魔導人形
それはあまりに異様な光景だった。だってそうじゃん、なんで約千年のあいだ開かなかった建物の中に人がいるのさ。それっていままでずっとここに閉じ込められてたってことだし。だけど、この女の人なんか変なんだよねー
まず一つ目、綺麗すぎる。顔の話じゃないよ?まぁ綺麗な顔立ちはしてるけど。綺麗すぎるっていうのは、千年ものあいだ閉じ込めれてたなら、普通の人は死んで白骨化するはず。だけど、この女の人は埃を少しかぶっているだけで、白骨化もしてないし、なんなら今も生きていると言われても違和感がないくらい。
二つ目は……
「この服……メイド服?なのかナー?」
「確かに似てますね!でもそのようなデザインは見たことありません!」
着ているメイド服が元の世界で言うところのミニスカメイドの服に近いことだ。基本、この世界のメイド服は肌をあまり見せないデザインだ。というかそれしかない。だから女の人が着ているメイド服は本来この世界に存在しないはずのものになる。
(やっぱりこれって……私の仮説は合ってそう)
私が少し考えていると、カリスが女の人の方へと近づいていく。
「ンフフフ……【祭壇】の最奥に謎の女性……しかもアゼ人特有の角もなく奇妙な恰好をしている……あぁ!まさに謎だ!どこまでわたしを楽しませてくれるんだ【祭壇】は!」
感極まったように喋りながら、女の人のまわりをうろうろしながら観察するカリス。現代日本なら間違いなく通報されるほどの不審者だ。
「マオさん女の人も気になりますけどあの扉も気になりませんか!」
ナトちゃんが指をさした方向にはまたも扉がある。だけど今度はキーパッドみたいなものはない代わりに、看板がかけられている。
「えーと……”審判の間”……なんかすごい名前だな……。この扉を開いた先が審判の間ってこと?」
看板にはそう書かれていた。審判ってなんか試されるの?
「ン~!これも開かないナー……だが、この扉には先ほどのような仕掛けはない……鍵穴もない以上本当に開ける手立てがないナー」
ひとしきり観察し終えたのかカリスが扉の方に来て、開けようとするがびくともしない。あれ?これ詰んだ?
「任せてください!この扉も壊せば……」
「ナトちゃんステイ」
それは最終手段だから。ていうかナトちゃん脳筋すぎない?
「まだ女の人の持ち物とか調べてないよね?」
「そうだな、恐らく死んでいるとはいえ、女性の方だからな。男のわたしが無闇矢鱈に触れることはよくないと思ってな」
「じゃあなにか開ける手立ての物があるかも、私たちが女の人調べるから、そっちは扉の方調べといて」
一旦、二手に分かれて調べることになった。私はメイド服を着た女の人の目の前にまで行く。
(……ほんとに死んでるのこれ?)
目の前の女の人は指先一つ動いていないけど、まるでリリーさんみたいに凛として立っている。
「脈はないし、冷たい……」
手首を触れて脈がないことを確認して、やっぱり死んでいると言おうとしたその時……!
『生体的接触を確認……対象を識別……対象を”人間”と断定……これより本機との主従契約へと移行……』
「え」
突如動き出した女性から流暢な言葉が聞こえ、私は固まる。まだ手首には触れている状態だけど、女性の脈は一切動いてない状態だ。つまりこの女性は死んだまま動いているということになる。
「ゾ、ゾンビ……ですか?」
驚いているナトちゃんや固まっている私には気にせず女の人は私の右手首を掴んでくると、どこからか取り出した腕輪のようなものを私に嵌める。
「! ナニコレ!?」
マオが腕輪を外そうとするが手にひっかり物理的に外れないようになっている。
「どうしたんだナー!」
こっちが騒がしいことにカリスも気が付く。
「いや女の人が急に動き出して……」
「女性ではありません。私は”魔導人形”[MG-615]です。これからよろしくお願いしますマスター」
そう言ってミニスカメイドの女の人が私にむかってうやうやしくお辞儀をする。マスターって私のこと?もう何がなんだか……
(マオ……また女をたらしたのかい?)
(違う!)
(いつか刺されるぞ、マオ……)
(だから違うって!)
