当たりがあった。シャン……ありとあらゆる国で指名手配されている盗賊団【ヒュドラ】の頭目の内の一人にその名前があった。


「まさか盗賊団【ヒュドラ】の頭目の一人がこんなところに来るなんて……あんたたちの目的は何?」

「教えるわけねぇだろ。馬鹿なのか?」


 いちいちイラつくような発言をしてくる虫にむかつきかけたけど、努めて冷静になるよう抑える。目的なんて捕らえてから聞き出せばいい。


「……お前たちの中から新しい宿主を探してもいいんだが……流石にルート・ホープに止められて殺されそうだな」


 私たちのまわりを飛んでいたシャンが急に速度を上げたかと思うと、半開きになっていた扉から外へと逃げ出した。速い!


「ルートさんは結界の核を治せそうですか!?」

「…………時間がかかるけど」

「ならあの虫は私が追います!アードゥルさんはシンっていう人の安否を!」


 それだけ言い残すと私は離れの外へと飛び出した。あいつを逃せばまた誰かに寄生するかもしれない……なんとしても捕らえないと大変なことになる!




◇◇◇




 イースの里の二つある玄関口の一つ、北の門近くで暴れている【ヒュドラ】の構成員たちから少し離れた場所に二人の男が歩いていた。


「6,7……8個か結構集まったねぇ~」


 袋に詰めたアゼ人の角をバートはニヤニヤした顔で数えていた。魔道具を作るにあたって最高級の素材がこんなにもあるなんて。フフフ、来てよかったよ。


「顔が気持ち悪い」

「おやおや、すまないねぇ~。でもシモンくんだって目を血走らせて角を回収してなかったかい?」

「当然。売れば億万長者になれる」


 シモンと呼ばれた髪をオールバックにした細身の男もバートと同じように袋を腰から下げている。なんならシモンの持っている袋の方がバートの袋よりパンパンに物が入っている。


