部活は皆がやるものです
いやー、ようやく物語が動き始めましたね。次の投稿は早いと思います
無事に全てを貼り終わり、俺と、律先輩が教室に戻ってくると、既に部活は始まっていた。
俺たちがいない間に用意されていた間隔を開けて横に並べられた、向かい合う二つの机。
そこに、大二郎と、夕陽先輩が、座り、真剣な顔で相談を聞いていた。
俺はその横を邪魔にならないようにすり抜け、間仕切りの奥へと行く。
「おおっ、チャシュ橋君に、律ちゃんじゃないか。何処に行っていたんだ」
「誰がチャシュ橋ですか……。遅れてきた件に関してはすいません。残っていた宣伝の紙を、貼ってきました」
俺は、そう謝ってから、近くの席にどかっと座り込んだ。
ふー、疲れた、疲れた。校舎中を歩き回る肉体的疲労と、色んな奴の視線から生じる精神的疲労が相乗して、もう色々と嫌になってくるわー。
と、間仕切りが、ガタガタ、と動いて、隙間から大二郎が顔を出した。
「すいません。律先輩、指名が来ましたので、対応お願いします」
まるで、ホストクラブのような感覚に陥るが、指名も、対応もアドバイス部のルールにのっとった用語だ。
基本的に、恋愛アドバイス部は、やってきた人の恋の悩みから、精神的、身体的な面の悩みを聞いて、アドバイスをするのが、基本スタンスだ。
その時、やってきた人は、メニューを見て、どの人を選ぶか、チェックをつけて、予約しておく。
一人一人のカウンセリング時間は、10分から15分と定められているので、1人が終わるたびに、教室を出て、次に自分を予約してくれている人を呼び、その人のカウンセリングをするというシステムだ。
まぁ、とどのつまりレストラン、チェーン店となんら変わらない。
だが、アドバイス部は、あくまでそう言った食事の場ではなく、それこそホストクラブのような、接客の仕事なので、全員が全員、本当に悩みを抱えてきているわけではないということもまた然りだ。
すなわち、夕陽先輩や、大二郎、律先輩など美男美女と楽しく話せる場所と勘違いしている輩も少なからずいるというわけだ。
しかし、そんなお客に対して、夕陽先輩も、律先輩も彼らの気分を害することなくうまく対応していた。
最初は、お客の一方的な絡みから始まり、それを冷静にさばきつつ、暖かく対応し、いつの間にか恋愛関係の話に発展し、人からどう見られているのかとか、個性って何?とか、そういう話題に昇華し、濃密な時間を過ごして満足して帰っていく。
大二郎は、最初こそ、不慣れで、なかなかうまくいかないところもあったが、その誠実さと、物腰の柔らかさが人に受け、段々と技術も後追いでついていき、顧客も獲得した。
「わかりました。大二郎様。それでは、高橋様、私はお勤めに行って参りますので」
彼女はそう行ってにこりと笑うと、行ってしまった。
「うんうん、大二郎君、すごい飲み込みの速さねぇ。やっぱりハンティングして良かったわー」
先生は、うんうん、と嬉しそうな表情で頷いていた。
どんどんと、適応しうまくやっていく大二郎を見て、いいなぁ、すげぇなぁ、と思う反面、こんなところで、座ってぼうっと見ている自分は何やっているんだろうな、と情けなく感じていた。
「チャシュ橋君、暇そうだし、トランプでもやる?」
そして、俺は、先生からこうも憐れまれてしまうわけだ。
とはいえ、実際そうやって話しかけてもらって、時間をつぶしているおかげで、救われている面もあるので一概には言えない。
まぁ、そんなことはおいといて、俺は、迷うことなく、
「……いいですね。二人しかいませんし、ババ抜きでもどうです?」
俺がそう提案すると彼女は、
「いいわね」
彼女はそう言って、足元の鞄の中から、瓶と、トランプを取り出し、近くから引き寄せた学生机の上に乗せた。
それから、彼女は、蓋を開けて、ぐいっと、一口飲むと、真っ白の数字だけが書かれた、プラスチックトランプを、カジノのディーラーのごとく華麗な手さばきでシャッフルをし、お互いに、配った。
全部配り終ると、お互い手札から揃っているカードを捨てて始まる。
お互い何もしゃべらずに、手札から、シュッとカードを引いて、時折捨てる。
いやぁ……むなしいなぁ。
俺、部活に入りたての高1だぞ? 普通だったら、先輩からいろいろ指南を受けながらバリバリ部活で、加速していく時期だろ?