頭の中から私を非難する魔女たちの声が聞こえる。私にソッチの気はないのに……私たちが今の状況に混乱していると、いち早く我に返ったカリスが質問する。
「ンーっと、魔導人形?っていうのは何?」
「――マスターからの許可がありません。よってその質問には答えられません」
と言って突っぱねられる。マスターからの許可……
「ねぇ、マスターって私のこと?」
「はい、その腕輪が私とマスターの主従の証です」
腕輪が原因か!でもなんで私に……もしかして一番最初に触れたから?さっき生体的接触とか言ってたし……。とりあえず今は……
「じゃあ私が許可を出せばいいんだ、えーっと……」
「[MG-615]です」
言いにくい……。これ名前つけた方がいいわ。えーとMG-615なら……
「”ローコ”……名前があると便利だからこれからあなたのことローコって呼ぶね。あと許可出すから質問にも答えてほしいな」
「ローコ……」
ローコが自分の名前を聞いて不思議そうな顔をする。気に入ってくれたかどうか分からん……。でも嫌なら言ってくれるか。
「分かりました。本機の名称を今からローコと記録します」
「うん。それで”魔導人形”って結局何なの?」
「はい、魔導人形はその名の通り魔力で動く人形です。マスターと腕輪によって契約し、契約したマスターに仕えるというもの」
魔力で動く人形……だから脈もなかったんだ……。
「魔力で動くのなら、魔力の供給はどうなっているんだナー?」
「大気中の魔力を取り込み、自然回復します。スリープモードのなれば魔力の回復を早めることも出来ます」
「そうなんですね!ナトも質問していいですか!ローコさんって何ができるんですか!」
「マスターが望むことを何でもします。給仕であれ、夜伽であれ、すべて私の中にプログラムされていますが……我々魔導人形の主な役目は”戦闘”です」
「戦闘?」
そういえば、【祭壇】って里に危機が迫ったときに開くんだっけ?もしかして危機の時の防衛力って魔導人形のこと?
「はい、こちらをご覧ください」
そういってローコの左手がまるで機械のように変形していく。がしゃがしゃと金属がぶつかる音をたてながら、やがてある形のものへとなる。
「――ライフル?」
「!知っているのですか。驚きました……」
変形した左手はライフルの銃身のような形をしていた。いや世界観!ここ魔法の世界だよ!?魔導銃使ってる私が言っても説得力ないかもだけどさ……。にしても変形か……見てくれは人間にしか見えないんだけど、ほんとに人形なんだ……
一方で腕が変形するという未知にカリスは興奮していた。
「おお!すばらしい!腕はどうなっているんだナー!いやそもそも魔導人形とはいったいどのような設計がなされているのだ!あぁ……未知だ!その腕は魔道具なのかナー?だが、世界で初めての魔道具は950年前にエルフによって作られたはず……。もしや魔道具のプロトタイプ!?それが本当なら歴史が動くぞー!ンフフフ……!」
「マスター、この人気持ち悪いです」
私に言わないで。これはアゼ人の性みたいなものなんだから。
「無視して。最悪気絶させるのも許すから」
「分かりました。それでこのライフルの説明ですが、このライフルは”通常弾”と”魔力弾”の二種類の弾を撃つことができます」
通常弾はその名の通り、普通の鉄の弾なんだろうけど……魔力弾?私の魔導銃と違うのかな?
「魔力弾は圧縮した魔力の塊です。魔法みたいに火や水を起こすわけではありませんが、威力は通常弾より上です。しかし、魔力を消費するので私の稼働時間が短くなります」
「なるほど」
魔法を撃つんじゃなくて、魔力を撃つのか。ただの弾より威力が上らしいけど、どれくらいの威力なんだろう?
「それでローコはここで何をしていたの?[MG-615]っていうことは他にも魔導人形がいるんじゃないの?」
「……他の魔導人形たち594機はこの審判の間の先で眠っています」
「どういうこと?」
「マスターは【祭壇】の存在理由についてご存じですか?」
「イースの里では里が危機に陥った時に開かれるぐらいの言い伝えしか知らないけど……」
「それは正しいです。そして【祭壇】が真に開かれるときはこの”審判の間”を攻略したときです」
審判の間の攻略……もしかして試練みたいな感じ?
