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ぷれみあむみにっつ  作者: 平塚白鴉
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二、昨夜のことを思い出す

続きものですが、途中からでも大変楽しく読むことができます。

 利益がふっとぶくらい値引きして仕事を受けた俺に対し、憤った上司はストレス解消も兼ね、俺を飲みに誘った。いや、誘ったというよりは拉致された。俺は用事はないけど「用事があるので今日は」と遠慮したのだ。しかし、上司は俺の腕をつかみ、二の腕をぐいっとつまんで、「上司と呑むのも仕事のうちだろ! 常識をわきまえろ」と、とてもありがたい社会人のマナーを教えてくれた。と言えば聞こえがいいが、完全に脅しだ。有無をいわさず、「いつもの店でな」といって上司は会社を後にしたわけだが、もしすっぽかしでもしたら、明日何をされるかわからない。俺は自由意志という名の強制のもと、いつもの呑み屋に行かざるを得なかった。

 遠慮なく先に一杯やっていた上司は、俺が着く時にはすでに顔を真っ赤にしていた。俺が席に座ると、注文をとる前からいきなりくどくどと説教をし始めた。

 俺には特殊な能力がある。聞きたくない話は、完全に聞き流すという能力だ。自動相槌機能と言ってもいい。怒られている間、俺の思考は停止する。そして、聞いてないのを悟られぬよう、俺の反射神経は絶妙なタイミングで「はぁ」とか「なるほど」とか「そうですねぇ」とか「さすがです」とか「わかりました」とか適当な相槌を打つ。

 その間俺は脳の中ではアニメが放送されている。子供のころに見たアニメのシーンがダイジェストで流れ、怒られている間でも、結構楽しい時間を過ごすことができるのだ。

 過去、俺は親に最長五時間説教されたことがある。日常的に怒られることが多かった俺は、自然とそんな能力を身につけていったようだ。

 人間の防衛本能とは凄い。

 そんなわけで。何をどう注意されたのか記憶にない。気がついた時には言いたい事をいい終わり、気持ちよくなった上司は俺の肩を叩き、「だから頑張れ!」と励ましてくれていた。何がどうで「だから」なのか判らなかったが、要約を求めるとまた話が初めからになってしまいそうなので、「わかりました! ありがとうございます!」と体育会系のノリで応じた。

 自動相槌機能の弱点は、その時食べたものもイマイチ記憶にないことだ。気が付いたらどうやら生中を二杯呑んでおり、料理もモツ煮と鮎を食べていたらしい。


 ああ、久しぶりの鮎なのに、ゆっくり味わいたかった。


「よし、じゃ俺は帰るけど授業料でここの払いは頼んだぞ」

 そう言って(鬼)上司はさっさと口笛を吹きながら帰っていった。

 俺の記憶が正しければ、その口笛のメロディは『まんが日本昔話』の『人間っていいな』という曲である。


 確かに、この後輩いびりはとても人間とは思えない。早く人間になってくれ!


 そうだ、この時俺は上司のことをこれから妖怪人間と呼ぶことにしようって決めたんだ。


 ……どうだろう? 何かカエルやハチマキに結びつく点はあっただろうか? もしや自動相槌機能発動中に何かがあったのか? ならば上司の方にも何かが起こっている可能性がある。不本意だがあいつに電話してみるか。

 俺はなるべく物陰に隠れるようにして、携帯電話を準備した。

「どうしたの、急に停まったりして」

「ミユウちゃんはちょっと待ってて。もしかしたら追われている手掛かりになりそうなことが分かるかも知れない。やつらに追い付かれてもばれないように、ミユウちゃんはちょっと離れてて、すぐに済むから」

 俺は呼吸を整えながらミユウちゃんに告げた。時計をみると九時二十分。上司はコーヒーを飲みながら今日の暇つぶしにどこのエロサイトを見ようか考えている時間帯だ。お楽しみのところ申し訳ないが、こちらも一刻を争う。俺は上司の携帯に電話を掛けてみた。

 上司の携帯電話のコール音は若者にはやっているちょびっ子セブンの歌が流れる。まったく、いい年して恥ずかしくないのか、と思っていたらつながった。

「おい遅刻をするならもっと早く連絡するのが礼儀だろ!」

 怒っている。

「す、すいません。ちょっとトラブルがありまして。ちょっとお尋ねしたい事があるんですが、昨日の呑みの後、カエルとかハチマキとか見ませんでした?」

 開口一番怒られ、気持ちが動揺してしまったのもあり、わけのわからないことを言ってしまった。

「ハチマキ? 何バカなこと言ってんだ」

「いや、ちがうくて、その、カエルの格好をした、いや、着ぐるみを着た人、人です」

「漫画に出てくるような、ハチマキマンってか? バカ野郎! 寝ぼけてねぇでさっさときやがれ!」

 上司は一方的に電話を切った。まぁ、わけがわからないのが当たり前だ。もしなにか心当たりがあれば、言葉に動揺が見えたはずだ。


 なにせ、常識はずれのことだもの。


 ズル休みになったと思っていたが、上司と電話するとなんだか仕事しないといけない気がしてきた。そう思うとずしっと胸の奥が重くなった気がする。

 そんな落ち込みムードな俺を見て、ミユウちゃんは心配そうな顔で見つめていた。

「はぁ、俺遅刻してもいいから会社いこっかな」

「無理よ」

「なんで」

「服」

 そう言ってミユウちゃんは私の胸元を指さした。

「へ、幸いスーツだよ。三十六時間くらいスーツは連続着したって平気なんだから」

 あまり大きな声では言えないが、最長五十八時間連続着したことがある。あ、その時はきちんと途中お風呂にも入ったし、下着も交換したよ。念のため。

「いや、そうじゃなくて」

 ミユウちゃんが次の句を継ごうとした時、なんとなく嫌な気配がした。

「まてぇ~!」

 角を曲がったところでこちらに気付いたカエルとハチマキが俺たちに向かって猛突進してくる。

「やべ、逃げよ!」

 俺はすぐに駆けだした。ミユウちゃんも慌ててついてくる。

 幸いカエルとハチマキはここにたどり着くまでにかなりの体力を消耗していたとみえ、猛突進といっても顔だけで体はおいついていない。

「追われてるのは俺なんだから、ミユウちゃんはどこか避難した方がいいよ」

 ミユウちゃんは軽やかに自転車をこぎながら「そうもいかないのよ、伝えなきゃいけないことがあるから」と言った。

 なんとなくドキッとした。先ほど振られたばかりだけど、それは自分から気持ちを伝えたかったってことなのかもしれない。

「お、俺はいつでもウェルカムだぜ。好きなら好きって、ほら、どんと言ってくれよ」

 ミユウちゃんは細い目をして、実に冷たく俺を見下した。

「いまはそういう冗談言ってる場合じゃないんだからさ。何か思い出さないワケ、この追われている状況。今はそれをはっきりさせるのが先!」

 それもそうだ。先ほどの電話で上司はまったく関係ないことが判った。つまり、二人で居酒屋で飲み、別れた後に何かがあったのだ。あの後どうしたんだっけ?


いかがでしたか? 面白かったらぜひはじめからお読みください。

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