仕方なかった
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俺がこの世界に転移して来たのは一年ほど前のことだった。ブレイクダンスの世界大会に出場することが決まって、それに向けてチームのメンバーと一緒に練習した帰り道のことだった。急に意識が朦朧としたと思って気が付いたら……この世界……魔法がある世界へと転移していた。
最初は何が何だか分からなくて、夢だと思って現実逃避もした。でも、頬をひねっても痛かった。それがどうしようもなくこれが現実だと言ってきているようで嫌だった。次に湧いたのは怒りだった。なんで俺が、いったい誰が、何のために、いもしないこの世界に俺を転移させた奴に怒りが収まらなかった。
ようやく落ち着いた後、俺は元の世界に戻る方法を探し始めた。俺はなんとしても元の世界に帰らないといけない。親父と母さんのもとに帰って、大会でも優勝して、メンバーと一緒に楽しくダンスできたらそれでいいんだ。幸い言葉は通じるから道行く人に元の世界に帰る方法を手あたり次第聞いていった。でも結果は、知らない、何を言ってるんだの二つだけ。酷いときは指をさして笑われもした。それでも俺は……
そのまま時間が過ぎて、とうとう夜になってしまった。こんな怪しいやつを泊めたいと思う奴がいつハズもなく、俺は生まれて初めの野宿をした。これからの不安と食べ物がないから空腹でその日は一睡もできなかった。――なんで俺が……
そして俺はプランを変更した。先ずは住み込みの仕事を探そう。大会まではまだ日があった、その日までに帰る方法を見つければいいと、それまでに死なないよう食と住の確保は必要だった。だけど、そんな都合よくいくはずもなくて、俺を雇ってくれるところなんて一つもなかった。
空腹が限界を迎えた時、俺の視線の先にはパンを売っている露店があった。俺は店主が目を離したすきにパンを一つ盗んだ。仕方なかった。食べなければ死んじまうんだ。俺は……悪くない。
それ以降、俺は盗みを働くようになった。一個くらいならバレないと様々な露店から食べ物を盗んだ。だがある日……俺が盗んだところを見られちまった。
「このクソガキがぁ!!」
俺は路地裏に連れ込まれてタコ殴りにされた。体中が痛い……なんで俺が……なんで俺がこんな目に合うんだ……。ふざけるな……ふざけんな!!
「待ってろよ、今衛兵呼んで……」
「…………けんな……」
「あ?」
「ふざけんなぁぁぁぁぁっ!!!!」
「!? がっ……!てめぇ……!……っ……」
俺は気づけばタコ殴りにしてきた店の男に馬乗りになって首を絞めていた。捕まって牢屋に入れられてしまえば、元の世界に帰れない……。少なくとも大会には絶対に間に合わなくなる。だけど、そん時はそんなこと一切考えてなかった。ただ……自棄になってた。
「俺は……俺は悪くねぇ!!全部仕方なかった!!」
「……ぐっ……な、なん……だ……?この……におい…………ま、まて…………ぁ……」
男の首が次第に変色していき、肉が柔らかく、えぐれるようになっていった。でも俺はそんなことに気づかなかいぐらい夢中だった。どのくらい首を絞めてたかは知らない。ただ力の続く限り手に力をいれていたら……気づけば男は動かなくなってた。
「え…………ぁ…………ヒッ!?」
目の前の男が死んでいることに気が付くと、俺は尻もちをついて手のひらを見た。手のひらの肉はグジュグジュになっていて痛みも感じたが、それ以上に自分が人を殺したという事実に恐怖していた。
(ころした…………おれが?違う!そんなつもりじゃ……俺はただ……元の世界に帰りたくて……!)
