閑話:誕生日と生姜焼きと酔っ払い
王都襲撃から五日後……5月5日サンライト公爵家にて……
「二人には大事な話があるわ」
「ゴクリッ……」
「それは言葉に出すものじゃないよナトちゃん」
屋敷の一室にて優雅に椅子に座りながら、真剣な表情で話し始めるカレン。それを聞くのはマオとナトの二人だけだ。
急にカレンから二人に話があると言われ、リリーさん抜きの三人で今この部屋にいる。私は何かやらかしたんじゃないかと思ってヒヤヒヤしている。
「五日後、5月10日は…………リリーの誕生日よ!」
「へぇ~そうなんだ」
「おぉーおめでとうございます!!」
カレンの口から出てきた言葉はやらかしではなくて、喜ばしいものだった。リリーさんの誕生日そんな近かったんだ……
「ということはもしかして……」
「えぇ、察しのとおりプレゼントとパーティーをするわよ!」
やっぱり。カレンがそう宣言すると、ナトちゃんも目を輝かせている。まぁリリーさんにはいつもお世話になっているし、感謝も込めて盛大にしないとね。
「いつも誕生日には特別なことをしているんですか?」
「したかったのだけど、忙しくてできていなかったのよ。ほら前は私とリリー二人だけだったから……」
ナトちゃんの質問に少し眉を下げて言うカレン。私たちが来たことで余裕が出てきたってことか。
「もちろん二人の誕生日にも……」
「どうしたの?」
「二人の誕生日を知らないわ……」
あー……そういえば言ったことないわ。履歴書なんかもなく即採用だったから、誕生日も知らないよね。
「もしかして私の誕生日も二人は知らないはずよね?私は11月9日よ」
「ナトは7月10日です!!」
「ありがとう、マオは?」
「あー……私は……」
私は口ごもってしまった。普段であれば誕生日くらい、なんてことないように言えるんだけど、今だけは言いにくい理由があるというか、できたというか……。でもどうせ教えるまで聞いてくるだろうしバレるのは時間の問題だと思って、口を開く。
「…………8日……」
「え?」
「5月の8日です…………誕生日……」
急に部屋の空気が凍ったように感じる。実はリリーさんと二日違いなんだよね私の誕生日。向こうの世界では祝ってくれる人もいなかったから、ただ年齢が一つ増える日って認識だったし。今日まで忘れていた。
「……ハッ!三日後じゃない!」
「マオさんの方が誕生日早く来ますね!」
固まっていたカレンが再起動し、こちらに詰め寄りながら叫ぶ。
「どうして黙ってたのよ!」
「いや、言わなかったというか……今日まで忘れてたというか……祝ってくれる人がいなかったもんで……」
私が正直に話すと、カレンは何か言いたそうな顔をしたけど、飲み込んでため息をつく。
「もうサプライズとかはできないわね……何か欲しいものとかはあるかしら?」
「いや別にいいって、リリーさんのプレゼントの予算にでもしてよ」
「それじゃ不公平でしょ。それにリリーがそのことを知ったら気まずくなるわよ」
それもそっか……、でも欲しいものとか急には思いつかないんだよねー。まだ異世界に来たばっかだし……、欲しいものにとらわれない方がいっか。何かみんなで出かけるとか、食べたいものとか……
「あ!それだったらお願いがあるんだけど……」
「「?」」
◇◇◇
「~~~♪~~~♪」
キッチンで鼻唄を歌いながら料理している私。今日は私の誕生日である5月8日だ。主役ともいえる私が料理をしているのには訳がある。それは……
「はい、豚の生姜焼き完成」
「へぇ……これがマオが居た世界の料理なのね」
「確かに見たこともありませんね」
「でもおいしそうです!」
出された生姜焼きを見て各々感想を言う。いやー、こっちの世界に来てから一か月弱、ちょうど日本食が恋しくなってきたころなんだよね~。こっちの料理は西洋風の国のイメージ通り、シチューみたいな洋風の料理が多い。それらもおいしいんだけど、やっぱり慣れ親しんだ庶民の味は忘れられないものなんだね。誕生日に料理をさせてほしいってお願いしてよかった。カレンたちも別世界の料理に興味があったみたいだし。
「それじゃいただくわね」
「はい召し上がれ」
全員がナイフとフォークを使って、一口サイズになった生姜焼きを頬張る。私も食べてみると味は申し分のない出来だった。後は米があったらよかったんだけどね……自分の作った料理に心の中で評価していると周りの手が止まっていることに気が付いた。
「みんなどうしたの?もしかして口に合わなかったとか……」
「~~~~っ!そんなことはありません!むしろとてもおいしいです!」
「えぇ!今まで食べたことがない味だけど、噛めば噛むほど、肉のしみ込んだタレの味が溢れ出てくるわ!」
