”ライアー”
「転……生者だと?」
「ご主人様が……」
「転生者ってなんですか?」
私が音読した見出しの反応は各々さまざまなものだった。ある者は驚き、ある者は聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべる。ツァールはすでに本の内容について知っていたのか、驚いた様子はなかった。一方で私は……
(まぁ、でしょうね)
酷く落ち着いた反応だった。大体予想してた通りだしね。キーパッドとか魔導人形たちが来ているメイド服から異世界の……それも私と同じ世界の人間だと思ってた。唯一引っ掛かっていたのは、【祭壇】を作った人がアゼ人だという点だった。私や舞踊と同じ転移者だったら普通の人間のはずと思ってたけど、転生者の方だったかー。ていうか転移だけじゃなくて転生の方もあるんだ。
『私の前世はこことは違う世界……日本という国で生まれた。そして普通に生活をしていたある日、事故に遭い死んだ。死ぬ瞬間、何か声のようなものが聞こえたかと思うと、気づけばこの世界にアゼ人の”ライアー”として転生した」
ふーん、転生する経緯としてはいたって普通な感じがするけど、この声?はいったい何だろう?
(それは多分”世界のシステム”の声よママ)
私の疑問に答えたのは魔女たちだった。そういえばそんなのあったわ。
(”世界のシステム”が何のために別の世界の人間を転生したり転移したりするのかは知らないけど~、輪廻転生のシステムを運用できるのは”世界のシステム”だけだからね~)
(あんたたちがしたわけじゃないんだよね?私の時みたいに)
(まさか!私たちはマオさまをこの世界に転移させるとき以外は”世界のシステム”に干渉してませんから。それに年代が違います。この方が転生してきたのは、一番最初に【魔女】になったソティスさんの前です)
ということはこの声は”世界のシステム”で確定か……でもそれ以外のことは分かりそうにないなコレ。とりあえず続きを読むか。
『私がなぜこの世界に転生したかは分からない。だが、私がこの世界で成したことには意味があったと覚えておいて欲しい』
日記の最初のページはそう締めくくられていた。私は次のページをめくるとそこから日記は始まった。
『~~~~年 〇月×日
今日から日記を書くことにした。この世界のことについて整理するものが欲しかったというのが理由だ。この世界は魔法がある世界だった。中でも混合魔法というものは人によって宿っていることもあるらしい。魔力量は同年代の者たちにくらべて多かったが、残念ながら私には宿らなかった。特別な力もない私がこの世界に転生してきたか、謎が深まるばかりだ……』
そこから先は、なんてことない日常が書かれた日記だったが、ある時から変化が訪れた。
『~~~~年 ×月△日
コルヴァズ帝国が魔女によって滅んだらしい。必死に逃げ帰ってきた【調査員】が見たこともないような顔をしていた。一体何があったんだ……』
「「コルヴァズ帝国?」」
聞いたことのない単語に私とナトちゃんの声がはもる。私たちが疑問に思っているとカリスが説明してくれた。
「コルヴァズ帝国というのはカロン王国になる前の国のことだナー。”最悪の魔女”によって民衆の多くも王族も死んでしまったから、残った民たちで再び興した国がカロン王国なんだ」
「へぇーそうなんだ」
次のページをめくってみるとカリスが言っていたことと同じようなことが書かれていた。これ、ソティスに聞いてみてもいいのかな……いや、このタイミングで何も言ってこないってことは、あまり触れられたくないだと思う。そう思い次のページをめくった。
『~~~~年 ×月⊡日
今日は族長に呼び出された。なぜ呼ばれたかを聞くと、どうやら【魔女】……というより里の危機に対する人に頼らない軍事力が欲しいらしい。その計画を私が主導で行ってほしいとのことだ。前の”魔女事変”の影響だろうな。それにしても人に頼らない力か……、アゼ人は如何せん数が少ないからな、数の勝負になれば絶対に勝てない。だからといって無茶を言う……。だが、私はこの話を聞いたとき、これは使えると思った。なんにせよ私の夢を叶える時……!そのチャンスが図らずしもやってきた』
「なんか怪しいです!」
ナトちゃんが言う通りなんか文章から怪しげな雰囲気が漂い始める。なんていうかマッドサイエンティストみが出てきたというか……。これであくどいことしてたらどうしよ?唯一この日記の内容を知っているであろうツァールは壁にもたれかかって目をつむってるし。
『~~~~年 ×月〇日
今日から族長に言われた計画がスタートするのだが、メンバーは私一人だけだ。これは私が一人でやらせてほしいと言ったからだ。族長、というか里のほとんどの人が反対したが、全員言いくるめた。なにせこの計画は知られてはいけないからな……この――”メイドさんハーレム計画”はな!』
「「「「ん?」」」」
なんか流れ変わったな?
