アザト・マオ
「蔵書塔【トナコ】……」
私は再び塔を見上げる。蔵書塔……ってことはこの中に本がいっぱい管理されてるってことだよね。だからここに来たんだ、私たちの目的って歴史と資料の閲覧が目的だったから。
「さて中に入りましょうぞ」
アードゥルさんにうながされ皆で中に入る。ちなみにリファは興味がないらしく中に入らなかった。まぁ千年以上生きてるしね。歴史の生き証人って感じだし。
中の様子はまるで別次元みたいだった。中に入った瞬間、鼻につく本の匂い。天井は高すぎて見えなくて、壁はそれ自体が棚になっていて本がびっしりと並んでいた。そして中央にある螺旋階段……まるで創作の世界に迷い込んだみたいだった。
私はその光景に少しの間見とれていた。元の世界にあった図書館みたいな雰囲気に少し懐かしさを感じてしまっていた。
けどよく考えるとこの中から特定の本たちを探さないといけないの?検索機能とかないかな……あるわけないか……
そんなことを考えていたら……
「知りたいのは”魔女の残り火”による記録でしたな。それはもうこちらで探して、別室に置いております。また、それに関係あるかもしれない、【魔女】の記録や歴史も探しておきました」
アードゥルさんが何でもないかのようにそう言った。え?この量の本から探したの?この何万もありそうな本の中から?もしかしたらそれ以上の量かも……
「もしかしてアードゥルさんってすごい人?」
「あー、マオちゃん?アードゥルはんはあれでも里の長を務めてる人やで。この塔にある本の内容や配置をすべて覚えてるんや」
「それだけじゃありません。頭も切れますし、なにより心を読む混合魔法を持っていると言われ、交渉なんかもお手の物な方なのです」
おじいちゃん、意外とハイスペックだった件。ハストさんといいアズさんといい、この世界のおじいちゃんはすごい人しかいないの?
「じゃが、【魔女】に関わる資料は閲覧の制限がされているのは知っているじゃろう?閲覧できる人にも条件があってのう……王国騎士団の副団長以上、エル教の聖騎士統括、公爵家の当主様は問題ないのじゃが……。その使用人とかは閲覧できないのじゃ」
アードゥルさんが申し訳なさそうに言う。魔女の資料ってそんな厳しく規制されてるんだ……、なにか理由があったりするのかな?
(魔女たちはどう思う?)
(そうね……、恐らく魔女に成りたがるのを防ぐためじゃないかしら)
(そうですね、私たち結構な被害を出しましたから……、忌み嫌われるくらいには)
確かに今も魔女たちについて語り継がれていることは、まるで災害みたいな強さだったってことをよく聞く。王国でも悪党みたいな扱いより、天災みたいな扱いをされている。残り火にいたっては今も被害を出し続けてるしね。
(あれ?でも魔女についてはまだ全然解明されてないんじゃなかったっけ?成り方とか分かるの?)
(魔女に関する研究がそもそもこの国じゃ大罪になんだよ。成り方が分かるというより成り方を考えようとしただけで捕まる)
あーそういうことね。にしてもやっぱりこの国では魔女は特別な存在なんだなぁ。
「それじゃあ、リリーたちはここで待っておいていいかしら?」
「それでしたら、私は宿で荷造りをほどいておきます」
リリーさんがそう提案する。そういえばイースの里に着いてから、直接ここに来たっけ。たしかに荷造りほどいてないや。ということはここに残るのは私とナトちゃんだけか。
「頼むわね」
「お任せを」
「あ、そういえばアードゥルさん。待っている間ここの本を読んでもいいですか?」
私は資料の置いてある部屋へ行こうとしたアードゥルさんを引きとめ、そう質問する。
「えぇ、どうぞ心行くまで読むといいぞ。なんじゃったら外へ出て観光するのもいいじゃろう。他の国の文化についても知れるじゃろうて」
たしかに、塔に着くまで街を見ながら歩いていたけど、アゼ人の来ている服が中華風だったり、和服を着ている人もいた。たしかに面白そうかも。
「それじゃあ、行ってくるわね」
カレン達が別室へ行き、私とナトちゃんだけが取り残される。じゃあ本でも読もうかな。王国の図書館では分からなかったこともあるだろうし。
私は気になった本を片っ端から取っていった。
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【トナコ】の中にある来客用に使われる部屋……塔の外見と合うような落ち着いたアンティーク調の部屋に案内されたカレンたちは適当に腰を掛ける。カレンたちの目の前にある机には、魔女に関する本と資料がずらっと並べられている。机を埋め尽くさんと並べられたそれが示すのは、アゼ人が幾千もの間、歴史を記録し続けた証でもあった。
本には日焼けや虫食いなどを防ぐための、アゼ人が開発した本専用の保護魔法がかけられている。これにより何千年ものあいだ本は新品同然のような手触りだった。
「さて……さっそく資料に目を通していきたいのじゃが……」
アードゥルさんの顔が真剣なものとなる。さっきのように好々爺のような穏やかなものじゃない。一体何を話すのかしら?