「にしてもこの天才と一緒に行動してよかったのかい?あっちで暴れている仲間たちと一緒の方がもっと多くの角を回収できたんじゃないかい?」

「おそらくそう。だけど、意味がない」

「というと?」

「この里にはルート・ホープがいる。あいつが来たら逃げることも出来ずに捕まる。ならあんたと一緒にコソコソ集める方が危険度は低い」


 なるほどねぇ~、この天才と同意見だ。何も考えてない奴らは金に目がくらんでるけどシモンくんは冷静だねぇ。流石は三人の頭目の内の一人か。


「それにどうせ【ヒュドラ】は壊滅する」

「それもルート・ホープがいるからかい?」

「そう。他の奴らはアレの力を過信しすぎている」

「アレねぇ~、たしかにアレを見たらそう思うのも分かるけどねぇ」


 たしかにアレを氷山で見つけた時は天才も思わず興奮したものさ。貴重なサンプルもとれたしね。


「俺はルート・ホープとアレを両方見たことある……だけどアレじゃルート・ホープに勝てない。……ルート・ホープは人の形をした化け物だ」


 人の形をした化け物……ねぇ。言いえて妙だ。


 歩きながら次の獲物を探していた時、自らの懐から振動を感じた。


「おっと、誰かから連絡が来たみたいだ」


 バートが懐から取り出したのは自らが作り上げたごつごつとした魔道具。そのフォルムはマオが見れば、トランシーバーと言ったであろう形をしていた。


 フフフ、この連絡用魔道具は便利だねぇ~。離れた場所からでも会話することができるなんて。作成費用は高いけどね。アイデアを出してくれたマコトくんには感謝しないと。


「やぁやぁ誰だい?」

『ボクだよボク』


 魔道具から聞こえてきたのはナイラくんの声だった。


「あぁ、ナイラくんかこの天才に何かようかい?」

『今【トナコ】で本を漁っているんだけど、なにか欲しい本でもあるかなと思ってね』


 なるほど、それは魅力的な提案だねぇ~。本当は今から【トナコ】の方に向かうつもりだったんだけど無駄な手間がなくなりそうだ。


「なら魔道具に関する資料とあとは……そうだね、”神獣”についての本も欲しいかな」

『フフ、分かったよ』


 了承の返答を聞くと通信が途絶える。ナイラくんならこの天才好みの本を見つけてくれるだろう。ふふ、帰ったら楽しみだ。


「”神獣”の本なんて何に使う?」


 ナイラくんとの連絡を聞いていた。シモンくんが話しかけてくる。


「今やっている研究に使えそうなんだ」

「そう……それよりここ寒くないか?」


 そんな他愛もない会話をしながら連絡用魔道具を懐に戻そうとしたとき……


 ――一つの雪だるまがこちらを見ていた。


 いや、雪だるまと言うには少し違う。その雪だるまは胴体はよくある二つの小さな雪玉を重ね合わせた姿だが、手と足も雪でできていて、ちゃんと自立している。その姿はどちらかと言えば雪でできた小人や妖精と言った方が正しい。


 その雪だるまを見た二人はありえない光景に一瞬戸惑う。今はまだ残暑が残る秋の季節。雪の時期には早すぎるからだ。


 だが、二人はすぐさま正気に戻ると、まずいと思った。バートとシモンにはこんなことができる人物を一人知っていたのだ。


 二人は急いで雪だるまから距離を取ろうとするが一歩遅かった。雪だるまは自らに付いた足でバートとの距離を縮めると人間でいうと口の部分から氷のつららを吐き出した。


「っ!?」


 咄嗟に腕でガードしたバートは急所を守ったが、何本かのつららは腕に突き刺さり、手に持っていた連絡用魔道具にもつららが突き刺さった。その衝撃で連絡用魔道具はバートの手から零れ落ち、地面へ落ちる。


「っ……シモンくん!」

「”ヒータ”」


 バートが呼ぶ声より早くシモンは行動に移していた。(ヒータ)の魔法を唱え、雪だるまに向かって火球を放つ。放たれた火球は吸い込まれるように雪だるまへと直撃するが……


「! 効いてない!」


 炎の中から雪だるまが飛び出してくる。炎に包まれたというのにその体は溶けた様子が一切ない。雪だるまはまた口からつららを生成しながらバートへと迫る。


「チィっ!」


 バートは謎の液体が入っている試験管を取り出すと、それを試験管ごと雪だるまへと投げた。投げられた試験管は雪だるまのつららの部分に当たり、中の液体をまき散らしながら割れる。液体をもろに被った雪だるまは体が溶け、地面のシミとなった。


「今のは?」

「天才が調合した薬品さ。詳しい説明をしたいところだけど……それどころではないようだねぇ」


 剣を抜きながらこちらへと歩いてくる男……季節外れのマントを羽織り、整えられたあご髭が特徴のその男の肩にはエル教に所属していることを表す紋章があった。


(炎でも溶かせないような雪を生み出すことができる混合魔法……【吹雪(コキュートス)】。世にも珍しい()()()の混合である混合魔法(デュアル)を持ち、21歳という歴代最年少で聖騎士統括まで登り詰めた男……)

「君の相手はしたくないかなウェン・トーテムくん」

「じゃあさっさと捕まるかワイに斬られてくれたらええんやけど」


 剣を構えこちらを睨んでくる聖騎士統括を見て冷や汗を垂らす。状況で言えば二対一なのだが、それでも勝てる気がしない。なんとか隙を見て逃げ出すか、別の場所へと行かせないといけない。


「向こうで暴れてる方に行かなくてよかったのかい?」

「可愛い援軍が来てくれたおかげでな。それに八割くらいはもう斬ったし」


 耳を澄ましてみるといつの間にか喧噪の音が小さくなっている。行った後でこっちに来たということか……これじゃ別のところへ行かせるのは無理そうだ……


「――ほな死なないよう頑張れよ」


 背筋にひんやりとしたものがつたったのは、決して下がった気温のせいではなかった……






混合魔法【寄生】(パラサイト) 使用者:シャン・バグズ

闇と水の混合。自らの体を鳩サイズの虫へと変化させることができる。そして相手の口の中から侵入し、脳へと寄生することで意識を乗っ取ることができる。


混合魔法【吹雪】(コキュートス) 使用者:ウェン・トーテム

風と水と光の混合。雪を生み出すことができる魔法。生み出した雪によって相手を凍らせたりもできる。その気になれば夏の快晴の空でも雪を降らせることができる。

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