「ナトも大好きですこの生姜焼きというものが!」
お、おぉう。なんか全員目を輝かせてるというか、料理を口に運ぶ手が止まっていない。リリーさんにいたってはいつもみたいな無表情がほんの少し崩れている気がする。え?そんなに美味しかったの?と思っているとカランという音が聞こえ、そっちの方を見ると、カレンの皿の上が綺麗になくなっていた。早くね?思わず二度見してしまった……
まぁ……口に合ったんならいっか……
私も久々の日本食を味わって堪能した。
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全員が食べ終え、皿を回収している途中……
「どうしたのカレン?」
「ん~~~~~?」
カレンは食べ終わった瞬間、机の上に突っ伏してしまっていた。いつものカレンならこんなことはしないのだが、何やら様子がおかしい。返事もグラスみたいに間延びした感じだし……
そんなことを考えていると急にカレンの手が私の方に伸びてきて……
ムニッ、ムニッ
「へ?」
服の上から私の胸を揉み始めた。
「?????ちょっ!?何してんの!!?」
「おぉ~~すご~い。マオって結構いいもの持ってるわね~。リリーと同じくらい……いやちょっと大きい?それにやわらか~い。リリーのは張りがあるかんじで……」
「人の乳を評価すんな!?」
私は急いでカレンの手を振り払おうとすると、抵抗してきた。力つっよ……どこからこんな力を……というかカレンの顔が異様に赤い……これってもしかして……
「酔っぱらってますね。マオさん、さっきの料理になにかアルコールの入ったものを使いましたか?」
「え?えっと……肉の臭みを取るためや味付けに酒やみりんを使いましたけど……」
それでもアルコールなんてほぼ入ってないようなもんだし、ちゃんとアルコールも飛ばしたんだけど……
「それですね。お嬢様は一滴でもアルコールが入ったものを口に入れてしまったら酔っぱらってしまうので」
「なんですかその愉快な体質は!?」
「しかも酔っぱらうと女性の胸を揉みたがります」
「おっさんか!?」
いつもの無表情で語るリリーさんの目はどこか遠いものを見ているように感じた。さっきのカレンの言葉といいリリーさんも被害にあったんだなぁ……
リリーさんと話している途中でもカレンの手は私の胸を触ろうとしてくる。私も必死に抵抗しているけど、力では負けてるし、たまにフェイントもいれてくる。ほんとは酔っぱらってないんじゃないかと思うくらいにキレのある動きをしてくる。
「ちょっ……リリーさん助けてください!」
たまらず私がリリーさんに助けを求めると……
「リリーさん?どうして私の耳を塞ぐんですか?」
「ナトさんのためです。さて急いでこの場から離れましょう」
「?」
「ちょっ! 待って! 見捨てないで!」
リリーさんはナトちゃんの耳を塞ぎながら、私とカレンの取っ組み合いを自身の体を使ってナトちゃんに見えないようにしていた。そのまま二人は部屋の外へ出て行こうとする。
「あ、マオさん、食器の片づけは私たちがしておくので心配はしなくていいです」
「そっちの心配するまえに助けて……」
「では」
「まっ!?」
私の静止の言葉を待たずに二人は出て行ってしまい、私はカレンと二人部屋に取り残されてしまった。
それから三十分後、カレンが寝落ちするまで私は必死に抵抗した…………
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翌日……
「あの……マオ?昨日のことはその……」
「えぇ大丈夫です。分かってますよカレンお嬢サマ」
怒ってませんとも、えぇ怒ってませんとも。直に胸を触ろうとして来ても、私が酒を料理に使ったのが原因だからね。怒ってないよ本当に。
「…………ごめん」
笑顔で青筋を立てているマオにカレンは冷や汗をかいていた。それからマオの機嫌を直すのにカレンは一週間かかったらしい。ちなみにマオに一番恨まれているのはリリーだったりする。
魔法の紹介
”ムーヴフィン”・・・風の魔法の一つ。対象を風で吹き飛ばすことができる魔法。便利で使っている人も多い。
”ラスアウス”・・・土の魔法の一つ。地面から土の槍を生み出すことができる。威力はあるが発動するときは地面に手を付けて詠唱しないといけない。
次回から第二章に入っていくのですが、次の投稿は一週間後になると思います。理由は第二章の細かい部分の構成を作るからです。大まかな流れと出すキャラとかは決まっているのですけどね。
また、感想や誤字脱字の報告はいつでも承っています。よければどうぞ




