漆黒の章 三 死人と乾杯
教師と子供たちが死んでいました。
●月×日。晴れ。
小斗が一人の女の子を連れてきた。
どうやらまた山に捨てられていたらしい。酷く衰弱している。助かるといいが。
子供たちは皆、かいがいしく世話を焼いている。
他人事と思えないのだろう。早く親が子を捨てずに済む日が来れば良いのだが。
○月△日。雨。
今日もまた、太陽は昇らなかった。
小斗が連れて来た女の子は、残念ながら救ってあげることができなかった。
私にもっと力があれば……。不甲斐なさに涙が出る。
いや、駄目だ。私が泣いていてはいけない。私には子供たちの涙を拭いてあげるという仕事がある。
×月○日。雨。
蘭蘭が医師になりたいと言い出した。
よほど先日のことが堪えたのだろう。それでも前を向いてくれる、真っ直ぐな心根が嬉しい。
甜甜の夢は官吏になることらしい。
明日からは少し勉強の内容を変える必要がある。
だが一介の地方武官だった私に、一体何処まで教えて上げられるだろうか。
返す返すも、勉学を疎かにしていた過去が悔やまれる。
墨節が開ければ、子供たちを里に返してあげることもできるのだが。
子供たちが大きく育つ前に、王が登極なさることを切に祈る。
□月△日。晴れ。
今日は講義を終えると、みんなが花で編んだ冠をくれた。
今日は私の誕生日なのだそうだ。
どうやら、一年前の今日、私が呟いたことを覚えていたらしい。
小斗の手に小さな傷が付いていた。
花を摘むときに棘で引っ掻いたのだろう。褒めて欲しそうにしている笑顔が眩しかった。
また泣き虫だとからかわれてしまった。
今日も太陽は昇らない。だが、明日は昇るかもしれない。
△月□日。曇り。
小斗が死んだ。
私の体調を心配して、森に薬草を採りに行ったのだという。
何ということだ。一人で森に入るなとあれ程言っていたのに。
こんな老いぼれの為なんかに……。
今日も太陽は昇らない。
――――――――――――――――――――
教師と子供たちの墓は蚩尤が作った。
墓と言っても石を積み上げただけの密やかなもの。
蚩尤は一人、墓の前に立ち、水をかけた。
「酒じゃなくて悪いな」
子供たちと眠る老人に語りかける。
蚩尤は墓の前に胡坐を掻いた。
「質素な墓だが、派手に奉られるより、子供たちと一緒のほうがあんたも嬉しいだろ」
当然、返事はない。
護るものがありながら、志半ばで朽ち果てた老人。
何故か他人のような気がしなかった。
「俺もあんたと同じだ。旅に出るかどうか、随分と迷った。
だがここに来て、決断が間違いじゃなかったと自信が持てたと言えば、あんたに失礼か?」
蚩尤はふっと、笑んだ。
「俺の相談相手は、死人ばかりだな」
「そっちに俺の馴染みがいるんだ。
蘭昌は最高の女だ、惚れないでくれると助かる。
真如は、まあ嫌な奴だ。
だがそうだな、奴はあんたみたいな人間が好きだ。何かあれば頼ると良い。
二人によろしく伝えておいてくれ。俺も、近い内にお前らに会いに行くと」
死者とお酒を飲みました。




