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五色の章 九 円卓囲んで作戦会議2

作戦のメンツがそろいました。

「どこまで決まった」

「まだ穴だらけだ。今は県令印の捜索について話していた」

「ああ。それなら顕光に聞いて来たぞ」


 作戦の大筋の説明を聞きながら耿晨は、顕光に貰った見取り図を卓の上に広げた。

 西に位置する一角を指す。

 宋興が執務室代わりに使っているという内宮の部屋だが、かなり奥まった場所にある。


「この部屋にあるのは間違いないらしい。部屋のどこか、までは分からなかったが」

「……位置が悪いな」


 目的の部屋には窓がない。

 つまり廊下から入るしかない場所だった。

 辿りつくには、幾つかの回廊を渡り歩く必要がある。

 そこに至るまでに人の目に触れない事態はおよそ考えられない。


「……一番近いのは酉門ゆうもんだな」

「あなたまさか、門を破るつもり? 一瞬で大騒ぎになるわ。耿晨は単独なら正門から堂々と入れるけど……」

「どういうことだ?」

「うーん。……ねえ乃器。宋興の寝室はどこ?」

 乃器が指さした場所は、中央西よりの場所だった。

「どちらにせよ酉門だわね………」

 十の頭が一つの図面を覗き込む。

「……城壁を越えられれば良いんだがな」

「無理ですよ。道具を使おうにも角桜みはりだいもある。もたもたしていたら気付かれてしまいます」

「空でも飛べなければ無理、ということか」

 見つからない答えに、場が沈みかけたとき、緋雲がのんびりした口調で呟いた。


「それなら、なんとかなるかも」


 思いがけない言葉に、皆の丸い目が集まった。

 注目の的となった緋雲は、少し緊張した面持ちで、ええとね、と玲凛に問いかけた。


「淀苑で襲ってきた妖獣覚えてる?」

龍姪りゅうてつ?」

 うん、と生真面目に頷く。

 この空間の中で、最も非力と思われる二人の会話に、周囲が密かに目を見合わせる。


龍姪りゅうてつといえば、人喰いの妖獣の中でも獰猛な部類だ。

 目の前の細肩の二人が、龍姪に襲われて無事でいる経緯に心を馳せた。

 しかし、次に緋雲の口から出てきた言葉に、さらに度肝を抜かれた。


「あの子に乗せて貰えないかな」

「……できるの?」と玲凛。

 緋雲がさらさらと流れる蜜柑色の頭を、ちょこんと傾げた。

「多分、大丈夫だと思う」

「……そう。じゃあ城壁を越えるとして、角桜の目はどうしましょうか」

「ちょ、ちょっと待った」


 当然のように打ち合わせを続ける玲凛と緋雲を、大維が遮った。


「妖獣が人の頼みを聞くもんか」

「聞くわよ。そこの阿雪が目に入らないの? 天狗てんこうっていう妖獣なのよ。阿雪、おいで」

 玲凛が手を二つ打つと、部屋の隅で丸くなっていた阿雪が、駆け寄ってきて膝の上に跳びのった。

 玲凛に撫でられて、涼しげな顔で耳の後ろを掻く。


 言葉を失う一同の中、くくくっと、噴出したのは耿晨と松侶。

 こんな二人もいるのだな、と耿晨は眩しく思った。

 玲凛と緋雲なら、最早何を言い出しても不思議ではない。

 次々と予想を超えられる爽快さ。手配書だって回るはずだ。

 だが、こんな王ならば仕官しても良い、と思った。


「玲凛と緋雲が言うんだ。本当なんだろう。緋雲、危険な役割だが引き受けてくれるか」

「うん! ありがとう耿晨。僕頑張るよ」

 両手を握り締めて、顔を輝かせる緋雲の頭を撫でる。

「ねえ緋雲」

 松侶が緋雲に微笑みかける。

「もしかして、龍姪だけじゃなく色んな妖獣を呼べるのかい?」

 緋雲は瞬いた後、蟀谷に指を当てて、考え込んだ。

「うーん。龍姪の力を借りれば大丈夫かも」


「では、高苑を襲わせることは可能かな」


 松侶の明朗な声色で告げられた提案に、室内がざわついた。


「おい、とんでもねぇこと言うな。高苑の人間に死ねって言うのか」

「いや、そうじゃない」


 大維の興奮を諌めたのは、蚩尤だった。


卯門うもんを襲わせ、西の角桜の目を東に向ける。龍姪級の幼獣が四、五匹出れば、官府の県尉は出払うだろうな」


 誰のものとは言えない、生唾を呑む音が、静まった室内に響いた。

 行けるかも知れない。

