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ぷれみあむみにっつ  作者: 平塚白鴉
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三、さらに、昨夜のことを思い出す

途中からでもとても楽しく読むことができます。

 俺は成り行きで上司の呑み代までおごる羽目になり、その後むしゃくしゃした気持ちで電車に乗っていたのだ。そして電車から降り、一杯やらないと気が済まないと思ってラーメン屋に行き、呑みなおしたのだ。そこに出てきたしょうゆラーメンがまたしょっぱくて、ビールがすすむすすむ。お陰でかなり酔っ払い、なぜか店主が「お前さん、今日は何かあったね。これおごりでやるからさ、呑んでけよ」といって日本酒を飲んだのだ。

 銘柄がなんなのかとか、さっぱり判らなかったが、とにかくガツンとくる日本酒だった。そして目の前がふらふらしてきて、帰ろうと思ったんだ。

 ええと、何時頃だっけ。確か店を出る時に時計を見ているはずだ。テレビがついてて、その隣。テレビではリアクション芸人が手品をやっていたんだ。大きな箱に入り、顔だけ出して、剣をその箱にぶすぶす刺していくやつ。それで一本、本当に刺さって、「冗談じゃナイヨ! 冗談じゃナイヨ!」とお得意のギャグをギャグではなく、本気で言ってたんだ。ちょっと血を滴らせてたけど、そこにはモザイクがかかっていて、テレビの下には『番組上の演出です。さすが芸人さんは演技がうまいですね』とテロップが出ていた。

「ああ、あれ面白かったな」

 いや、そんなこと思い出してる場合じゃない。ついつい口から言葉も漏れてたぞ。気をつけないと。いつも嫌なやつの前で心の声が本当にでちゃって損をするんだから。

 時計は……、無理だ。判らない。

「ねぇ何が面白かったの?」

 もう、その話は置いとくんだよ、ミユウちゃん!

「昨日のワシントンってお笑い番組見て思い出しちゃったんだよ」

「ふーん。あたしその時まだ仕事帰りだから見てないや」

 ……閃いた! ナイスだミユウちゃん。その番組がやってるのは夜十時半から三十分。だから十一時はまだ回っていなかったんだ。だいたい時間はつかめたぞ。

 そこから俺はひとりで家に帰った、はずだ。しかしどうしても思い出せない。ラーメン屋では特別トラブルは無かった。きっとこの帰り道に何かが起きたのだ。

 ということは、ラーメン屋から家に帰るまでの道のりを実際に歩いてみると何か判るかもしれない。

「ミユウちゃん、もしかしたら手掛かりが判るかも知れない! ちょっと確認したいことがあるんだ。ちょうどカエルとハチマキもまけたみたいだから、ついて来てくれないか」

「うん、いいけど」

 俺はミユウちゃんと共に昨日の夜訪れたラーメン屋へ向かった。ちなみに家からラーメン屋の方角は北北西だった。

 パンダマン、何者なのだろう?


 基本的に方角があっていたので、通り過ぎた距離を戻るようなかたちで俺はラーメン屋に向かった。さすがに体力を温存したい気持ちもあり、ゆっくりと歩きながら向かう。

「ところでミユウちゃんは仕事大丈夫なの?」

 自分はともかく、なんとなく巻き込んでしまった感があるミユウちゃんに申し訳なく、俺は聞いてみた。

「大丈夫もなにも、昨日で仕事辞めたから今はフリーよ。有給消化中。ヒマジン・フォー・オー・ピーポーよ」

 全員が暇人ではないと思うが。

「はぁ、仕事やなことでもあったの?」

「いわゆるセクハラ上司ってやつ。嫌な奴がいてさ、いっつも私の胸ばっかり見てるのよ」

 俺はふきだした。

「胸って、ミユウちゃん、ないじゃない」

 綺麗な真っ平ら。きっとAカップとか、カップにならないくらいじゃないだろうか。男レベルな胸をしている。

「そう、あたしの自慢の胸を見て、『女だったらもっと色気出せ、胸を大きくしろ』だって。そんなことしょっちゅう言うから、セクハラだって言ったら、『じゃ、これがセクハラなら一緒に仕事できないな。俺が辞めるか、お前が辞めるか、どちらかひとつだな』、なんていうから。悔しいけどセクハラ上司がいなくなると仕事が回らなくなっちゃう、そんなのペーペーのあたしが退くしかないじゃない。頭にきて辞めてきたの」

「はぁ、それで昨日はいつもより仕事が遅くなったんだね。引き継ぎとかで」

 ミユウちゃんはすかっと頭空っぽな笑顔を作り、俺に言った。

「違うわよ。引き継ぎなんてそんなに無いもの。仕事が最後だから気の合う女の子とちょっと残って、お菓子を食べながらガールズトークをしてただけ」

 仕事で遅くなったって、その理由でも会社にいるのなら言えなくはないのかもしれない。

とりあえずミユウちゃんの時間の心配は問題ないようだ。一緒にいれるのは嬉しい。ミユウちゃんはどうやら俺に何か伝えたい用事もあるようだし、その用が済むまでは一緒にいてもらうことにしよう。


 ほどなくラーメン屋についた。駅から割と近いところにあり、電車で帰る際にはよく夕食に使うことも多い店だ。

 さて、ここから家までは徒歩十分。大抵歩き慣れた道で帰る。まっすぐしばらく繁華街……シャッター通りを通り過ぎ、左手に出てくる大きな公園を横切る。そしてほぼまっすぐの道でアパートまで着く。道自体は単純だし、変なところで曲がると遠回りになる。あまり寄り道しようなんて考えないだろうから、この一般的なルートで昨日も帰ったことが予想される。

