蔵書塔【トナコ】
「もうすぐで着きそうだな」
日がまだ出きっていない朝に途中で泊まった村から出発して数時間馬車に揺られていたけど、ようやく目的地に着くらしい。にしても昨日は色々あったなぁ。昨日会った商人と冒険者の一行は途中の街まで一緒に行ったあとに別れた。怪我した商人は大損だとか言ってたけど、魔物に襲われて命があるだけましだと思う。オーガ?まぁ……良いやつだったよ……
そのまま少しの間馬車に乗っていると、ふと空気が変わったのを感じる。どうやら結界の中に入ったっぽい。けど、前に村で結界を通り抜けた時の感覚とはまた違った感じがする。村での結界は暖かいような感じがしたけど、今回のは漠然とした感覚で、いつの間にか結界の中にいたという感じだ。もしかして効果が違ったりするのかな?
そんなことを考えていたら、いつの間にかイースの里が見えてきた。里って言うくらいだから、どちらかと言えば村の質素な家が多いのかと思ったけど、外から見た様子はレンガや石材などを基調とした建物や門がそびえたっている。どちらかと言えば王都の街並みに近かった。
だけど、見える建物の中には、西洋風な建物の他に日本風の和を連想させるような建物やインド風な建築物など、別の文化を感じさせる建物が多くあった。様々な国の知識が集まっているから、その文化とかも吸収していって今みたいな形になったらしい。なかでも……
「あの塔はなんですか!」
「あれですか?まぁ……多分すぐにわかると思います」
里の外からでも分かるほど、天高くそびえたっている塔は一際目についた。ナトちゃんも気になっていたけど、リリーさんは意味深に言葉を残すばかりだった。カレンもこっちを見てニヤニヤしてるし、なんだろう?
里への入り口となる門の前まで来た時、門番に止められる。
「止まってください。あなたたちは王都からの使者ですね?連絡は承っています。証明となるものを提出してください」
門番は淡々としながら確認作業をしている。私たちは馬車から降りて本人確認なんかをした。にしてもアゼ人ってほんとに角が生えてるんだ……。
門番は二人いるんだけど、一人は羊のような巻かれている角を持っており、もう一人は鹿のような角を持っていた。個人によって生える角の形が違うんだ……。
私たちが正式な使者ということが確認され、里の中へと通される。里の中の人たちは外からの人間が珍しいのか全員がこっちを見ていた。
「めっちゃ注目されてない?」
「それはそうよ。自分たちとは違う体を持つ人間なんて、アゼ人からしたら未知の塊のようなものだし、知識としてはあっても、自らが見て、触って確かめたいという人は多いわ。それにアゼ人はどこの国へ行っても狙われるから、この里から一歩も出ずに死ぬ人も多いのよ」
あー、そうゆうこと。にしてもアゼ人たちは苦労してるんだなぁ……。外に出れば誰かに狙われてるかもしれない恐怖が常に襲ってくるんだから。
そんな針を刺す視線の嵐の中、私たちに近づいてくる人たちがいた。
「イースの里へようこそカロン王国からの使者の皆様」
杖を突いているよぼよぼのおじいちゃんのアゼ人が私たちを出迎えるんだけど……大丈夫?足腰が弱りすぎてずっとプルプルしてるんだけど。お付きの人たちが心配そうな目で見てるし。
「”アードゥル”のじいさん!動いて大丈夫なのか?」
「世話になっておる国からの使者に、里の長が出迎えんとはいただけんじゃろう」
どうやらおじいちゃんはこの里の長をやっているらしい。おじいちゃんとカレン達は知り合いのようで少しばかり世間話をしていた。まぁ、全員結構な肩書きだからね。イースの里の存在も知ってたし。するとそのおじいちゃんの目がこちらの方に向く。
「おやあなたは……もしやアザト・マオさまでいらっしゃいますか!?」
「私?まぁ……そうですけど……」
「いやはやお目にかかれるとは……【調査員】の報告から聞きましたぞ。なんでもあの切り込み隊の一人を倒すのに貢献したとか。会えてうれしいのう」
そう言っておじいちゃんは握手を求めてくる。断る理由もないので握手しておく。握手したとき一瞬おじいちゃんの目が鋭くなったような気がしたけど、気のせいかと思うことにした。にしても噂になってるのか……。切り込み隊ってそれだけ色んなとこでやらかしてきてるからなぁ……けど私ただのメイドだよ?
「アードゥルはん、マオちゃんとナトちゃんの二人にまだ自己紹介してないんちゃうん?」
「おやそうじゃのう、初めましてお二方、ワシはイースの里の長をやっておられる”アードゥル”と申す者じゃ」
「初めましてマオです」
「初めましてこんにちわ!ナトと申します!よろしくお願いしますおじいちゃん!」
「こちらのお嬢さんは元気がいいのう」
ナトちゃんと並ぶと孫とおじいちゃんの関係にしか見えないなこの人。あ、飴玉渡してる。完全に孫扱いじゃん。
全員の顔合わせが終わったぐらいのタイミングでお付きの人がアードゥルさんにコソコソとなにか耳打ちしていた。
「アードゥルさま……そろそろ……」
「おやそうか、たしか資料の閲覧が目的だったのう……では案内しますか」
「…………お願いします」
アードゥルさんがお付きの人におんぶされながら案内してくれる。移動方法そうなんだ……。まぁおじいちゃんの歩く速度じゃ日が暮れそうだし。そのまま私たちはアードゥルさんの後ろをついていった。
しばらく歩いていると塔にだんだんと近づいていっていることに気が付いた。もしかして目的地ってあそこ?
やがて、塔の真下へと到着した私たち。やっぱりここだったみたい。真下から見上げた塔は遠くから見た時より高く感じた。高さだけなら王城の二倍くらいありそう。
私が塔の大きさに圧倒されてると、アードゥルさんがこっちを見て、話しかけてくる。
「大きいじゃろう?これがイースの里の二大建造物の一つ……我々アゼ人が集めた歴史と知識、そのすべてが詰まった塔……――”蔵書塔”【トナコ】じゃ」
二大建造物のうち、もう一つは後で出てきます。




