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蓮の葉令嬢と呼ばれた私は、あなたに落とされたい。  作者: Kouei


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第7話 賭けの代償(side:ジルヴェスト)

「……フュール…?」


 気が付くと寝台にフュールの姿はなかった。

 傍にあるサイドテーブルに置いてあったメモとネックレスを見て、僕は愕然とした。



『賭けはあなたの勝ちです』



 彼女は知っていたんだ。

 賭けの事を!


 彼女を落とせるかどうか、友人と金を賭けていたことを。


 いつから気が付いていた?

 最初から?

 それでも僕といたのは……



『好きです…大好きです…っ』



 彼女の言葉と涙を思い出す。


 君は…僕が賭けの為に近づいたとずっと思っていたのか?


「フュール…違う…っ 違うよっ!」


 彼女がどんな思いでいたかを考えると胸が痛んだ。


 そして、言い表せない後悔の波が押し寄せた……




 ◇




 それは…とある伯爵家主催の晩餐会に出席した時の事だった。


「“蓮(はす)の葉(は)令嬢”を三週間以内に落としてみろよ、その代わりお前の借金チャラにしてやるよ」


 いきなりクズな提案してきたセサル・ブラン。

 

「じゃあ俺は、落とせない方に10万ルブル賭けるよ」


 その賭けに乗ったのはロレンソ・コンバート。


「僕も落とせない方に10万ルブル」


 一緒に賭けたのがナシオ・ビカラー。


「はぁ? 何、勝手な事言ってんだよっ」


 今回、コンバート伯爵家主催の晩餐会に出席していた。

 そこで僕はセサルから借金返済を迫られてる。

 そして返せなければ蓮の葉令嬢を落とせと…



 これもすべて賭博(とばく)にハマった自分が悪いのだが――――…



 僕はホズライン伯爵の一人息子であり後継者だ。


 母は僕を生む時、かなり難産だったらしい。

 その為、二人目を望む事は出来なかった。


 けれど何でもスペアは必要だ。

 父は親戚から妾を持つように言われていたらしい。


 そんな親戚に父は言ったそうだ。


『息子一人いれば、十分家門を支えていける』と。


 そんな期待を背負い、将来伯爵家当主となる者として、身に付けなければならない事は山ほどあった。

 経営学や会計学、農業概論に農業生産学、その他諸々。

 学んでも学んでも終わらない座学の毎日。


 ストレスばかりが増えていく…


 そんな時、セサルに誘われたのが『ドッグレース』

 これがすべての始まりだった。


 初めての賭け事。

 恐る恐る賭けた1000ルブルが12万ルブルになって戻って来た。


 たった数十秒の出来事。

 

 槍試合では騎士に、

 走馬(はしりうま)には馬に、

 そしてカードゲームに。


 賭博(ギャンブル)の世界に堕ちるのは簡単だった。


 だが…調子が良かったのは最初だけ。

 あとは賭ければ賭けるほど負けが続いた。

 負けを取り返すために賭けてはまた負ける。

 もう負のループ地獄だ。


 初めて借金を作り、返済を求めて訪れた債権者を見て青ざめた父の顔を忘れられない。

 借金を返済した後、父から飛んできたのは顔面への鉄拳だった。


 普段冷静な父が人を殴り、地獄の底から響くような声で言い放った。


「二度目はない」


 しっかり釘を刺されていたのだが、数日経てばまた賭けていた。

 そしてまた借金を父に返済してもらう。

 もう救いようがない。


 そんな事が積み重なれば、怒りから呆れ、呆れから諦め始めた父。

 成績は維持しているし、唯一の後継者という事を考えてのことだろう。

 今では黙認している状態だった。


 将来親の選んだ相手との婚姻、そして担わなければならない当主としての重責。

 容易に思いつく未来予想図を考えれば気が滅入る。


 そんな鬱屈した気分も、賭けをしている時だけは全てのしがらみから解放された気分になった。


 どうせ伯爵家当主になるのだから、今くらいは好きにさせて欲しい。

 それに伯爵家の後継者は僕しかいない。


 この時の僕はそんな傲慢で甘えた考えを持ち、自堕落な毎日を過ごしていた。


 そんな中で、セサルに借金を作ってしまった。

 その借金は利息とともに膨らむばかり。

 挙句の果て、とんでもない事を要求されている現状だ。


「でも…ジルヴェストが蓮の葉令嬢を落とすって…何をするんだ?」


 ナシオが問いかける。


「もちろん、ヤ(・)るんだよ! どうせ純潔じゃないだろうしっ」


 下品に笑いながら断定するセサル。


「でも、ヤッたっていう証拠は? 言葉だけじゃだめだろう」


 ロレンソが口を挟む。


「下着を持ってくるとか?」


 セサルがニヤニヤしながら提案する。


「だから! そんな事しないって言ってんだろ! それに…彼女は噂通りの女性ではないよ」

 

「なんでそんな事、お前がわかるんだよっ」


「それは…」


「まあ、とにかく何でもいいよっ 彼女の身に付けていたものならネックレスでもイヤリングでもなんでもっ」


「やらないって言ってんだろ! くだらない話はここまでだ!」


 僕は立ち上がり、会場へ戻った。


「ちょ、待てよ! ジルヴェスト!」


 後ろでセサルの声がする。

 他の三人も後から付いて来る。


「だったら、19万ルブル返せよ。耳をそろえてっ 今すぐっ この場で!」


 追いかけてきたセサルが僕の肩を抱き、返済を要求する。


「今すぐなんて無理に決まってんだろう!?」


「じゃあ、決まり〜! はいっ、頑張って蓮(はす)の葉(は)令嬢を堕として来い! 期限は三週間以内。その時証拠を持ってくるように。じゃあなっ」


「あっ、おい!」


 セサルは言うだけ言って去った。

 後の二人もついて行った。

 

 最悪だ…最悪すぎる……!!


「は〜…まいった…」


 例によって、しこたま怒られるのを覚悟して父上に泣きつくしかないか。

 けど、今月はちょっとやりすぎている。

 先週16万ルブルの借金を返済してもらったばかりなのだ…


 なのに今週は19万ルブル…さすがにまずいな。

 かと言って…彼女を落とす…?

 できるわけがない!


「……っ」



 僕はあ(・)の(・)夜(・)…泣きながら両親を求めた彼女の手を思い出していた。



 バルコニーに出て、彼女と初めて言葉を交わした時の事を思い返す―――――…


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