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ぷれみあむみにっつ  作者: 平塚白鴉
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一、パンダマンからの電話

 ジリリリリ、ジリリリリ。俺の携帯電話が鳴っている。二日酔いの重たい頭を持ち上げ、携帯に手を伸ばす。電話番号は非通知。誰からだろう?

「もしもし」

『起きたか』

 変な声、瞬間警戒する。なんか変な奴からの電話か。詐欺か?

「あの、切りますね」

『お、おいおい切るな! 大事な電話だ。お前の命に関わる。早く逃げないと殺し屋がくるぞ』

 変な声というより、これはボイスチェンジャーを使った声だと気付いた。よくワイドショーで声を変えて本人と分からなくするやつ、あんな声だ。

 しっかし、命に関わるとはどういうことだ? 詐欺にしては変だ。

「あの、俺、眠いんです。後にして下さい」

 頭を働かせるにも、もう少し休んでからの方がいい。俺は眠ることにした。が。

『何いってんだ、眠ってる場合じゃないぞ! 今すぐ動きやすい服に着替えないと、時間がないんだ』

 見知らぬ声の主は食い下がる。俺の命を助けたいから、真剣に言ってくれてるのかな。じゃ、嘘でもないのかな。

「あの、よくわかんないんっすけど、ちょっとだけなら話をきいてもいいですよ」

『賢明な判断だ。今からお前のアパートにカエルの格好をした男とはちまきを巻いた男が訪れるだろう』

 カエル? 俺をバカにしてるのか?

「やっぱ切りますね」

『お、おい! 切るな! 分かった! 証明する! 嘘だと思うなら指示に従え、本当だから! 切るなよ! その前にじゃ玄関のドアを閉めろ。危ないが仕方がない。絶対にドアを開けさせるなよ、危険なヤツらだからな。もうすぐ来るはずだ。来たら静かに魚眼レンズで……』

 ピンポ~ン。呼び鈴が鳴った。なんとなくぼーっとしていた頭が瞬間醒める。俺は即座に玄関のカギを閉めた。部屋が狭いのはこういう時に便利だ。……って、昨夜は鍵開けっぱなしだったのかよ! びっくりだよ!

「こんにちは~。お兄さん起きてる~、いるかーい」

 聞いたことのない男の声だ。俺は恐る恐る魚眼レンズで外を覗いてみた。


 本当にカエルがいた。


 カエルの着ぐるみの頭の部分を被った黒いシングルスーツの変人がドアの前にいる。俺を呼んでいる。その隣には、ウェリントンの黒ぶちのサングラスに、鉢巻を頭に巻いたタコ坊主がいる。白いシャツ、ベージュの腹巻が似合いすぎるほどよく似合っている。

 俺は恐る恐る音をたてないようにドアから離れると、ひそひそ声で電話を掛けてきた謎の男へ告げる。

「まじで?!」

『きたか。ちょっと予想よりはやいな』

 謎の男もひそひそ声になった。まぁ、あんたはひそひそ声になんなくても聞こえやしないよ、と思ったが。お、ちょっと頭の回転が良くなってきたみたいだ。

「どうすればいいんすか」

『裏の窓から逃げろ。そして走るんだ』

「え、どこにいけばいいんすか」

『そうだなぁ、……北北西だ。逃げる時は北北西に向かえば間違いない』

 謎の男は確信に満ちた声で言った。俺はその確信の意味が分からなかったが、信頼することにした。

「わかった。ところであなたは誰なんです」

『そうだなぁ。まぁ、パンダマンとだけ言っておこう。また連絡する。幸運を祈る』

 そう言って謎の男、パンダマンは電話を切った。俺は着替えようと思ったが、幸いにも昨日からきっぱなしのスーツ姿だったので、そのまま逃げることにした。


 って、ここ二階だよ!


 玄関で俺を呼ぶ声が大きくなってきた。やばい、強行突破で侵入されるかも?! そう思った矢先、ドンドンとドアを乱暴に叩く音が響いた。続いてがちゃがちゃとドアノブをいじる音が。

 直観的にやばいと思った。俺はそっと靴をとり、財布と鍵を持つとベランダに出た。ベランダで靴を履き、下をみた。確かに、飛び降りて降りられなくはなさそうだ。裏は空き地になっており、雑草が軽く生えた地面。アスファルトやコンクリートで舗装されているわけではない。

 体力的にはそれなりに自信もあった。俺は勇気を振り絞り、ベランダから飛び降りた。

 やればできるものである。衝撃は強く、足腰のばねで吸収しきれなかった衝撃を腕で分散したので、ちょっと手首に痛みが走ったが、これくらいならしばらくすればすぐ楽になりそうだった。足もそんなにじーんときたわけではない。すぐに走れる。

 俺が北北西を目指して駆けだした時、後ろから声がした。

「お、あいつだ! 逃げたぞ!」

 どうやら玄関で粘っても出てこないので、裏に回り込もうとしたらしい。間一髪だ。俺はわけもわからないままパンダマンに感謝した。


 ……というのが今朝の出来ごと。そこから俺はひたすら逃げているわけだが。やはり分からない。何が起きているんだ?

「そのパンダマンからの電話って何時くらいにかかってきたの?」

 話を聞いたミユウちゃんが聞いてきた。

「ええと、ちらっと目覚ましを見たんだよな。確か八時過ぎだったと思う」

「ふーん。じゃ、今日が普通の日だったらハヤトは遅刻してたね」

 確かにそうだ。それは俺の悪い癖。飲み過ぎた翌日の遅刻率は今のところは八割という素晴らしい記録を打ち立てている。遅刻は社会人としては恥だ! とか、社会人失格だ! とか言われるが、遅刻常習犯ともなると、割と平気なもので、会社からすでにお咎めもなくなった。またか、くらいなものである。

 ……、ピンと来た!

「ナイスだよミユウちゃん。そこにヒントがあるかも!」

 今朝いきなりわけの判らない状態になってたわけだが、その原因がもしかしたら昨夜にあるのかも知れない。酒が入ってイマイチ朝までの経緯が思い出せないが、可能な限り思い出してみよう。もしかしたら何か手掛かりがあるかも知れない。


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