「審判の間にはご主人様が残した試練がおり、それを乗り越えた時、魔導人形一同が【祭壇】から解放されるようになっております」
「けど、その審判の間の扉自体が開かないんだけど?」
「この扉は魔導人形とその契約したマスターの二人しか入れないようになっています」
それって、私とローコ以外入れないってこと?じゃあ……
「【祭壇】の開放は私にかかってるってこと……?」
「はい」
えぇ、めんどくさ……。なんでこんなことに……
「……ローコはさ他の魔導人形たちを解放したいの?」
ぶっちゃけ、いま里に危機とか迫ってないから開放する意味ないと思うんだよね。なぜか入り口開いたけど。決して私が触ったからではないはず。でも開放しないということは、ローコとしては他の魔導人形たちをこのまま閉じ込められたままにすることになってしまう。
「……私はマスターの意向に沿います」
「…………」
「――ですが」
一拍置いてローコが口を開く。
「995年……長い年月を経て私が起きたことも奇跡の出来事といっても過言ではありません。次に【祭壇】の入り口が開くときが訪れるか想像も出来ません」
「……だよね」
「私は……この奇跡を逃したくない。姉妹たちを解放してあげたい……そう思います」
…………なるほどね。じゃあ、仕方ないか
「はぁ……ローコ、試練の内容について何か知ってる?」
「え……いえ、そこまでは……」
まぁ、だろうね。審判の間の外にいる魔導人形はローコしかいないと思うから、【祭壇】の設計者はローコと一緒に試練に挑む想定だろうしね。そりゃ試練の内容を教えてるわけないか。
「試練に挑んでくれるのですか?」
「まぁ……わざとじゃないけど、ローコのこと起こして契約もしちゃったしね」
それぐらいのお願いは聞く責任はある気がするし……見捨てるのも気分が悪いしね。私の言葉を聞くとローコ嬉しそうな顔へとなり、私の隣に立つ。そして審判の間へ続く扉を開けようとする。さてどんな試練やら。
「行くのか?」
「とりあえずね。どんな試練か分からないし、無理そうなら一回戻って来る」
「じゃあここでナトさんと一緒に待っているナー。本当ならわたしが審判の間へと入りたかったのだが……はぁ、あの時躊躇せずローコへと触れていれば……」
「そうならなくてよかったです」
まるでゴミを見るかのような目でカリスを見つめるローコ。ほとんどセクハラ発言だったから気持ちは分かるけどさ……
「じゃあ行こうか」
「はい」
そういって扉の取っ手に力を入れる。さっきはどんなに力を入れても開かなかった扉がすんなりと開く。これどういう仕組みなんだろう?
扉が開くと地下へと通じる階段が現れる。私とローコは薄暗い階段を降りていくと、やがて光源のある空間へと着いた。
「これって……」
その空間は体育館くらいの大きさの部屋で、いくつものセメントのような壁が乱立している。サバゲ―やら軍の訓練とかで使われそうな場所だっていうのが私の感想だ。
「何この部屋?試練の内容は?」
「――それは余が教えよう」
「「!?」」
マオでもローコでもない声がこの部屋に響く。二人は急に聞こえた声に警戒する。
「ふっふっふっ……幾星霜の時を経て待ちわびたぞ!同胞[MG-615]とそのマスターよ。余は魔導人形[MG-26]……”ツァール”である!」
宙に浮きながら自己紹介をするツインテールの幼女。ローコと似たようなメイド服を着てるし魔導人形だろうね。その背中からは機械の翼のようなものが付いており、ジェット噴射で宙へと浮いている。なにあの装備、もしかしてローコにもついてたりすんの?
「あなたが……[MG-26]……!」
「ちょっと!余にはご主人様からもらったツァールって名前があるのだぞ!そっちで呼びたまえ!」
「[MG-26]もご主人様からもらった名前ではないのですか?」
「……」
黙っちゃったよあの子。一瞬『そうじゃん』みたいな顔してたし。にしてもさっきローコも言ってたけどご主人様ていうのは【祭壇】を作ったアゼ人のことかな?まぁ魔導人形を作った候補なんてそいつしかいないわけだけど。
ツァールという魔導人形はローコの言葉に怒ってるのか頬を膨らませる。なんというかナトちゃんと似た可愛さがある。厨二病ぽいけど。
「ローコあの魔導人形についてなにか知ってるの?」
さっきの発言的にローコがツァールに対して何か知っているのは明白だ。もしかしたら試練にも関係するかもしれないし、一応聞いておく。
「はい、[MG-26]ことツァールは他の魔導人形とは少し違います」
「というと?」
「私たちのほとんどは量産するために同じ機構の設計ですがツァールだけは違います。ツァールは設計段階から私たちのスペックを大幅に上昇させた人形として造られた……――最強の魔導人形です」
どうやら目の前の幼女は最強の名を冠する幼女だったらしい……
一切会話に入ってこなかったナトちゃんは魔導人形の説明の途中で脳がパンクしています。