 勢い任せだった話が、一気に実現に近づいてきた気がした。


「どうだ? 緋雲できるか?」

 代表して耿晨が聞いた。緋雲は複雑な表情で頷いた。

「できるよ。でも、そうなると妖獣たちが怪我しちゃうね……」

 仕方がないよね、悲しそうに俯く緋雲の肩を玲凛が優しく抱き寄せた。

 耿晨も二人を抱きしめる。

「すまない緋雲。辛いことを頼んで」


 緋雲を抱きしめたまま、玲凛が目で『大丈夫よ』と請け負ってみせた。

 それを受け、耿晨は見取り図を指差した。


「東に緋雲が回るとなると、西は門を破るしかなくなるな」

「それは私が役に立つと思うよ」

 事も無げに松侶が言う。


「実は私も、一頭騎獣を持っているんだ。尤も私のは借り物だし、戦いには向かないけれどね。蚩尤を運ぶくらいならなんとかなる」


 蚩尤が琥珀の男をねめつけた。


「何でもっと早くに言わない」

「話の流れでは、今言うのが最善だろう。下手な憶測を受けるのは避けたいしね」

「王のいない国に、妖獣を騎獣にできる者はいない筈だ」

 蚩尤の追求を、松侶は飄々とかわした。


「緋雲は?」

「こいつは良い。問題はお前だ」

「私のは別の国からの借り物だよ」

「どこの国だ」

「蚩尤それは図々しいよ。私を詮索するのは、自分の素性を明かしてからにして欲しいな」

「そこまでだ」


 耿晨が二人の間に立って、男二人の頭に拳を叩き付けた。


「後でやれと言っているだろうが。莫迦かお前らは」

 二人の間の卓上にがん、と足を載せる。

「次にやったら叩き出すぞ。分かったか」

 二人は殴られた頭をさすりながら、互いに目を合わせる。

「返事は?」

 しぶしぶ返事をしたのち、松絽が口を開いた。


「理想では、県令印を見つけるまでは、敵の目に見つかりたくないな。黒夜に空からの侵入となると、余程運が悪くなければ大丈夫とは思うけど」

「それなら私が単独で探そう。松絽は脱出だけ手伝ってくれればいい。私なら堂々と侵入できるんだろう?」

「それはそうだけど、いくらなんでも危険すぎない?」

「女官に変装すれば、いけるんじゃないか?」

「隠密行動で済むなら、耿晨より私がやった方がましよ。最後は力勝負になるってわかってるから、耿晨が行くんでしょ」

「女官のふりくらい、できると思うぞ?」

「あら、じゃあ廊下で高官に出会った時の対応をしてみてちょうだい」

「むぐっ」

「まあまあ」

 松絽が間に入った。


「ここは運を天に任せてみよう。さすがに一人は心配だ」

「短い時間でしたら!」

 乃器が口をはさんだ。

「短い時間でしたら、角桜みはりだいに私が立つことはできると思います」

「短いってどのくらい?」

「半刻ほどでしょうか? 緋雲が陽動を始めた直後に限りますが」

「なるほど、助かる」

 満足して頷くと、耿晨は作戦をまとめた。


「妖獣を扱うとなれば、新王の介入を想像する敵もいるだろう。その可能性がある以上、王と疑われている玲凛は、高苑を離れたほうが良い。玲凛は宋興の説得役だな。何なら、自分が新王だと信じさせてやれ。……危険だが人手がない。一人で大丈夫か?」

「俺らが護衛するよ」

 大維が声を張った。

「余所者だけに命をはらせちゃ、夢見が悪くて仕方ねぇ」

 大維は照れくさそうに、ほんの少し頬をひくつかせながら、

「ついでに、妖獣が現れたと騒いで、邑を大混乱させてやるよ。多少は足止めにもなるだろ」と提案した。

 一つ頷くと、作戦をまとめた。



「まず私が単独で入って宋興の身柄を押さえる。次に緋雲の陽動だ。酉門が手薄になったところで、松侶と蚩尤が官府に入る。松侶は隔壁の外へ宋興を運び、玲凛に身柄を預けてとって返してくれ。私たちはその間に県令印を見つけ出し、ここで待つ」

 図面の中央、中庭になっている場所を指す。

 一同が力強く頷く姿を認めて、耿晨がぱん、と拍手かしわでを打った。全ての議論は終わった、という合図の音だった。

全員の視線を集めて、耿晨は不適に笑った。

「さあ皆、陶に風を起こそう」


県は日本でいうと同じく県くらいの組織です。

ここは県警に護られた平時の県庁に攻め入るくらいの規模と思ってください。

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