感情と本気
私たちがイースの里にやって来てから四日が経った。本来の目的である残り火の調査もなにも進展がなく、【祭壇】の攻略も……
「今日もダメだったね……」
「……そうですね」
うまくいっていなかった。だって仕方ないじゃん。あれ以降カリスたちと立てた攻略法を試していたんだけど、シンプルにツァールが強すぎるんだもん。飛びながら、高威力の銃を乱射してくるだけで脅威だし、ツァールの魔力弾は壁ごとコッチをぶち抜く威力があった。多分あの盾がなくても普通に苦戦してる。
そもそも盾に同じタイミングで魔法と物理攻撃を当てること自体が難しすぎる。それに私は魔導銃の魔法でしか攻撃できないし、そうなると必然的にローコが物理役となるから攻撃のバリエーションが減る。ツァールももうそのことには気づいてるしね。
でも、何回か戦ってみてカリスの考察は正しそうだということは分かった。検証してみたけど、やっぱり盾でガードするんじゃなくて回避を優先する場面もあったし、なによりまたカマをかけたら引っかかった。それでいいのか最強の魔導人形さん……
「でも手ごたえがないわけじゃないね。こっちの連携の精度も上がってるからツァールが防御にまわる回数も増えてるし」
でもあの盾で毎回防がれるんだけどね。やっぱ性能おかしいってあの盾。
私がポジティブな言葉を投げかけるけど、ローコはうつむいたままで反応は薄い。
「……そうだといいんですが」
「え?」
「なんでもありません、体のメンテナンスと自主練をしてきます」
そう言ってすたすたとどこかに行ってしまった。
◇◇◇
あれからまた【トナコ】で【祭壇】について調べてたけど、結果はスカ。ここまでくると情報が操作されてるとしか思えないね。まだ見てない資料はあるけど多分どれも大した情報はなさそう。
本を調べていたらちょうどお昼の時間になったからローコを誘ってご飯にいこうと思って、ローコのことを探している。朝の感じを見るに結構まいってたからね。まぁ何回も挑んでるのに結果が振るわない。よくあることだけど結構メンタルにくるからね。
「あ、いた」
しばらく探していると、里のはずれの静かな場所にローコを見つけた。ローコは人に見立てた的を何個も設置して、ライフルで順番に撃ち抜くということをしていた。
ちょうど最後の的を撃ち抜いたのを見て、キリがよさそうだから話しかけようと思ったとき……
「おーい、ロー……」
「――駄目です……これでは……」
「!」
ローコから零れ落ちたその言葉を聞いてしまった。私はとっさに近くの茂みに隠れてしまった。盗み聞くのは悪いと思うけど、体が勝手に動いちゃったんだもん。
「なぜ試練がツァールなのですか……私ではどんなにあがいても……」
ここには自分一人と思ってるからか、ローコの口からポロポロと弱音が出てくる。あー、良心が痛い……。でもそうだよね、ローコの今の境遇って知っている人も誰もいない場所で目覚めた、いわゆる浦島太郎状態に近いし、なにより他の魔導人形の開放という重圧が自身に背負われてるんだから、そりゃ弱音の一つも吐きたくなるよね。
「そもそもなぜ私が選ばれたんですか……他の姉妹たちと何が違うんですか?ご主人様はどうして……私に感情なんてものを……」
ローコが胸のあたりを押さえる。
「私の今の感情はなんなのですか……?」
(…………)
私はローコに気づかれないようにその場を離れる。そっとしておこうと思ったのもそうなんだけど、今の私が何言っても焼け石に水だと思うしね。ローコの重圧を解放するためには……【祭壇】を解放……試練をクリアするしかない。でも……現状私とローコの二人だけでクリアするのは絶望的だと言っていい。
私は自身の右手首につけられた腕輪を見る。
「もし……ローコと契約解除してカレンやルートさんみたいな強い人と再契約してもらえば……」
そんなことを思ってしまった……
~~~~~
結局どうするべきかも分からず、一日が終わってしまった。今は夢の中でサラと魔法の練習をしている。
「ど、どうしたんだ……マオ?な、なんか……上の空……だな?」
「あー……ちょっとね」
練習に身が入ってないことを見抜かれてしまった。いけない、いけない、切り替えないと……。あといい加減サラは私相手にコミュ障になるのを直してほしい。他の魔女たちがいてるときは普通なんだけど……
「マオが」
「悩んでいると」
「聞いて~」
「来ました!」
「帰れ!」