「ここにいる皆様は此度の残り火の異常をどう考えておるんじゃ?皆様の考えを聞かせてほしい」
「考えか?といってもなぁ……私には異様なことが起きてるなぐらいしか分かんねぇ……」
「ワイも同じやな。今年に起きた三件の残り火の被害も起きた日、時間もバラバラやしな」
「はっきり言って共通点がないわね……だからここまで来て、原因を探ろうとしてるわけだし」
上から順にライハ、ウェン、カレンの順番で話していくが、そのどれもが分からないという結論だった。魔女の残り火は魔物が残り火を食べてしまったことで魔力を放出することもあったり、自然災害の影響で起きたりもする。だが、今回の三件の被害にはそのような形跡はなく、すべて突如残り火が魔力を放出し始めたような感じである。これでは考えもクソもないだろう。
だが、一人だけ分からない以外の回答をした者がいた。
「…………僕は革命軍が関係してると思う」
「革命軍ですか?」
ルートは革命軍に盗まれた残り火のことが頭によぎっていた。もし、革命軍が残り火の封印を外す方法を知っていて、今回の事件を起こしたのではないかというのがルートの考えだ。
「なるほど……皆様の考えは分かりました」
「それで、なんでこんなことを聞いたんだ?アードゥルのじいさん」
ライハがそう聞くと、アードゥルさんは私の方をチラッと見ると、覚悟を決めた表情で話し始める。
「私は最初、今回の残り火の事件を起こしたのはマオさんではないかと思っていました」
『!?』
私たちの間に動揺が走る。マオが……?
「カレンさんがマオさんを雇われたのは4月の1日でしたね?」
「えぇ、そうね……」
「今年の三件の被害はそれ以降の日にちに起こっている。それも一件は同月中に」
確かにナトの村での一件は4月中の出来事だった。でもそれだけじゃ根拠が弱すぎる。
「そして、初めてカレンさんがマオさんに会った時に魔女の魔力が付着していたのも気になったのう」
「でもよ村での一件の時、マオは王都の外に出ていなかったらしいぜ。それにやる動機が分かんねぇ」
「村でのことは共犯がいたということで一応の筋が通るんじゃ。そして動機じゃが……マオさんは魔女に魅入られたのではないかと考えておった」
「魔女に?」
私たちが不思議そうな顔をすると、アードゥルさんが一冊の本を私たちに見せる。
「――この本は約千年前……”最悪の魔女”が起こした魔女事変の記録じゃ」
――”最悪の魔女”ソティス……五人いる魔女のうち最も忌み嫌われる【魔女】……。それは残り火によって死んでもなお現代に被害を出し続けている魔女であるからだ。
他の四人の魔女も、獣人が住まう国……獣王国の三つの都市を壊滅させた”生命の魔女”。竜を殺し、何人たりとも足を踏み入れることができない【穢れの地】を生み出した”汚染の魔女”。唯一人間以外から成り、エルフを滅ぼし、危険な魔道具をばら撒いた”魔具の魔女”。人が寿命で死ぬまで眠りから起きることがなく、大勢の人の意識を奪った”眠りの魔女”など、決して小さくはない被害を出しているのだが、それでも最悪の魔女には敵わない。
「カロン王国がまだコルヴァズ帝国だった時、最悪の魔女によって国が滅ぼされたその日現場にいた、【完全記憶】の混合魔法を持ったアゼ人が命からがら記録したもの……」
そう言ってアードゥルさんは本のあるページを私たちに見せる。私たちはそのページを食い入るように見てみると、内容は当時のコルヴァズ帝国では【魔女狩り】が起きていたことなどが書かれている。私たちは本を読み進めていくと、ある一点に目が留まった。全員がその記述を見て困惑している。なぜならその部分には本来あり得るはずがない名前があったのだから……
「これは……どうゆうことや……」
「…………」
「意味分かんねぇな……」
本にはこう書かれていた……
「――”最悪の魔女”による魔女事変が起きた日、コルヴァズ帝国では魔女狩りによる魔女の処刑が行われていた……。処刑された魔女の名前は……
――――アザト・マオ」
情報量が多い多い。まだ、第二章が始まって四話だよ?
ちなみにアードゥルさんの混合魔法は心を読む魔法ではないですが、それに近いことができます。あとがきで書いたのはもしかしたら本編では説明しないかもしれないからです。