「ミユウちゃんも、何か気になるところがあったら教えてね」

 俺とミユウちゃんは目を皿のようにして怪しいところがないか探しながら歩いた。

「ねぇ、ハヤト、あそこ怪しくない?」

 ミユウちゃんが店と店の間にある怪しい路地の奥を指さし、言った。

 覗きこむと誰かがアゲたような跡があった。すっぱいものが喉の奥にこみ上げる。

「あんなもののどこが怪しんだよ。気持ち悪い」

「だって、ハヤトは昨日酔っ払ってたんだよ。記憶が無くなるくらい呑んでたんだよ。もしかしたらあそこで吐いて、それで誰かとトラブルになったかも」

 ミユウちゃんは真剣だ。

「あのね。明らかにあのゲロはご飯もの。俺は直近でラーメンを食べてたの。だから関係ないよ。それに、俺はどんなに呑んでも、酔っ払いはするけど吐くことはないんだ」

 これは俺のささやかな自慢である。

「そうなんだ。ハヤトのじゃないんだ。う~、なんか急に気持ち悪くなってきた」

 俺たちは再び怪しいものがないか、公園に向かい歩きながら探した。

 しかし、特別有力な情報は見つからなかった。早くしないとカエルとハチマキに見つかってしまう。もしかしたらあの二人だけではなく、他にも変な奴が探し回っているかも知れない。そう考えれば、少しでもはやく手掛かりをみつけたい。


 公園についた。公園の遊歩道を横切ると近道になるので、いつも歩いて帰る際には通る道。しかし特別怪しいものはみつからない、とその時だった。

 赤いベンチがあるのだが、そこが明らかに怪しい状態になっていた。

「ミユウちゃん、ここのベンチだけ、なんか変だよね」

「確かに変ね」

 赤いベンチ。そのベンチの真ん中あたりの背もたれの部分が塗り直された跡がある。しかもその塗り直された場所の赤いペンキが、人の背中の形で型がついているのだ。その型の真ん中に、横長の長方形の後が、薄くついていた。なんだこれは?

「あ、そうか! これだったんだ!」

 ミユウちゃんが言った。俺にとっては物凄く謎だが、いつもぼけっとしている天然のミユウちゃんには判ったのだろうか。いや、それはないだろうな。

「これ、だからハヤトが座った跡だったんだね!」

 どういう意味?

「ははははは、ミユウちゃん、それはないよ。どんなに俺が酔っていても、こんなペンキ塗りたてのベンチに間違って座るようなコントみたいなこと、俺がするわけないじゃないか」

 ミユウちゃんはきょとんとしている。

「ハヤト、だって、背中」

 背中? 嫌な予感がした。俺は昨日仕事に出てからまだ一度も着替えていない。自分の背中を見る機会は無かった。

「まさか、ミユウちゃん、冗談きついぜ」

 ははははは、と笑いながら俺は上着を脱いだ。そして背広の背を見た。

「うそん!」

 俺は思わず声が漏れた。俺の背中は赤いペンキがべったりついて汚れていた。


 俺、こんなんで町中逃げ回ってたのか!


 カエルやハチマキのことを言ってられない、俺も十分怪しい人物だった。とほほ。

「ミユウちゃん、俺、なんか泣きたくなってきた」

「しっかりしてハヤト、きっとコレが手掛かりよ。この背広の真ん中にも四角い長方形の跡があるじゃない」

 確かにある。なんだこれは。

「これがきっと謎の鍵よ。これの正体が判れば、カエルさんたちが追っかけてる理由が判るかも!」

 ミユウちゃんは落ち込む俺とは対照的に興奮気味だ。

「それにしても、ミユウちゃんも早く言ってくれればよかったのに、人が悪いよ」

「あら、言おうとしたわよ。けど、ちょうどカエルさん達が追ってきて、逃げるのに一生懸命だったから」

 そう言えば俺の服を指さして「服」って言ってたな。

「はぁ、恥ずかしい。穴があったら入りたい!」

 そんな弱々しいことを言っていると、ミユウちゃんが俺を一喝した。

「バカ! やっと手掛かりがつかめてきたのに、そんなんじゃ捕まって大変なことになっちゃうかも知れないわよ! こうなったら何が何でも逃げ延びて、解決させなきゃ!」

 その通りだ。こんなとこでうじうじしてたってしょうがない。

「うん、そうだよね。ミユウちゃんありがとう」

 そして、ごめん。さっきミユウちゃんは天然だから、絶対いい気付きなんてないと思ってた。

「よし、じゃあまずは家に帰って着替えなきゃ。そして作戦会議だ!」

 もしかしたらミユウちゃんが俺の部屋に入ることになるかも知れない、なんて下心も抱きながら鼻息荒く言ったが、さらにミユウちゃんが俺を一喝した。

「ちやう! 今度向かうのは駅よ!」

 ええええ! なんで!

「どうしてだよミユウちゃん」

 ミユウちゃんは眉をりりしくたて、俺を力強く見つめながら言った。

「背中についてた四角いの、そこに閉まってあるからよ」


誰も読んでいないため一旦中止、他のプロジェクトを進めます。もしも続きが気になったらKindleにて販売中ですので、そちらでお楽しみくださいね。

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