くじ引き
誰がためのこの命ももうすぐ更新します
「はーい、では皆さん、お待ちかねー、お給料の時間でーす! いぇいぇーい!」
部活が終わり、机も元の位置に戻して、全員、帰る準備ができると、先生は、俺たちを集めて開口一番いそう言った。
……もしかして、これが、さっき先生が言っていた、お楽しみ、ってやつなのか?
いや、おそらく、そうなんだろう。自分で、皆さんお待ちかねー、とかいぇいいぇいとか言っている時点で、俺達が大喜びすると思ったわけだ。
でも、残念。誰も反応しません、というより、出来てません。
俺と大二郎は、まず、給料日の存在について知らないし、律先輩は、うふふ、と口元に手を当てて笑っているだけだし、夕陽先輩に至っては、先ほどの煙草の件もあってか、白い目で彼女のことを見ていた。
……べ、べつに、夕陽先輩に冷たいで蔑まれる先生をうらやましい、だなんて、ちっとも思っていないんだからね!
……えっ、何、デブのツンデレは、気持ち悪いって? どうせ、お前、ドМなんだろう、だって?
いやいや、滅相もない。前者に関しては皆の気分を害した俺が悪いけど、後者に関しては聞き捨てならないぞ。
昨今のアニメで、皆、デブが、ドМで、変態紳士という先入観を育まれているんだな?
全く、ちゃんと、話してから、そいつの人間性決めろよな、どいつもこいつも。
まぁ、もしかしたら、君の周りには、そう言った奴がいるのかもしれないけど、少なくとも俺は違う。
「な、なによー!むきー、どうして、誰も喜ばないのよー!」
先生は口を尖らして手をぶんぶんと振っている。子供かよ。むきーって、あんた、もういい年だろう。
「ちょっと、何、チャシュ橋君、その目は。一応言っとくけど、私は、ピチピチの華の27歳なんだからね! そこ勘違いしないように!」
うわ、エスパーかよ、俺の思考を読み当てるなんて……みたいな古典的なことは言わない。
それよりも突っ込むべきは、華の27歳というところだろう。全然華じゃねぇし。バリバリ婚期逃しているし。
「先生、あの一つよろしいでしょうか?」
色々と残念な先生に対しても、あくまで、相手を尊重する物腰。大二郎の良いところの一つだ。
先生も、風当たりが強かったのを大二郎のその一言が断ち切ってくれたのが嬉しかったのか、
「なーに、大二郎君、先生、君の質問なら何でも答えちゃうよーん」
ここで、感の鋭い、エロ男子は、先生、何でもって、言いましたよね。それって、先生の大事な……デュフフフ、なんて、言うのだろうが
「そんな大した質問じゃないですよ。ハハ。ただ、そのお給料っていうのが何なのかなーと思いまして」
「そういえば、2人に、給料の話をしていませんでしたね。先生」
「そうだっけか。まぁ、2人とも入部してからすぐに仕事していたからねぇ。ごめんねー大二郎君。気づかなくて」
……俺には、謝らないの?とか、もう口に出して言わないからな。この学校が僕に優しくないのは知っている。
こうして、部活とはいえ、自分に、何の隔てもなく話してくれているだけで、だいぶいいさ。
「わかった。先に2人に給料のことについて、話してしまいましょうか」
彼女は、そう言ってから、コホンと一つ咳払いをすると、
「この学校の機関は、生徒の身の回りを奉仕しているでしょ?たとえば、掃除部とか、その良い例なんだけど。でも、学校の同じ生徒なのに、皆が、嫌がるような仕事を一手に義務で引き受けなきゃいけないなんて納得いかないって、役員も多くてね」
そりゃ、当然だろう。掃除にしたって普通にサボるやつが大量に出るのに、それをすべてゴミ捨て、分別まで少ない人数でやるだなんて、よくやるよ、と思う。
「それで、出来たのが給料制度ってわけ」
「なるほど、学校から、学校、ひいては、生徒のために働いた分、恩賞として、給料ってやつがもらえるわけか……」
「そういうこと。細かいルールに関しては、その都度注意していくから。じゃあ、とりあえず、夕陽ちゃんから」
先生はそう言ってバッグの中をごそごそと漁り始めた。
果たして、夕陽先輩は、何が恩賞なのか、気になるな。俺は先生の動向を見守った。
すると、俺の視線に気づいたのか、先生は、
「あぁ、そう言えばこれ、注意の一個目だけど、給料をもらうときは、プライバシーの関係で、一人ずつこの教室で行うから、夕陽ちゃん以外の皆は、とりあえず、出て行ってもらえるかな?」
唐突にそんなことを言いだした。
別に、ここで、出て行っても構わないが、先輩の給料の内容ちょっと気になるなぁ。
「ほら、名人様、行きましょう」
先輩は、優しい口調でそう言うと、俺の裾を引っ張ってそのまま教室の入り口の部分まで引き摺って行ってしまった。
その力は華奢な体に似合わず、かなり強くて俺は、どうすることもできずに、連れだされてしまった。
そうして、夕陽先輩が出てきた後、次に律先輩、その後に呼ばれたのが俺だった。
「失礼します」
教室に入り、先生の前に座る。
「よろしくお願いします」
とりあえず、まず一礼。
なんか緊張するな。給料ったって所詮高校生相手だから大したことないのだろうけど、人生初給料なのでどこか畏まってしまう。
「はーい、じゃあ、今回給料の査定をさせてもらうけど、結果は火を見るより明らかなのよねー」
先生は、そんな俺の気分をいとも簡単にそのふわふわした口調で壊し……って、結果は、火を見るより明らか、だって?