『そうだ、私は前世ではメイドが大好きだったんだ!あの清楚な装いで健気に奉仕をしてくれる姿!日本の萌えという文化から生まれた、ついつい目で追ってしまう露出多めのミニスカートのメイド!小さな体で一生懸命頑張る姿を陰でずっと見ながら応援したくなるロリメイド!二次元、三次元問わず私はありとあらゆるメイドが大好きだ!』
「「「「…………」」」」
私たち四人が冷めた目で日記の著者の部分を見つめる。中でもこれを一言一句音読してる私が一番冷めた目をしてるだろうね。なにこの内容?ふざけてんの?
「あのツァール?」
「なにも聞くでない」
「しかし……」
「聞くな」
「あ、はい」
ツァールが遠い目をしてる……。まさか軍事力として期待されてた自分たちの姿が製作者の趣味全開のものだとは、流石に最強の魔導人形でも思いもしないよね。
『だが、この転生してきた世界……というよりイースの里にはメイドがいなかった。私は絶望したよ……外にある他の国ではメイドはいるのだが、如何せん種類が少ない。ヴィクトリアンスタイルのメイドしかいない。メイドのポテンシャルが分かっていない者が多すぎる!しかし、布教しに行こうにも私は建築の才能があったため里の中で働くことを強要されていた。【調査員】が持って帰ってきた知識……文化、建築技法から新しい建物を建てるのが私の仕事だった。そんな中族長からあの話をされたときは青天の霹靂だった。そうだ、なければ作ればいいのだと!この計画は誰にも邪魔されるわけにはいかない……。だが戦闘用の機能はつけないといけないな。一応族長からの命令だからな』
『~~~~年 △月〇日
ついに試作機である魔導人形[MG-1]が完成した。といってもほぼロボットの素体というかフレームだけなのだが。さっそく電源を入れたが、うまく動かない。どういうことだ?と思っていると突然肩から腕のパーツが外れた。……失敗だ。一から原因を探って改良していかなければ……』
ここから先は失敗の記録ばかりだった。関節部分の動きが悪いとか、耐久性に難ありとか、中でも感情の部分で試行錯誤したことが書かれていた。なるほどね最初らへんの魔導人形は試作機扱いだったんだ。
そのまま読んでいくと、途中に挟まるメイド語りがうざくて日記を破りそうになったけどライアーが止めてくれた。
『~~~~年 ⊡月〇日
ついに明日、改良に改良を重ねた[MG-20]を動かす。これを失敗すればまた一から設計のしなおしか……』
『~~~~年 ⊡月×日
やった!ついに私はやり遂げた![MG-20]は成功だ!動作、耐久性、機能、そして感情すべてに異常はない。あとはこれをベースに量産していけば……!』
『~~~~年 ⊡月△日
六体目の魔導人形を作った時に、ふと私の脳裏にある考えがよぎる。”最強の魔導人形”作ってみたくね?さっそく作ってみよう!』
「ノリ軽すぎない!?」
ツァールが作られた理由がしょうもなさすぎる!可哀想とかのレベルじゃないよコレ!?私たち四人がツァールを同情の籠った目で見る。ツァールの遠い目に涙が見える……
『~~~~年 ◇月〇日
ヤバい、私の魔導人形たちが可愛すぎる……』
『~~~~年 ◇月×日
私はあることに気づいた。それは、このまま魔導人形たちを軍事力として使わせていいのか?という点だ。いやそれだけならばまだマシだ。私が本当に危惧するのは魔導人形たちが奴隷として扱われることだ。元々人間ではないゆえに道具として、暴力、差別など不当な扱いをされることは目に見えている……!人間とはそういう生き物だ。だがそんなことは絶対に許せない」
『~~~~年 ◇月△日
あれから一晩考えた私はある結論に至った。試練を作ろう。本当に魔導人形たちを対等に見てくれる者が現れた時にそれを見極めるシステムを!具体的なプランはそうだな……里の危機に魔導人形たちが目覚め里を救う!これだ!これならば魔導人形たちは里を救った英雄として不当な扱いをされることはまずないだろう。さらに試練に挑む者も危機という切羽詰まった状況ならばその者の本性が現れるというもの、悪しき者を見極めるのに最適な状況だ。さて、試練の内容を考えなければ……』
『~~~~年 ◆月〇日
試練の内容は決まった。[MG-26]ことツァールとの戦闘だ。ツァールの持つ『アルクトゥールス』は試練の内容にピッタリだ。あの盾を突破するために魔導人形[MG-615]と深い信頼関係を結ぶ……まさに完璧。まさか深夜テンションで作ったツァールがこんなところで活きるとは……。残る問題は魔導人形たちを封印する場所……名称を【祭壇】にしよう。【祭壇】のセキュリティは生半可ではだめだ。無理やり魔導人形たちを起こすなど言語道断。どんな攻撃にも傷一つ付かず、イースの里に危機が迫った時にだけに開くような結界を使える者……。そんな者いるはずが……いや一人だけいる。最近作られた宗教にもかかわらず、カロン王国で爆発的に民衆に広がり、あの”最悪の魔女”を討伐にも貢献した、エル教の創始者エル・ノーティスなら!』
「え?エル教が【祭壇】について関わってるの?」
私は思わず素っ頓狂な声をあげる。だけど、その考えをすぐに否定する。もしそうだった場合ウェンさんが何も知らないのはおかしい。隠す理由もないしね。ということはこのエル・ノーティスが個人的に協力したってことかな?
