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魔女と王国と声変わり  作者: 睦月はくろ
第二章 イースの里編
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試練 前編

「ふっふっふっ……よく来たな!昨日は来なかったから諦めたのかと思ったぞ!」


 いつも通りあの訓練場みたいな場所に着くと、腕組みしながら空を飛んでいるツァールが話しかけてくる。いつも思うけど、なんで私たちが来ると空飛んで待ってるんだろう?


「んなわけないじゃん。こっちは真剣にあんたを倒すために準備してたんだから」

「ほう……言うではないか。最強の魔導人形(マジックガール)である余に勝てると?」

「今日で上から見下ろされるのも最後だから」

「……ならばその自信を打ち砕いてくれるわ!」


 その声を皮切りにツァールがライフルとなった右腕から弾幕の雨をこちらに向けて降らせる。私とローコは二手に分かれ、別々の壁に身を隠す。何回も挑んだから分かるんだけど、一箇所に固まってるとただの的にしかならない。私とローコで別々の角度から攻撃しないとツァールは崩すことができない。


 さて、試練が始まったことで改めて自分が立てた作戦を頭の中で反芻させる。この作戦はいままで試練に挑んだことで成り立つ作戦だ。ツァール相手に通用する可能性は高いんだけど……それにはある条件がいる。


(さて……さっさとあの()を折らないとね……)


 その条件とはツァールが地上に降り立っていることだ。いや厳密には違うんだけどね。空中でもできなくはないんだけど、難易度が跳ね上がるし、リカバリーが効きにくくなる。地に足をつけてやる方が絶対に楽。

 でもツァールってずっと空飛んでるんだよねぇ……。まぁ空の方がこっちの攻撃が届きにくいし、地上に降りてくるメリットなんてないようなもんだからね。しかもずっと飛んでてもツァールは【祭壇】から魔力の供給がされてるから魔力切れで落ちてくることもない。……だから背中についてるあの翼を壊さないといけない。


「わーはっはっはっ!どうした勢いがよかったのは威勢だけか!」

「くっ……!」


 あまりの弾幕の量に壁を壊されないと理解したローコは背中から機械の翼を出現させ、空へと飛び上がる。そのことに気づいたツァールがローコを撃ち落とそうと弾幕を張るが、ローコは弾と弾の間を縫うように躱しツァールへと迫る。そして右手の刃を振るうが……


「『アルクトゥールス』!”鉄壁”!」


 いつの間にか取り出していた盾でローコの物理攻撃を無効化させる。出たなクソ盾……!お前のせいで何度頭を悩ませたか……絶対ぶっ壊してやる……


「前までと何も変わっとらんなお前は」

「っ……」

「そのふざけた性根に凶弾をくれてやる!」

「!?」


 ローコの刃をガードしたツァールはそのまま盾でローコを突き飛ばす。身動きのとりにくい空中では踏ん張りがきかず、ローコはそのまま体勢をくずしてしまった。そこへツァールのライフルがローコの頭へと突きつけられる。


「させない!」


 地上からその光景を着ていた私はすぐさま魔導銃を構え、”ムーヴフィン”を発動させる。起こされた風はローコの肉体を吹き飛ばす。元々ローコがいた場所には弾幕が通過していく。あのままだったらハチの巣だったね。


「やるではないかローコのマスター!」

「お褒めの言葉どう……もッ!」


 ローコの窮地を救った私は宙に浮いてるツァールの真下へと移動する。今あのクソ盾は物理無効のはず、なら魔法に弱い状態だ。見逃す理由はない。ツァールに向けて何発か魔法を放つ。あ、真下だからパンツ見えるわ。意外とかわいいの着てる。


「目ざとく魔法を使ってきおって……だが……」


 ツァールは私が放った魔法に対し、盾を構える。今の盾の色は……”緑色”に輝いていた。


「貴様が魔法しか使ってこないことはとっくに知っている!」


 魔法がツァールの盾にぶつかると魔法は霧散してしまった。いつの間に魔法無効に……ローコを吹き飛ばした時かな?まぁそれはどうでもいい。私の目的はツァールに攻撃を当てることじゃない。


「ローコいま!」

「はい!」


 ツァールの頭上からローコが刃を振り下ろす。


「!?」


 私がツァールの真下から魔法を撃ったのはこれが狙い。真下からの攻撃に対応するためには体ごと下を向いて対応する必要がある。けど下に気を取られすぎれば他の方向への警戒がおろそかになる。ローコを吹き飛ばした”ムーヴフィン”もツァールの頭上へと行くよう調整した。


 ローコの刃がツァールを切り裂かんとしたその時……、ツァールの翼からジェットが噴射され、空中で一回転しながらローコの刃を躱す。マジで……あれ躱すの!?


「素晴らしい連携だが……余の方が一枚上手だ!」


 空中でそう評価するツァールはすぐにライフルを構え、発砲音を響かせる。狙いは……


「ローコッ!」

「――っ!」


 隙をついた攻撃が躱され、動揺していたローコへ一筋の光が迫る。ツァールが撃ったのは通常の弾ではなく魔力弾の方だった。普通の弾よりも威力も貫通力も高いその弾はローコを貫こうとするが、その間に割り込む者が一人……


