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翡翠の章 四 崇斎《こうさい》様って良い人らしいよ

晴れてこの邑の住民になりました。

「好きに使ってくれ。目の前は大通りだし隣は俺んちだ。何かと勝手がいいだろう」


「前の住人は?}

「夫婦と幼い息子一の三人家族だった。

 親父さんもおばさんも、去年亡くなった」


「はたきと雑巾持ってきた」


 戸を開ける音を響かせながら、元気よく坦坦が飛び込んできた。


「んじゃ、奥の寝室からやってくれ」

「押忍。これ終わったら、稽古つけてくれよ」


 押忍という掛け声は、最近の平遥の流行だ。

 屈託なく笑って寝室にかけていく。


「もしかして、坦坦はこの家の?」

「まあな。もともと兄弟のようなもんだったからな」


 事も無げに言う。


「……王は何をもたもたしているんだ」

「さすが耿晨こうしん。えらく高いところに喧嘩売るじゃねぇか」


 拓達が、呆れたように茶化す。


「拓達だって、いつまでも登極しない王を恨めしいとは思わないのか」

「恨んだら、実りが増えるのか?」


 あっさり問い返されて、言葉に詰まる。


「確かに王が立てば実りは増える。

 恨んで王が立つなら、恨んでみても良いが、そうじゃねぇだろ。

 だったら無意味なことはしねぇ。

 そんな暇があるなら、痩せた土地でも耕すさ。よっと」


 拓達は、全ての窓の横板を外すと、掛け声と伴に乗っていた卓から飛び降りた。

 拓達の着地の勢いで、足元の砂埃が舞い上がり、耿晨は小さくむせた。


「拓達はすごい」

「すごかねぇ。誰もが生きるか死ぬかってときなんだ。

 見ず知らずのよそ様を恨むなんて体力使うことやってる場合じゃねぇってだけだ。

 誰かを恨むなんて、贅沢者の娯楽みたいなもんさ」


「贅沢……か」

「若しくは現実から逃げてる子供の仕事だな」

「耳が痛いな」

「そうか。まぁ、話してるくらいなら手を動かせ。働きながらでも会話はできる」


 勢いよく雑巾を押し付けられ、耿晨は大きく息を吐いた。


「拓達には敵わないな」


 手分けをして掃除に取り掛かった。

 黙々と作業を続けていると、不意に拓達が口火を切った。


「俺らは恵まれてる」

「はぁ」


「貞州は今税が五割だ。

 それに腑人税があるから隣の清丁郷せいちょうごうの税は六割、高苑県こうえんけんに至っては七割らしい」

「そんな、五割でも法外だと思うのに」

「ああ、黒夜以降、税は増える一方だ」


「ところが、ここ荊郷けいごうは税が四割五分だ。

 五割と言いながら、五分が里府に戻される。

 国の規定の五割を割ってるんだから、何かカラクリがあるんだろうが、俺のような農夫には理解できない計算なんだろうよ。

 分かるのは、崇斎こうさい様が郷長で、俺らは恵まれてるってことだけだ」

素敵な郷長がいるみたいですね。

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