そこでマコトのなかである考えが浮かぶ。
(そうだ……元の世界に帰ればいいんだ……。そうすれば俺のやったことを知ってる奴はいない。何も問題がない……。こんな世界なんてどうでもいい。もう何人殺そうが…………全部仕方がない。仕方なかったんだ、俺は悪くない)
考えがまとまったマコトが立ち上がり、死体を隠そうとすると後ろから声が聞こえてきた。
「キミの混合魔法すごいねー。人を腐らせるなんて」
「!?」
声をかけてきたのは、男か女か分からない顔をした奴とその後ろに控えている清潔感のある服に身を包んだ秘書みたいな男だった。中性的な顔をしている奴は多分声の感じ的に男だな。そんなことはどうでもいい見られちまったからには……
マコトが二人に襲い掛かろうとすると、中性的な顔の青年は手を体の前にして落ち着けのジェスチャーをする。
「ボクたちはキミと争う気はないよ。もちろんキミの所業を言いふらす気もない。ボクたち自身お尋ね者でもあるしね」
「まだバレてないですけどね」
「そうだねオド」
そんなことを言っているが信用なんて出来るわけがない。そんな視線を送っていると俺の考えを察して、向こうの素性を明かしてきた。
「ボクの名前はナイラ・ホープ。革命軍のリーダーをやってるよ。こっちはオドね」
「オド・ヴェディオです。よろしくお願いします」
「革命軍……?」
聞き込みをしている時になんかそんな単語が聞こえてきたような……。なるほど、革命軍ってことは王国……つまり衛兵や騎士とは敵対関係ってことか。たしかに俺を衛兵に突き出すことはしなさそうだ。ほんとならな。
そんなことを考えていると、ナイラが話を続けてくる。
「キミの感じなにかワケありだろう?行く当てはあるのかな?」
「…………」
「無言は肯定と受け取るよ。どうだい僕たちと一緒に来ないかい?衣食住も保証するよ?」
その提案は魅力的に思えた。元の世界に戻るまでに衣食住は確保しないといけないからな。それに……
「……あんたら王城を落とすつもりなのか?」
「うん?そうだよ。王様殺したら面白くなりそうだしね」
「……ならちょうどいい」
王城の中なら管理されている本や書類があるはずだ。その中にはもしかしたら元の世界へと帰る方法が書いてあるものもあるかもしれねぇ。
「――入ってやるよ革命軍」
「ハハハ、――歓迎するよ。ようこそ”世界の敵”へ」
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「――ぁ…………?」
俺が目を覚ますと仰向けに倒れていた。今のは……走馬灯、いや夢の方か。どのくらい気を失ってた?体中が痛い……声もでねぇ……のどが焼けてんのか?俺は確か…………負けたのか?…………まだだ、さっさと傷を治してこんな奴ら……
マコトが混合魔法を使おうとして異変に気付く。
(! 魔法が……使えねぇ……!?)
デュアルだけでなく基本魔法も使えないことに驚くマコト。いったいなぜ?と考えようとしたとき、両手首に硬く、ひんやりとした感触を感じた。
(これは……手錠か?)
痛みで動くこともままならないが、無理やり首を動かして確認すると、自分の手首に手錠がはめられているのが見えた。しかも俺の手袋がさっきの光線で焼失していた。
この手錠は衛兵たちが犯罪者を捕まえるときに使う、”魔封じの手錠”だった。手錠をはめた相手の魔力の動きを阻害し、魔法を封じる魔道具の一種である。それが今マコトの手首にはめられている。
マコトは自分の状況を把握すると、自らが詰んでいることに気が付いた。すると近くで何かが動いたような音が聞こえた。
「あ、起きた。気分は最悪?それならいいけど。カレーン!こいつ起きたー!」
音の正体はマオと呼ばれていたメイドだった。俺が目を覚ましたことに気づいたようで、あの公爵家の当主を呼んでいる。どうやらこいつが俺に手錠をはめたようだ。
だが、マコトにそんなことを気にする余裕はなかった。マコトは今、頭の中で今の現状への怒りが反芻していた。
(ふ、ふざけんな……!なんで俺が……俺がこんな目に……。そうだ、このメイド……この女のせいだ!ふざけんな!俺と同じあの世界の人間のくせに……底辺の人間のくせにぃっ……)
…………底辺の人間?なんで俺はそんなことを……俺とあいつは会うのが二回目のは……ず…………
◆
『おい、何無視してんだよ。金持って来いって言ったよな?』
『…………』
『…無視してんじゃねぇよ!!』
『っ!…………』
『あれなんだ?』
『あー、なんか二組の方で女子のいじめがあるんだってよ。それじゃね?たしか名前は……』
『いや別にどうでもいいだろ。可哀想だと思っても関わりたくねぇ。さっさと練習しに行こうぜ。新しい技見せてやるよ』
『おっ!マジで!?』
◆
思い出した……こいつ学校でカースト上位の女子グループにいじめられてたやつじゃねぇか!なんでこいつが……いや、そんなことはどうでもいい。これからどうすればいいんだ……。俺が死んでないってことは少なくともこいつらに俺を殺す意思はない。俺は牢屋にぶち込まれるだろうな。問題は俺が死刑かどうか……!
