試練 中編
魔導人形の共通の機能である背中に取り付けられたジェットエンジン。魔力をエネルギーとし爆発的な推進力を発生させるそれを用い、悠然と宙に浮き続けるツァール。
(さて、どうでてくるか……)
自らが最強の魔導人形であるという自負があるツァール。それは実際正しい。ゆえにツァールは相手の出方を待つ。自分なら何が来ても対応できるという自信。
ツァールの耳に空を切るエンジンの音が聞こえる。その音は自身の背中についている翼と同じジェットエンジンの音。だが、その音は自身の背中から聞こえてるのと他にもう一つ増えた。そのもう一つの音はこちらに向かってるのか段々と大きくなっていく。ツァールはその音が聞こえる方へと振り向いた。
「不意打ちをしてくると思ったのだが……まさか……」
ツァールの目に映るのは、自らと同じように背中から機械の翼を展開し飛んでいるローコとそのローコと手を握りながらぶら下がるようにしているマオの姿であった。
「正面突破とはな!」
相手の予想外の行動にツァールは喜色満面の笑みを浮かべる。ツァールはこの試練を……戦いを楽しんでいる。マオとローコは毎回試練に挑むたびに違う戦い方をして、ツァールを倒そうとしてくる。それだけでもツァールを楽しませているのだが、一番の理由はローコと同じよう約千年近く待たされたことによる享楽への渇き。
ツァールが目覚めたのはマオたちが審判の間に入ってきた時だ。それ以外はこの審判の間にてスリープ状態だった。目覚めた瞬間に自身の役割を思い出したツァールはその役割を全うしようとする。だが、待たされた995年ものあいだツァールは暇で暇でしょうがなかった。そんな時に現れたこの二人との試練はツァールにとって神の恵みに等しかった。
ツァールはローコたちに向けて弾幕を浴びせるが、それを躱しながらダメージ覚悟で突っ込んでくる二人。しかし、完全に躱しきるのは難しいのか二人の体には弾が掠った傷がついていく。だが、直撃になりえる弾にはローコが空いている左手のライフルで撃ち落とし、戦闘不能になるような傷はつけることができなかった。
二人との距離が近づいていき、もはや十メートル以内となる。
(何が狙いだ?奴らはこの『アルクトゥールス』の突破方法に気づいているのは間違いない。恐らくローコの通常弾とあのマスターの魔法で同時に攻撃してくるに違いない!)
迫りくる二人に向かって『アルクトゥールス』を構えるツァール。ツァールのCPUがだした結論は今もっとも考えられるマオたちの行動だった。わざと盾を構えその同時攻撃を誘い、すんでのところで回避しカウンターを決めるのがツァールの狙いだ。だが二人がとった行動は……
「ローコお願い!」
「はい!」
ローコは自身と手をつないでいるマオをツァールに向かって投げつける。
「ハァぁぁぁぁぁぁあっ!??」
その予想だにしなかった奇想天外な行動にツァールも思わず声を荒げる。だがその一瞬の動揺が命取りとなった。
投げつけられたことによりツァールとの距離を急速に縮めたマオはツァールの右腕へと絡みつく。
「ちっす、元気してた?」
「! しまっ!」
急に重くなった右腕を振り払いマオを落とそうとするが、がっちり抱きかかえられていた。ライフルでマオを撃とうとしても、右腕に絡みつかれている以上、自身の人間のような体の構造的にライフルでマオを撃つことは不可能だった。
「この……!」
右腕が使えなくなるのは不味いと思ったツァールがマオに向かって左手の盾で殴ろうとするが……
「私もいるのをお忘れですか?」
いつの間にか背中にまわられていたローコに左肩を魔力弾で撃たれる。不意を突かれたため盾でのガードも間に合わなかった。魔導人形であるため痛みは感じないが、衝撃によって左腕の動作に少し違和感が生じる。
普通の魔導人形であれば魔力弾を喰らえば自身のボディを貫通し、撃たれた部位は使い物にならなくなる。それを貫通もせず違和感が出る程度で収めることができるツァールの防御力は流石は最強の魔導人形である。
だが、その生じた違和感がツァールの左手による攻撃を止めてしまった。
「じゃあ落ちてもらおっか?」
「なに?」
「言ったでしょ……上から見下ろされるのは今日で最後だってっ!!」
マオは右腕に絡みついたまま、ツァールの背中へと魔導銃を向ける。審判の間に六発の銃声が響き渡る。マオが放った魔法たちはそのままツァールの機会の翼へと吸い込まれていき……
バキンッ!