「”ウォルアウス”二連射!」


 ローコと魔力弾の間に風の魔法で飛び上がった私は込めていた魔法を魔力弾に向けて放つ。魔法は二枚の分厚い岩の壁となり魔力弾を阻む。

 あまりの威力にミシミシと岩が嫌な音を立てる。一枚目の岩は完全に破壊され、二枚目の岩にも大きなひびが入っている。やっぱヤバすぎるって魔力弾……


「ありがとうございますマスター……」

「安心するのはまだはや……」


 まだ早いと言おうとしたその時、辛うじて残っていた岩の壁が粉々に壊れる。壁だった残骸がこっちに向かって飛んでくる中、現れたのは飛び蹴りを放つツァールの姿だった。


「がぁっ!?」


 ツァールの蹴りを腹に喰らった私の体はくの字に折れ曲がる。腹に鈍い痛みを感じながら私は地面へと落ちていく。


「マスター!!」


 地面へとぶつかる瞬間、私と地面との間にローコが割って入る。しかし落下の勢いはなくならず二人一緒に地面に落ちる。


「――さて一応力加減はしたし死んでおらんはずだが……」


 さっきまでマオたちがいた場所で悠々と飛んでいるツァール。落ちた二人の様子を見ようと目を凝らしているが、落ちた衝撃で舞い上がった土煙でよく見えない。


「! いない!」


 土煙が晴れるとそこには落下の衝撃でひび割れた地面しかなく二人の姿はどこにもなかった。







「あ、あぶなかった……」


 ツァールに見えないよう壁で身を隠しながらそう呟く。乙女のお腹に蹴りなんて入れるなんて、ご飯食べて来てたら間違いなく吐いてた。ゲロインになるのはゴメンこうむりたい。


「大丈夫ですかマスター?」


 一緒に隠れているローコが私の方を心配そうに見てくる。あの時、ローコがクッションになってくれなかったら多分大怪我してたね。


「ひとまず大丈夫……それよりも」


 私は壁から少し顔を出しツァールの方を見る。ツァールはその場から動かず、ずっと同じ場所で空を飛んでいる。多分、探すのが面倒だから、コッチが動いてくるのを待ってるんだと思う。


「マスター提案があります」

「それは?」

「……今回も撤退しましょう」


 俯きながらそう提案してくるローコ。


「マスターは怪我をなされていますし、今の攻撃でも崩せないとなると……」

「ローコ」

「それに私では……」

「ローコ!」


 少し強めにローコの名前を呼ぶ。まったくほんとに仕方のないメイドだ。


「ローコ――()()()()()

「――え?」


 ローコが顔をあげ呆けたような顔をする。


「さっき助けてくれたこと。いや、いつも助けてくれること」

「それは魔導人形として当然のことで」

「それに私の期待に応えてくれて」

「期待……ですか?」


 何を言ってるか分からないって感じだね~。ちゃんと伝えたのに。もう一度言ってあげよう。


「ほら、試練が始まる前に言ったじゃん。『いざとなったらローコが助けてくれる』って。私ね落ちてる時めっちゃ怖かったんだよ?だけどローコが助けてくれて……信じて良かったなって……ローコが私の魔導人形でよかったって」

「マスター……」


 ……あーはっず。思わずいろんなことが言葉に漏れ出ちゃった。後から考えると死にたくなるくらい恥ずかしいこと言ってるわコレ。もっとかっこよく鼓舞したかったのに。


「だから……自分のことも信じて。ローコはツァールに劣ってない、むしろ最高の魔導人形だって。今日ここで証明しよう」

「証……明……」

「そう!二人で証明しよう!ツァールに勝って!」


 マオの言葉は995年という年月を一人で眠っていた魔導人形の心へと響く。




~~~~~




 私には分からなかった。何故自分が【祭壇】の開放に必要な試練に挑む者へのパートナーに選ばれたかも。試練にツァールという最強を置いたご主人様の考えも。そして――私たちに感情があることにも。


 ツァールと何度も戦っては感じる私との違い。ツァールは私の中にある情報よりもはるかに強く感じました。そして、何度も何度も逃げて、ツァールと自分を比較するごとに、【祭壇】の開放という重圧に押し潰されそうになるたびに、私の心に黒い澱が貯まっていく。私はそれに気づいてました。気づいてなお――気づかないふりをしました。だって当然じゃないですか私は人間じゃない。人間じゃないのだから……感情があるのは間違いだと……


 しかし、抑えておくのにも限界が来てしまった。コップ一杯にはコップ一杯分の水しか入らないように、それ以上の水はただ溢れるしかないように。私は誰にも気づかれないよう一人の時にこの幾重にも混ざり合った黒い澱を吐き出した。吐き出せば少しスッキリする……でもこのスッキリした感覚も行う理由も感情があることの裏返しのように感じてしまう。もういっそ他の魔導人形の開放なんて投げ捨てて消えてしまえたなら……そんな風に考えていた。なのにどうして……


『ローコが私の魔導人形でよかった』


『むしろ最高の魔導人形だって』


 マスターはそう言ってくれるのですか?どうして私が欲しい言葉を欲しい時に言ってくれるのですか?どうして私のために悩んでくれるのですか?私がマスターを思うこの感情はいったい……











 あぁ……そうですか。これが……【愛】なのですね。ご主人様はきっとこのために感情を持たせてくれたのですか。私は……マスターと一緒に居たい。マスターを守りたい。マスターの最高の魔導人形でありたい。


 私は……


「マスター」

「うん」

「私を最強(ツァール)に勝った唯一の魔導人形にしてください。私がマスターにふさわしい()であることを証明しましょう……二人で」


 ツァールの性能もご主人様の考えももうどうでもいいです。他の魔導人形の開放など二の次。私の最優先はマスターただ一人。だからマスターの隣にふさわしい者であることを証明するために……ツァールを倒す。


「――もちろん!さ、行くよ!」

「はい!」






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