「どうしたの、そんな出荷日前日の豚みたいな顔しちゃって?」
先生は、コロコロと、笑いながら、そんなことを言った。
「相変わらずの俺に対する、当たりの強さですね……」
「ハハハ。まぁね……。というか、先生、ちょっと、君の結果に怒ってるんだよねぇ」
怒っている? 俺の結果に?
「それは、俺の客がゼロだったから、ですか……?」
そうなのだ。この一か月、俺の顧客は一人もいない。他の皆は部活中お互い話をする間もなく働きづめで、お客さんの名病を聞くのに奔走していたというのに当の俺は、ただ雑用をするか、先生と遊んでいるかだった。
「当たり前でしょ? 給料制っていうのは、基本、悩みを解決した人数に応じて、決めていくのに、新入りで、業務実績ゼロて、普通の会社なら即刻クビだからね?」
返す言葉が見つからない。彼女の言葉は険こそあるものの全て正論だからだ。
この場において、俺のヴィジュアルが、あーだこーだとかそういうものは、自分を慰めるための自分を甘やかす毒にしかならない。
「君と一緒に入ってきた大二郎君なんて、リピートのお客さんだけで、7人。これ、一年やっている律ちゃんや、夕陽ちゃんにも負けず劣らずの成績だからね?」
やっぱり、すごいな。大二郎は。 まだ、入部して一か月しかたっていないのに、もうこんなに、認められているなんて。
それに比べて、俺は……はぁっ。
「まぁ、先生も君と一緒にトランプやって遊んでいたし、君に指導しなかったから、一概に、君が悪いとも言えないんだよね。だから一つ提案があるんだけど、いいかな?」
「……提案、ですか?」
その提案、という言葉には、どこか含みがあって口にするだけで嫌な感じがした。
「うん、提案」
彼女は楽しげに頭を横に振りながら、ニコニコ笑っている。
先生は、なまじ美人だから、その笑顔も、普通の人が、見れば、可愛いとも艶めかしいとも思えるだろう。
でも、1ヶ月部活越しに付き合ってきて、わかるのは、これが、悪魔の笑顔であるということだ。
「先生、その提案って……?」
「いやぁね、そんなに畏まらなくてもいいわよぉ。ちょっとしたゲームをやるだけだから」
「……ゲーム、ですか?」
先生は、バッグの中を、漁りだした。
「うん。ええっと……あ、あった、あった。これこれ」
そう言って取り出したのは、立方体の茶色いの箱だった。
こんなものバッグに、良く収まっていたな。明らかに大きさが見合っていないだろうに。
まぁ、それは、突っ込んじゃいけない所なんだろう。
「君のために作ってきたんだからね。職員会議中」
「職員会議中にそんなもの作らないでくださいよ」
しかし、そうは言いつつも箱を見ると、口の所とか、綺麗に丸く作られていて、先生の頑張りが垣間見えた。
……まぁ、逆に言いかえれば、そういうディティールしか見るべきところが、ないってことなんだけど。
「とりあえず、本質的なこと言わせてもらうと、君、今月、成果ゼロでしょ? このままじゃ、給料あげようにもあげられない。でも君は、雑用とか頑張ってくれたし、なにもしないわけにはいかない」
「そこで、チャンスを俺にってことですか……?」
「ご名答! だから、この箱から一枚くじを引いてくれないかな? それで、君が引き出したものを、給料とする、ってこと」
チャンス、っていうのは、わからなくもないけど、どうして、それが、くじ引きという考え方に直結するんだ。
でも、先生は、もう俺にひかせる気満々なのか、俺の顔の前に、箱を、はいっ、という感じで突き出しているし、もう、後に引くことは、許されないだろう。
仕方ない。引くか。あぁ、俺、あまり、くじ運とか、ないんだよなぁ。
どれどれ…………。
俺は、箱の中に、手を突っ込んで、さっさと引きだした。
こういうのは、考えず、迷うことなく、さっさと引いてしまう方が得策だ。
「これだ!」
俺は、手の中にある四つ折りに畳まれた紙を、広げた。
「これは…………!」
そこには、こう書いてあった。
プールで皆で、ダイエット!