音を立てながら翼が壊れる。エンジンが停止したことによりツァールとマオは翼であった部品と共に地面へと落ちていく……!
ハッハー!見たか!これが『お前ボールな』戦法!正直ちょっと……いやかなり怖かったけど成功したからなんでもいい。これでツァールは空を飛べない。ようやくあの作戦を実行できる。
ツァールと二人で落ちながら次の行動を考える。私とツァールの落ちる速度は重力によってどんどんと増していく。そういえば落ちてるときって一瞬だけ無重力のように感じるんだっけ?今そんな感じだ。
「ハナから翼が狙いだったか……!だが貴様も一緒に落ちることは考えていなかったのか?」
「んなわけないでしょ」
横からジェットを噴射しながら飛んできたローコが私をお姫様抱っこする。こっちは二人いるのよ二人!
「なるほどな」
感心したような声を漏らしながらツァールは地面へ着地する。まぁ、ツァールを空から落としただけで勝てるわけないよね。
「マスター条件が整いましたね」
「うん、それじゃしっかり決めてよね」
「任せてください」
飛んでいる私たちにツァールが地上から弾を撃ってくる。だが、空中にいる以上避けるためのスペースは結構ある。私たちは弾幕を躱しながら、壁を盾にしてツァールから見えないように地面へと降り立つ。
ついに作戦を実行するとき……!ツァールにはまた驚いてもらおうかな。
◇◇◇
「――隠れたか……」
二人の姿を見失ったツァールはこれからどうすべきかを考える。翼を破壊され空を飛べなくなった以上、索敵性能が著しく落ちていると感じたツァールは不用意に動くのは危険だと考え、地面へと着地したあと一歩も動いていない。
(まさか翼が破壊されるとはな……ふっふっ)
地面に落ちている、自身の翼だった残骸を見ながら笑みを浮かべるツァール。正直ツァールもあの二人がここまでやるとは思っていなかった。それを成し遂げたのはひとえに二人の連携に他ならない。
(ご主人様の求める人がやってきたのだな……)
心の中で嬉しく思うツァール。だが、試練はまだ終わっていない。
ツァールがいる場所から少し離れた場所で数発の銃声が聞こえる。この銃声は魔導人形に備わっているライフルの銃声ではない。
(この音は……あのマスターが使っている魔法を撃つ銃の音か!)
四方を壁に囲まれているツァールは撃った本人を認識できてはいない。だが、それは向こうも同じはずなのだが、それでも銃声が聞こえた理由、それは……
「! 曲射撃ちか!」
壁というバリケードの上から放物線をえがくように、光球や闇球など様々な属性の魔法がツァールを襲う。
(なるほど、これなら壁など関係なく一方的に攻撃できるが……それで余を倒せるつもりか?)
『アルクトゥールス』を”退魔”にモードチェンジしたツァールは襲い来る魔法をかき消していく。
(だが、これであのマスターの位置は大体把握した。あのマスターが魔法しか使えん以上物理攻撃の担当はローコだが恐らく……)
魔導銃の銃声から大体の距離を予測したツァールはそこから魔法が自身に迫る速度を考え、どんな魔法が来ても対応できると結論できる。ならばツァールが一番警戒することは……
もう少しで魔法を捌ききることができるという場面でツァールの後ろの壁から人が走ってくる音が聞こえる。
(やはり来たか!)
ツァールは右腕のライフルから弾を撃ち、残っている魔法をすべて撃ち落とす。それと同時に『アルクトゥールス』を”鉄壁”へとモードチェンジする。魔法を無効にしている途中ではモードを変えることはできないためライフルで対応することにしたのである。
後ろからの攻撃に対応しようとツァールが後ろを振り向く。
「詰めがあまぁっ!?」
そこに居たのはローコではなく……ローコの右腕に付いている短剣を手にし振りかぶっているマオの姿だった。
終わらんかったぁぁぁぁあ!ほんとはツァール戦は前編と後編の二つの予定だったのにぃぃぃ!




