【第4話】群がるハイエナと裏の影
第1部・メーカー編
だが、高速回転するドラムは
目まぐるしく交錯し、
どこでボタンを押せばいいのか
サッパリ分からない。
「くそっ……! どこだ!?」
勝田は焦って
第二、第三ストップボタンを連続で叩いた。
カチ、カチッ。
止められた出目は、
虚しくも関係のない
小役とハズレ図柄の組み合わせだった。
「……おい!
滑ったのに揃わねえぞ!?
騙したのか!」
勝田が額に汗をかいて怒鳴る。
槇村は穏やかに微笑み、
勝田の隣へと一歩踏み出した。
「騙してなどいません。
これがパチンコとパチスロの最大の違い
――『技術介入』です。
どれだけ内部で
大当りが当たって台が絵柄を
引き込もうとしても、
打ち手が目押しで
アシストしてやらなければ、
宝の持ち腐れになるんです」
槇村は勝田の手から
そっとレバーを引き継ぎ、
次ゲームのレバーを叩いた。
ガコン、と重厚な音とともに
リールが高速回転を始める。
――ズヌッ。
再び左リールが
重々しい手応えを残して3コマズル滑りし、
枠内に赤い塊を引き込んだ。
「内部でボーナスが潜んでいます。――
ご覧ください」
槇村の視線が、回転するリールの
一点に鋭く固定される。
規則正しく通り過ぎる「赤7」の
周期を動体視力で完全に捉えた瞬間、
槇村の指先が迷いなく動いた。
タン、タン、タンッ!
リズム良く刻まれる三連音。
左枠内に「7」、中枠内に「7」が
引き寄せられるようにビタッとテンパイし、
最後のリールが滑り込んで
中央ラインに寸分の狂いもなく
「7・7・7」が一直線に美しく並んだ。
けたたましい歓喜のファンファーレとともに、
下皿へジャラジャラと
メダルが勢いよく吐き出されていく。
「……っ!!」
勝田は言葉を失い、
目の前で起きた「芸術的な目押し」と、
自分の意思で掴み取られた
大当りの出玉を凝視した。
「……自分で……自分の目で狙って、
揃えるのか……!」
「そうです。
ただ玉が落ちるのを見るパチンコじゃない。
己の目と指先で大当りを手繰り寄せる……
この達成感こそが、パチスロなんです」
「……なるほどな」
勝田の額に汗が浮かんでいた。
「パチンコは
玉が落ちるのを眺めるだけだ。
だがこれは……
『台が今どんな状態か』を指先の滑りで察知し、
自分の目押しで掴み取るゲームなんだな!
打ち手が『滑った瞬間』に
ゾクッと来る仕組みか!」
「その通りです。
この『4コマ滑り』の違和感と手応えこそ、
客を虜にする魔法です」
勝田は、しばらく無言で
リールを見つめていたが、
やがて腹の底から笑い声を上げた。
「ハハハハ! 面白い!
兄ちゃん、これなら客は
狂ったように突っ込むぞ!」
勝田はテーブルを叩いた。
「いいだろう!
うちの店のパチンコ台を10台撤去して、
あんたの『エルドラド』を10台入れる!
代理店なんぞ通さねえ、
俺が直接買い取ってやる!」
「ありがとうございます……!」
突破口は開かれた。
名古屋『グランプリ』への導入を皮切りに、
口コミは一気に
全国のホールオーナーへと広がっていく。
「名古屋のグランプリで、
新台のパチスロが連日大立ち回り
しているらしい」
「客が開店前から行列を作っているぞ!」
手のひらを返したように、
全国のホールから
マキムラ・インダストリーへ
注文が殺到し始めた。
1985年秋。
槇村京志郎が手掛けた1号機『エルドラド』は、
全国のホールを席巻し、
パチスロという
新たな文化の狼煙を上げたのだった。
だが、この熱狂の陰で、
業界の「闇」が静かに蠢き始めていた――。
1986年。
マキムラ・インダストリーの1号機
『エルドラド』は、
全国のホールで猛威を振るっていた。
「左リールがズルッと滑って
赤7を引き込んだときの
脳汁の出方がたまらん」
「自分の目押しで
ボーナスをねじ込む感覚を知ったら、
もうパチンコには戻れない」
ホールには連日、
開店前から長蛇の列ができ、
ドル箱から、メダルが溢れた。
しかし、急拡大する市場と莫大な現金は、
当然のように
「裏社会のハイエナたち」を引き寄せた。
深夜一時。
大和精密の工場裏にある
マキムラ・インダストリーの事務所に、
一人の男が訪ねてきた。
仕立てのいいスーツを着ているが、
どこか蛇のような粘着質な目をした男――
大手遊技機代理店『東和商事』の専務、
神保だった。
「いやあ槇村社長、
大ヒットおめでとうございます。
噂通りの素晴らしい機械だ」
神保はソファーに深く腰掛け、
ヘビのように口元を歪めた。
本日 12:30 に投稿します。