なのに、なんでここ1ヶ月ずーっと顧問の先生と遊んでんだよ。
「ほれ、私の勝ち! これで、28戦中、私の26勝2敗だね」
何で、そんなバトル系の少年マンガみたいにいちいち、勝負で勝った回数なんざ数えているんだよ。
あと、俺、勝負事かなり弱いな。将来賭け事は絶対にしないようにしよう。
先生は、机の上に、カプリフィオーレメンソールワンを出し、煙草を一本口にくわえると、窓際で火をつけて吸い始めた。
「先生って、本当に煙草が好きですよね?」
「まぁねぇ。一本吸うとやめられないんだよね。この味は。チャシュ橋君も大人になったらいずれわかるよ」
「いやいや、俺はそんな危険を害するもの絶対に吸いませんから」
肺がんにはなるし、脳は、萎縮するし、体の調子は悪くするし。死期を速めるし、全く持っていいことなしだ。煙草なんて。
「でも、チャシュ橋君、副流煙を、受動喫煙っていう形で吸い込んでいるから、私よりダメージ受けているよ」
俺の心を読んだのか、なんて、ラノベお決まりの描写は、さておき、
「先生、わかっているなら、ここで、煙草吸うのやめてくださいよ」
「あぁ、何だね? チャーシューの分際で私に命令する気かい?」
「チャーシュー以前に俺は人間です!」
「えっ、そうだったの?」
「いやいや、どこからどう見たって人間でしょ」
自分は人間だなんて、どこのファンタジー小説だよ。これ、ただの学園ものだろ。
あと、意外そうな顔しないでくれ。本気で自信失くしてくるから。
「……ふっ、冗談だよ、冗談だよ。私だって馬鹿じゃないからね。君が、イベリコじゃなくて、パルマ産であることくらいお見通しよ」
「今の俺の話聞いていました!?」
「えっ、あっ、じゃあ、パルマ産じゃなくて、三元豚?」
「とりあえず、豚の話から離れてくださいよ!」
「高橋君、少し静かにしてもらえる?」
あーあ、怒られてしまった。しかも、よりによって夕陽先輩に。
「わかるよ、その気持ち、私も合コンで失敗したらそうなるもん」
まだ、煙草を吸いながら、俺の方に腕を回す先生。腕に胸が当たっているが今そんなことを気にしている場合じゃない。
「誰のせいだと思っているんですか?」
「えっ……誰?」
うわぁ、斬新な返し方。せめて、そこで、テヘぺロ☆みたいな悪びれ方をされれば、何かこちらも言えるようなものを、本気で、誰何かわからないと返されると逆にこっちが詰まる。
「先生、煙草の煙臭いです。ここで、吸わないでください」
「はい……わかりました」
先生は、しゅんとしながら、煙草を、窓からほうり捨てた。
ざまぁみろ。
それから、2人ナポレオン、セブンブリッジとそれなりにコアなゲームを何度か繰り返していると窓から茜色の斜陽が差してきた。
「もうそろそろ今日の部活は終わりにしましょうかね」
彼女はそう言っておもむろに席を立ち上がると、間仕切りの間を通って、
「次のお客さんを裁いたら今日はもう部活終りにしましょう」
時計を見れば、時間は、4時45分。いつもなら部活は5時30分に終わるはずなので、いつもよりかなり早い。
「あの、先生、まだ全然時間はありますけど……」
そう言ったのはおそらく大二郎だろう。間仕切り越しでも声でわかる。
「今日はちょっと、特別な日だから」
先生は静かな声でそう言った。それはいつものあの能天気な彼女からは想像もつかないような怜悧な声音だった。
へぇ、こんな声が彼女にも出せるんだ、と驚きつつ、今日は、何があるんだろう、と不安に思った。
「特別な日?」
「えぇ、まぁ、後のお楽しみよ。それじゃあ、仕事に取り掛かって!」
「わかりました、先生、ほら、大二郎君もあと一人がんばりましょう」
「え、えぇ」
「先生の言葉承り給うです」
それぞれがそうして仕事に戻った。
俺は、ただ、茜色の空を見ながら、溜息をつくばかりだった。




