エピローグ
革命軍による王都襲撃から一夜明けた今日、私たちサンライト公爵家のみんなは普段通りの仕事へと戻っていた。カレンの怪我もルトさんに治してもらい全員五体満足である。
リリーさんとナトちゃんは、昨日中断された仕事内容の説明をしている途中で、カレンは今王城で昨日のことについて王様と大臣たちと会議をしている。そんな中私は……
「水やりの時間だー」
庭の手入れをしていた。こっちも途中だったからね。今は生垣に水やりをしている途中……、そういえば、今日は私がこの世界に来てからちょうど一か月がたった日だ。いろんなことがあったなぁ~。村での狼との鬼ごっこや王都の暴動やら……あれ?いい思い出の方が少ない気がする。いや悪い出来事が印象に残りすぎてるだけ、きっとそう。
そんなことを考えていると、カレンが王城から帰ってきた。
「ただいまマオ」
「おかえりー」
水やりをしている私の隣に来たカレンと他愛もない話をする。といってもカレンの愚痴がほとんどだけど。今日の会議での大臣やら貴族やらの話し合いや、賢老会からのネチネチした小言などカレンの口から愚痴が出てくる。しばらく聞いていると、カレンがなにか思い切ったような感じで質問がとんできた。
「……マオはさ、昨日私を助けに来た時怖くなかったのかしら?」
「へ?んー……、まぁ怖くなかったといったら嘘になるかなぁ」
舞踊は私たちのことを殺すつもりだったし、腕掴まれたときはガチで死を覚悟した。でもねぇ……
「親しい人を見捨てようと思う程、心が死んでるとは思ってないし……、それに後から後悔したくなかったから」
「そう……」
私の返答を聞いたカレンの顔はなんだか少し笑っている。にしても顔がいいな……。横顔だけど生垣の花と合わせて絵になっている。
「あら?マオ、まつ毛にゴミみたいなものが……」
「え、ほんとに?」
「取ってあげるから、少し目をつむってなさい」
カレンの言う通りに目をつむる。まつ毛に何か当たった感触がしたから、取ってくれたと思って目を開けようとすると
「――――へ?」
私の頬に一瞬何か柔らかい感触があった。なに今の……指?いやそれより柔らかくて、暖かかったような……。まるで……
私が目を開けるといつものキツメな顔をほころばせてニコニコしているカレンがいた。
「じゃあマオ、仕事頑張って頂戴ね」
「え、は、……わ、分かった……」
カレンは屋敷の方に歩いて行った。私が急な展開についていけずにいると
「あ、そうだマオ」
忘れ物に気づいたように足を止めたカレンが私の方に振り向いて……
「次は”こっち”にしてあげるから、もう少し待ってなさい」
自分の口に指を当てながらそう言い残して、カレンは屋敷の中へと入っていった。今のって……てことはさっきの柔らかい感触は……
私が答えにたどり着きそうになると、急に私の頭の中がうるさくなり始めた。
(ああァァァァァァッ!?なにしてんだあのクソアマァっ!!)
(見せつけてくれるわね……ママ!私もキスをしていいかしら?上書きしないと……)
(寝取られた……マオが寝取られた……)
(あら~、まったくおいたがすぎるわね~)
(また泥棒猫ですか……、さてどう排除しましょう?)
魔女たちが思い思いに声を出すから、頭がキーンとする。ソティスはブチ切れて叫んでるし、ペルリアは夢の中でもないのにキスしようと言ってくるし、サラにいたっては脳破壊されたように小さな声で寝取られたとか言ってる。一番マシなのがグラスかなぁ……。トルネはなんか黒いし……いやでもグラスは声の感じじゃ怒ってるかどうか分かりずらい。顔を見れば分かるんだけど……。ていうかやっぱりあれキスだったんだ。
ペルリアの発言からキスされたことが確定になってしまったマオは空を仰いだ。とりあえず騒いでる魔女たちがうるさいから静かにさせる。
(魔女たちちょっとうるさいから静かにして)
(マオちゃ~ん、前みたいに少し体を貸してくれないかしら~)
(前って何?ていうか貸さない)
(マオさまは悪い魔女に騙されてるんです!一刻も早くあの女を消さないと……)
(魔女はあんたたちでしょ!?)
(どいてマオ!!あいつ殺せない!!)
