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紺珠の章 四 薬草畑を作ります

緋雲が男気を見せました。

「言われた植物は採ってきたけどさ、玲凛」


 緋雲が木槌を振りおろした。


「どうして今、畑仕事しなきゃいけないの」


 方形に掘り出した大地に、緋雲が木枠を打ち付けた。


「つべこべ言わないの。同じものをもう一つ、ちょっと離れた場所に作って」


 玲凛はその方形の中に、感染者の排泄物を流し込んだ。


医療所から集めてきたものだ。

 緊張しながらも丁寧に、方形の穴に注ぎ込む。


「何してるの。僕も手伝うよ」


 駆け寄ろうとした緋雲を、手を突き出して止める。


「ここは危険だから、あっちに行って」


「まだそんなこと言うの? 僕もう少し怒ってみたほうがいいのかな」


 玲凛の拒絶をものともせず、緋雲は二つ目の桶を鷲づかみにすると、横に並んで中身を注いだ。


 昨夜の緋雲を思い出す。


「どうして今、畑仕事をするの」


 先ほど掘り出した土を、排泄物の上に満遍なく巻く。


「普通抗体は、人間の体内で作られる。

 でも赤死狐の抗体を作れる植物があるの。

 それがこれ、緋雲が採ってきてくれた黄灌おうかん

 赤死狐菌が繁殖した寝床で育てば、赤死狐の抗体を生んでくれる。

 通常この実は白いんだけど、抗体を含む場合は赤くなるらしいわ」

「赤い実ができれば、特効薬になるんだね」

「正解。よく理解できました」


 排泄物を屋外に出したのだ。

 これで失敗しましたなんて洒落にならない。

 なんとしても成功させなくてはいけなかった。


急に顔に影がさした。

と思ったとき、額に手ぬぐいが当てられた。


「大丈夫だよ、赤い実はきっとなるよ」


 目の前の紅い笑顔に微笑みかける。

 そのまま、緋雲の薄い胸板に額をつけた。

 もたれかかると、緋雲の両腕がすっぽりと包んでくれた。


「少し、疲れちゃったわ」


 くすり、と笑む響きが額から伝わる。


「一人で意地をはるからだよ」

「本当にそうね」


緋雲は、玲凛を包む腕に少し力を入れた。

 どうしたんだろう、と思っていると、安心したような吐息が聞こえた。


「玲凛、平熱だね」

「私、悪運だけは強いみたいね」

「まだ安心できないんだから、無理しちゃ駄目だよ」


 立場が逆転したような会話に思わず微笑む。

 不思議と居心地は悪くなかった。


「私、排泄物まみれなのに」

「うん。酷い臭いだ」


 顔を見合わせて笑ったとき、緋雲の後方に小さな影を見つけた。


「小風、そんなところで何してるの」


 呼びかけると、小風はもじもじしながら歩み寄ってきた。


「あんね。じっとしてたん」

「じっと? どうして」

「建忠が、今は邪魔しちゃ駄目だって」


 目を凝らすと、木の下に、建忠が居心地悪そうに立っていた。


 玲凛は思わず噴出した。今度は笑いで涙が出てきそうなほど。

 玲凛は建忠のいる方角に大きく手を振った。


「建忠さーん。誤解ですよ。

 これは飼い主が犬を抱きしめるみたいな行為だから」


 大きな声で伝えると、建忠が曖昧な感じで、小さく手を振って返してきた。


「建忠さん、照れてる」


 純情な建忠をからかうと、小風も真似して


「てれてる」


 と両手を叩いて笑った。

一緒に薬草畑を作りました。

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