「起きたのね、ならこれからあんたを連行するわ…………聞いてんの?」
牢屋にぶち込まれるだけならまだいい。手錠をつけられたまま生活しないといけねぇから魔法は使えないが、確かスプーンで壁を掘って脱獄した話を聞いたことがある。脱獄しちまえば何とかなる。だが、それには時間がいる。もし死刑の場合、死刑執行まで時間的に脱獄が間に合わない可能性がある。俺が何人も殺しているのはバレてるから俺が死刑の確率は高い……!
「反応がない……のども焼けてて声も出せないし……どうする?」
『我が乗せて行こうか?』
「……だってカレン」
「それじゃあお願いするわリファ」
『任せよ』
そうだ……俺は元の世界に帰らねぇといけない……!そのためには生きとかねぇと始まらねぇ。なら……
俺を持ち運ぼうとしてきた公爵家の人間どもに、ガスガスの声で話しかける。
「ま゛……て……。がくめ゛いぐんの…………ごとも……ずべてはなす……。だがら……いのち…………だげは……」
どんな手を使っても……絶対…………
情報を売ろうとしたマコトに空からの凶刃が迫る……!
◇◇◇
最初に気づいたのはカレンだった。突如、上から姿と顔を隠すようにローブを着た奴が、手に持った大鎌をこちらに振り下ろそうとしていた。狙いは……舞踊っ!
「!!? させない!」
カレンが咄嗟に鎌を持っている手を蹴り上げるようにして攻撃をずらす。なにそれすっごい……。って感心してる場合じゃない。誰あいつ……多分身長的に男?かな。
「あんたも革命軍?」
「…………」
カレンの質問にローブを着た奴は答えずに、こちらを切り裂こうと再び距離を詰めてくる。
「”ヒータ”! ”スローヒータ”!」
カレンが火球と炎の矢を何発も撃つがローブの男には当たらない。だが、それはカレンの狙い通りだった。
「リファ!」
『分かっている!”フィン”!』
「!?」
カレンの攻撃はローブの男の動きを制限させるようになっていた。それを分かっていた私とリファは狙いを定めて魔法を撃つ。その攻撃はローブの男に直撃したかに思われた……
「…………」
「「!?」」
『すり抜けただと!?』
私が撃った”フラッシ”とリファの”フィン”がローブの男に当たったと思ったら、まるで実体の無いようにすり抜けていき、あいつのローブをはためかせるだけで終わった。多分あれがあいつのデュアル!
私たちが驚いているうちにローブの男は距離を詰め、カレンへ鎌を振り抜く。
『ぐぉっ……!』
「リファっ!!」
『問題……ない!』
カレンに刃が当たる瞬間、リファが間に割り込み攻撃をかばった。リファから鮮血が噴き出すけど、幸い傷は深くはないようだ。
ローブの男は地面に手を当て何か魔法を使おうとしている。私はそれを止めようと魔導銃の引き金を引くが……
「!? 弾切れ!?」
かちっかちっと音を鳴らすだけで弾が発射されなかった。クソッ!バカスカ撃ちすぎた。私は急いでリロードしようとするが、ローブの男の方が一足早かった。
「――”ラスアウス”」
「ぐがっ!?…………ぁ……お…………ど……」
「しまった!!」
地面から土の槍がマコトの腹を貫く。槍の先端はマコトの血がべったりと付いており、明らかに人が出してはいけない血の量が流れ出ていた。マコトは体をぴくぴくと痙攣させた後動かなくなってしまった。
やられた!最初の攻撃から舞踊が狙いだと分かってたのに!多分革命軍の情報を喋ろうとしたから口封じのために殺したのか。
ローブの男は目的は達したと言わんばかりにこの場から逃げる。あいつが路地裏へと入った後、私たちも逃がすまいと追いかけるが……
「っ!? いない……」
「どこに……!」
必死に路地裏を探すけど、誰かがいる痕跡どころかいた痕跡すらなかった。さっきのすり抜けることといい、幽霊のような……
こうして少しの後味の悪さを感じながら、王都襲撃は幕を閉じた……
マコトのIFルート
男が衛兵を呼ぼうとしたときにマコトが土下座すれば、男は見逃してくれました。そのあと路地裏で倒れていると、商人の娘に拾われます。しばらくしてその娘と結婚し、自分のデュアルで発酵食品や酒を造って大儲けします。元の世界には帰れませんが幸せな人生を歩むことができます。
あの時人を殺してなければなぁ……