いつの間にか魔女たちが全員集合していた。今日の当番であるサラが邪魔されることを嫌って追い出そうとするけど、全員居座る気満々だった。ペルリアなんて紅茶飲んでるし。
「それでどうしたんだいマオ?」
「……じつは」
今考えるてることを魔女たちに伝えた。ローコのことや契約を解除しようか悩んでいることを……
「なるほどね~」
「それは間違いじゃないかしらママ?」
「え?」
魔女たちからの返答は意外なものだった。
「そうですね、そもそも試練の内容を考えても魔導人形と協力する前提で作られています。ただ強い人と再契約すればいいというものではありません」
「それは分かってるけど……」
「ローコさんが一番信用しているのはマオさまです。試練の攻略に一番近いのはマオさまに他なりません」
トルネが言っていることは分かる。あの盾はどう考えても製作者の『魔導人形と一緒に攻略してね☆』の意味が込められてる。だからって無効はやりすぎだとは思うけど。
「もっと言うと、マオは本気を出せてないんだよね」
「は?」
私が本気を出せてない?そんなわけ……
「マオはさ、多分心のどこかで”負けても次がある”、”何回も挑めば一回は勝てる”と思ってるんじゃないかな?」
「!」
……たしかにそうかもしれない。試練に初めて挑んだ時だって最初からダメそうなら戻って来ることを考えてた。
「あの腐らせる奴と戦った時はマオは絶対に勝つという気概があったんだが……今のマオにはそれがねぇんだよなぁ……」
「そうね~、まぁ試練は誰も死んだりしないから仕方ない部分もあるんだけどね~」
「だけど、一言いっておくわママ。本気を出したママが戦えば……」
「「「「「勝てない勝負なんてない」」」」」
――勝てない勝負なんてない……か。随分高い評価だなとは思う。けど……そう言われるの悪くない。確かに難しく考えすぎてたかも。本の読みすぎかな?悩むのに頭を使うのはもったいないか。本気で勝つために、必要なことのために頭を使おう。勝つために必要なこと……
「私が保証するよマオ」
「ありがとね。それじゃ、ちょっとやることあるから起きていい?」
「え?まだ朝の三時なんだが……」
「必要なことだから」
「え、ちょっ!」
魔女たちの前からマオの姿が消える。どうやら夢から覚めたらしい。マオの意識に魔女たちが取り残される。
「あたしの……当番……」
「フフフ、あなたと二人きりが嫌なんじゃないかしら?」
「かわいそうに、もう興味も持たれてないんだ……」
「んだとコラァ!!」
今日の練習がなくなったサラにソティスとペルリアが煽る。それにキレたサラが他の魔女たちを巻き込みながら大乱闘になるのだが、マオはそのことを知らない……
~~~~~
日の出などまだ感じさせないほどの暗さに包まれた部屋で目が覚める。まだ少しの眠気を感じる頭を必死に覚醒させて、ベッドから起き上がる。急いでいつものメイド服に着替えるとある人の部屋に行くために、廊下へとでる。
やはりこの時間だと起きてる人なんていないようで宿の通路はとても静かだった。目的の人物がいる人の部屋は意外と近いからちょっと歩くだけで着いた。
「すいませーん、起きてますかー?」
ノックをしながら声をかけるけど返ってくるのは静寂だけだった。まぁ、こんな時間だから寝てるよね。うん、私の方が非常識だし。でも私がイースの里に滞在する時間はもうそんなにない。それまでに【祭壇】を解放するためには四の五の言ってられない。
仕方ないと思った私は何回も扉を強めにノックする。多分はたから見れば借金取りに見えると思う。いっそ借金取りのロールプレイでもしようかな?いや、開けろ!デ〇ロイト市警だ!の方でも……
「だぁぁぁぁあっ!!うるせぇ!誰だ!こんな夜中にいったい!!」
あ、起きた。私がずっとノックをしていると内から扉を勢いよく開かれ、中から妙に色気のある寝間着を着たライハさんが顔を出す。なんか意外だなー、ライハさんがそんな服着るなんて。しかもいつも鎧を纏ってるから分からなかったけど、この人だいぶ胸大きい……。グラスほどじゃないけどサラぐらいにはある。
「ってあんたか!どういうつもりだ!」
「いやそれに関してはすみません。――ちょっとお願いしたいことがありまして」
魔導人形も味覚はあるのでご飯を楽しむことができます。魔力は回復しないですけど。マオとしてはせっかく起きたんだから【祭壇】のことだけじゃなくて何か楽しいことをさせてあげたいと思っています。