「ていうかおかしくないかナー?イースの里に危機が迫った時に【祭壇】が開く……言い伝えどうりだったが、なぜマオくんが触れただけで開いたんだ?」
「それは余も気になっていた。だが【祭壇】の機構を確認しても封印の魔法が誤作動したとかではなくてな……まったくの不明としか言いようがなくてな」
たしかに……この日記の内容なら【祭壇】は開くことがないはず……
マオたちが考え込むが、答えは出てない。そんな中マオを見つめるカリス。
(残る可能性は……マオくんがイースの里の危機として判断された……かな)
そんな考えがカリスの頭に浮かぶが、頭を悩ませているマオを見て馬鹿らしいとふってわいた考えを消した。
「今考えても答えがでなさそうだし日記の続きを読んだ方がいいんじゃないかナー?」
「……そうだね」
私は考えるのを一時中断し次のページをめくった。ここから先はめぼしい情報があまりなくて、状況が動いたのは何ページもめくった後だった。
『~~~~年 〇×月〇日
神は私に味方した。なんとイースの里にカロン王国からの使者が来た。なんでもイースの里をカロン王国の自治領にしないかという話らしい。だが、里のほとんどの者が反対している。あの感じじゃ今後何十年のあいだは自治領は無理だろう。しかし私にとってそんなことは重要ではない。なんと使者の中にエル・ノーティスがいたのだ!魔導人形たちを作り上げてから数年、【祭壇】はできたのだが問題はどうやってエル・ノーティスとコンタクトをとるかだった。私は里の外に出ることができないからな。半ば別のプランを考え始めたころの出来事だった。早速コンタクトを取ってみよう!』
『~~~~年 〇×月×日
必死な説得のおかげかエル・ノーティスが結界を張ることを承諾してくれた。ようやくだ……長かった……』
『~~~~年 〇×月△日
【祭壇】に封印の魔法を施してもらい、全ての工程は終わった……いやまだ一つだけあるな。族長に【祭壇】のことを報告しなくては。だが、族長は怒り狂うだろうな……』
『~~~~年 〇×月⊡日
案の定、族長は怒り狂った。私を殴り飛ばしたかと思うと”お前はこの里から出ていけ!二度とこの里に立ち入ることは許さん!”と言われた。だからこの日記を書くのも今日で最後だろう……明日には里から出て行かなければいけないのだから。さて……試練を超えた者よ、私は魔導人形たち……メイドたちが大好きだ。それゆえに私はこの選択を取った。今でもこの選択が正しかったのかどうかは分からない。だが、私は信じている、この日記を読んだ者が私の意志を尊重してくれることを……魔導人形たちに自由をもたらす世の中になっていることを!最後に……我がメイドたちに幸あれと……』
日記はここで終わっていた。理由はなんであれ、この人が魔導人形たちを愛していたのは伝わってくる。私はこのライアーって人の意志を尊重して魔導人形たちを自由にさせるつもりだ。元からそのつもりだったけどね。多分みんなも賛成してくれると思う。
「ご主人様……」
ローコが儚げな表情を浮かべる。自分たちの親が現在に至っても自分たちのことを思い続けてるんだから、まぁそんな顔にもなるか。
「ローコ、ツァール」
「! なんでしょうかマスター」
「ローコたちのご主人様っていい人だね」
「……はい」
「そうだな……ご主人様はいい人だな」
はぁ……よし!切り替えよう!で、こっからどうすればいいの?全員起こして外に出せばいいのかな?
私がそんなことを考えているとローコが何かを決心した顔で私に話しかけてきた。
「マスター」
「?どうしたの?」
「私たちはもう自由なんですよね?」
「そうだね」
「なら私は……自分のしたいことが見つかりました」
そう言うとローコは一度息を大きく吸い込み、深呼吸をする。
「……マスター。これからも私を隣に置いてくれますか?」
「……置くんじゃなくて、居てくれる方がいいかな?」
「!……ありがとうございます。重ねてもう一つあるんですが……」
「あーし……ギャルになるわ☆」
「うん、何言ってんの?」
ほんとに何言ってんの?????
今気づいたんですけど
マオ(メイド服)
ナト(メイド服)
ローコ(デフォルトのミニスカメイド服)
ツァール(ローコと同じく)
カリス(一般的な服装)
というライアーにとって嫉妬でどうにかなりそうなくらいうらやましい状況なんですよねカリス。




