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蓮の葉令嬢と呼ばれた私は、あなたに落とされたい。  作者: Kouei


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第10話 とめどない後悔 1(side:ジルヴェスト)

 あの日から、彼女と会えていない。


 何度も彼女に連絡を取ろうと思ったが、できなかった。

 賭けの事を知っていた彼女に、何を伝えればいいのか分からなかったから……


 だからまた社交の場で会えるかもしれないといくつもの招待に出席した。

 けれど…彼女はどこにも現れなかった。


 やはり僕の事を避けているのだろうか。

 きっと…軽蔑された…


 賭けの為に自分の提案を受けた…彼女はきっとそう思ったに違いない。

 違う…っ

 本当に違うんだ…!



「…っ ジルヴェスト!」


「えっ?」


 ロレンソの言葉にハッとした。


 今夜も僕は、晩餐会に出席していた。

 ここにも彼女はいない。

 グラスを揺らしながら、彼女の事を考えていた。


「さっきから何ボーっとしてんだよっ それよか聞いたか?」


「…何の話だ?…」


「蓮(はす)の葉(は)令嬢、行方不明になったんだってさ!」


「―――――― は?」


 行方…不明…?

 何を…何を言ってんだ? こいつは。


「あの蓮(はす)の葉(は)令嬢、結婚が決まったそうなんだ。相手は三十も年上の男爵。しかも3人目の妾としてだってさ。それで男爵家へ行く途中に姿を晦(くら)ましたらしい」


 ナシオが割って、話し始める。

 その内容は信じがたいものだった。


「…嘘……だろ…?」


「いや、事実だよ。うちの使用人の情報網だから確かだぞ。それに通常なら嫁ぐ側が持参金を渡すが、持参金の代わりに相手から結構な支度金を受け取ったらしい。要するに売られたんだよ。それって人道的にどうなの?って、ボルガット伯爵の対応も問題視されているようだぜ」


 ロレンソが話を続けた。


「だよなっ ボルガット伯爵は噂を否定しているらしいけど、どうだか」


 ロレンソは呆れたように言い放つ。


「けど、それに早く厄介払いしたかったんだろうよ」


 セサルが言う。


「…どういう意味だ、それ」


 僕の言葉に、ナシオが話し始める。


「僕もさっきいろいろ聞いたんだけど…蓮(はす)の葉(は)令嬢、ニ年前に両親が事故で亡くなって伯父であるボルガット家に引き取られただろ? かなり冷遇されていたらしい。


だから、金を払ってくれるジジイのところへ追い出す事が出来てせいせいしてるんじゃないの? ボルガット家は。


あと彼女の格好もボルガット伯爵の指示だったらしいぜ。より高位の貴族令息を引っ掻けて来いってな」


 この時、フュールの事情を僕は初めて知った。


「そんな…」



 妾がいる三十も上の男と結婚?

 伯父からの冷遇?

 厄介払い?



『私と遊びませんか?』

『とても楽しいですっ こうして……ボートに乗れて』

『好きです…あなたが…好き、です…っ…』



 彼女と過ごした記憶が、脳裏を駆け巡る

 いつも子供のように楽し気に笑顔を見せていた彼女。

 伯父の家では心休まる場所がなかったなんて知らなかった!



『賭けはあなたの勝ちです』



 紙に書かれた文字と置かれていたネックレス。


 どんな思いで書いた?

 どんな思いで残した? 



 フュール!!



「でもあれは彼女の好みなんじゃないのぉ? なんせ蓮(はす)の葉(は)令嬢っ 結局金持ちと結婚できたんだからさぁ、噂通りあの姿でいろんな男とヤリまくって…ふごっ!」


 ガッシャーン


 僕は堪らず、セサルに殴りかかった。


 セサルは勢い余って、床に倒れ込む。


「な、なにするんだ!」


「彼女はそんな人間じゃない!! 誰よりも純粋な人だ!!」


 どの口が言ってんだ!

 僕が一番彼女を傷つけていたんじゃないか!!


 それでもこの怒りを誰かにぶつけなければ、収まりようがなかった。

 再びセサルを殴ろうとした時、ロレンソ達に押さえられた。

 その後、迎えに来た父からは厳しく叱責され、屋敷に戻ると軟禁状態となった。


 事情は説明した。

 あいつがフュール・バトラー嬢を侮辱したから、紳士としてあるまじき言動を制裁しただけだと。


 その事はセサルも認めている。

 だが、暴力は許されるはずもない。

 僕と父はブラン家に謝罪した。

 父は治療費と一緒にセサルに作っていた借金も弁済してくれた。


 もう…あいつらと今後つるむ事はない。

 もっと早く離れていれば良かったんだ。


 後継者という立場に胡坐(あぐら)をかいて、父に叱られると分かっているのにやめられない賭け事。

 家名の為に、結局は父が助けてくれると知っていたから…


「最後はいつも親頼み…こんな男に相談なんてできる訳ないよな…」

  

 彼女は、たった一人でいろいろな事に耐えてきたに違いない…


 僕は何を見てきたんだ。

 彼女が噂通りの人間じゃないって事はわかっていた。

 だったら、あのような格好でなぜ現われるのか疑問を持つべきだったのに…!


 ご両親を亡くし、引き取ってくれた親戚は価値を高めるため彼女に悪趣味な服を着させ、金の代わりに彼女より遥かに年上の男に嫁がせるクソ人間。


 そして彼女は最初から賭けの事を知っていた。

 彼女ならそれでも良かったと言うのだろう。

 きっと僕との想い出を作るために…


『好きです……あなたが…好き、です…っ…』


 あの日…精いっぱいの勇気を振り絞ったんだろ?

 

 ごめん…ごめんな…

 僕は何も知らなかった……


「君の周りには最低なヤツしかいないな…僕を含めて」


 知らず知らずに、涙が零れた。


 彼女に対する罪悪感からなのか

 愚かな自分に対する落胆なのか…

 

 ただ…確かな事はひとつだけ―――



「好きだよ……フュール…君が好きだ…」


 

 あの時、僕も君にそう伝えていれば良かった……




 セサルを殴った日以来、僕は部屋から一歩も出られない状態だった。

 僕は父上とどうしても話しがしたい旨を執事を通して頼んだ。

 三日ぶりに部屋を出る事ができた。

 僕は身形を調(ととの)え、父がいる執務室へ向かった。


「反省したか?」


 僕が入るなり、父はそう聞いて来た。

 けど僕は、無言のままその場に膝をついた。


「な、なんだいきなりっ!?」


 父は土下座する僕の姿を見て、驚きの声を上げた。




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