そこで私は気づいてしまった。
(まってあんたら、なんでそのネタ知ってるの?)
私の言葉に魔女たちが全員『あっ』という声を漏らす。そのネタは私がいた元の世界のものだから、魔女たちが知ってるわけがない。魔女たちがそのネタを知る方法は一つだけで……
(あんたらまさか私の記憶を……)
(じゃあねマオ!!)
そう言い残して魔女たちの声が聞こえなくなった。いや何やってんだあいつら!私の記憶見んなって言ったよね!守ってるとは思ってなかったけど、せめてバレないようにしてよ!
私は魔女たちのことで頭を抱えてしまう。そんな風に今日も時が過ぎていく。元の世界に居たときには考えられない誰かといる、誰かと話す日常が……
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「ほんとに?マコトくん負けたの?」
オドからの報告にボクは心から驚く。驚いたのはマコトくんが負けたことにもあるけど、一番驚いたところは負けた相手にだ。
幻の魔物であるグリフォンと公爵家のカレンとそのメイド……たしかマオ……ボクの予想だとその面子ならば、マコトくんの勝率の方が結構高いはずだ。高い防御性能と一撃必殺の混合魔法、まさに死角がないと言えるものだった。だが、現実の結果は違ったものだ。そしてマコトくんが負ける一番の原因となったのが、あの突如現れた変数であるメイド……マオであるというのだから……
――フフ、本当に面白い……キミは一体どういう存在なんだろう?
「はい、情報を売ろうとしていたので私が殺しておきました」
「ふーん……マコトくんにはいっぱい働いてもらってたし、向こうに渡っちゃいけない情報も知ってたからね、仕方ないか」
とは言ってもこの段階でマコトくんが居なくなることは想定していなかった。マコトくんには王都の本侵攻にもいてもらうはずだったし、これは計画を大きく変更しないとね。
それと切り込み隊のまとも枠が居なくなるのはきついかな。切り込み隊は全員、我が道を行くなところがあるけど、その中でもマコトくんとルリムくんはまだまともだったし、指示すれば嫌々やってくれることもあったからね。他は自分の興味あることしかやらないし。
「そういえば目的のものは回収できましたか?私はハウンドと戦うのとルートが到着するまでに逃げるので手一杯でしたので……」
「あぁもちろんさ。ほら王城に保管してある”魔女の残り火”全部回収したよ」
そう言ってナイラは袋からいくつもの黒い結晶を机の上のばら撒く。全部で七個……これらはすべて王城の地下からとってきたものだ。ナイラとオドはこのために王城に侵入していた。
「ボクたちが元々持っていた残り火と合わせて十四個……かなり集まったね」
「目標の数までもう少しですね」
「そうだね本侵攻を行うときも近いね、といってもまだやりたいことがあるけど」
魔女の残り火を手でいじりながら会話するナイラ。しかしその笑みはいつものとは違い闇を含んだものであった。
「どうしたんですか?そんな気色の悪い笑みを浮かべて」
「いやね、思い出してしまったんだよ。あの王城の地下についてね」
オドが何が何だか分からないような目で見てくるけど、それを甘んじて受ける。だってボクも予想外だったんだから
まさか地下にあんなモノがあるなんてねぇ……♪
ボクはまた思い出し笑いしてしまった。
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「やられたな……」
「…………ごめん」
ハウンドとルートは今、王城の地下に居た。王城の地下は関係者でも、限られた者しかその存在を知らず、ましてや入るともなれば王族か王国騎士団団長くらいの場所だ。そんな場所に二人がいるのは、この場所が昨日、侵入してきた革命軍に見つかり、地下で保管していた”魔女の残り火”が盗まれたことに他ならない。今は他に被害がないか確認している途中だ。
「……構わん。だが次からはオレよりもこっちを優先しろ」
「…………うん」
こうは言ったが、こいつはそれでもオレの方を優先するだろうな。オレの脳内ではそういう結論がでていた。
「地下に入ったということは必然的に……これも見たのだろうな」
「…………多分」
二人の目の前には天井にまで届きそうなくらいの大きな結晶が五つあった。結晶は無色透明でその中身がうかがえるようになっている。それぞれの結晶、その中身には……
――――眠っている五人の【魔女】が居た……
第一章これにて完結です!
無事に終えることができてよかったです
多分、閑話を一つ投稿してから二章へ移行します




