【第3話】1号機「エルドラド」の鼓動(こどう)
第1部・メーカー編
「……適合だ」
二週間後、
保安協会から届いた一枚の通知書。
そこには、
マキムラ・インダストリーが開発した
回胴式遊技機――記念すべき1号機
『エルドラド』が型式試験に
「適合」した旨が刻まれていた。
「やった……! やったぞ槇村ぁぁッ!」
事務所で通知書を抱きしめ、
山城が男泣きに震えた。
二重CPU制御と完全シールド基板という
圧倒的な技術力と物理的な証拠の前に、
圧力で握り潰そうとした
大手メーカー側もグゥの音も出ず、
適合を出さざるを得なかったのだ。
「これで、
正式に全国のホールへ納品できます」
槇村は固く結んだ唇を少しだけ緩め、
深く息を吐き出した。
だが、安堵も束の間。
次に立ち塞がったのは「営業の壁」だった。
パチンコ業界の販売網は、
既存の大手メーカーと深く繋がった
「代理店」が牛耳っている。
無名の新興メーカーである
マキムラ・インダストリーの台を、
代理店は
ことごとく取り扱おうとしなかった。
神崎たち
「大日本遊技機」が裏で手を回し、
取扱店に圧力をかけているのは明白だった。
「どこもかしこも『実績がない』
『大手の顔を潰せない』の一点張りだ……」
山城が悔しそうに拳を握りしめる。
「代理店が動かないなら、
直接ホールに飛び込みます」
槇村は営業カバンに重い試作機の基板と
パンフレットを詰め込み、
自ら全国のホールを回り始めた。
だが、現実は甘くない。
「スロット?
そんな怪しい博打機、置けるか!」
「大日本の神崎常務から話は聞いてるよ。
あんたのところの台を入れたら、
うちへのパチンコ台の供給を
止めるってな」
塩を撒かれ、門前払いを食らう日々。
それでも槇村は諦めなかった。
東京、埼玉、神奈川、
そしてパチンコ激戦区である名古屋へ――。
転機が訪れたのは、
名古屋の繁華街にある老舗ホール
『グランプリ』だった。
頑固親父として知られる
オーナーの勝田は、
訪れた槇村の営業トークを
黙って聞いた後、冷たく言い放った。
「兄ちゃん、理屈はいい。
俺は客が熱狂するかどうかしか
興味ねえんだ。
その『パチスロ』ってやつが、
うちの主力パチンコ台より
客を呼べるって証拠はあるのか?」
槇村は黙って
営業車から小型のデモ機を取り出し、
勝田の目の前のテーブルにセットした。
「言葉で説明するより、
一度叩いてみてください。――
これが、私の作った『滑り』です」
勝田はいぶかしげにメダルを入れ、
レバーを叩いた。
ガコン、と重い音を立てて
三本のリールが加速し、
図柄が目にも留まらぬ速さで流れ始める。
勝田は一番左のボタンを適当に叩いた。
カチッ。
リールは寸分の狂いもなく、
押した瞬間の図柄のまま
ビタッと停止した。
続いて真ん中、右と叩く。
何の変哲もない、ただの落選目だ。
『なんだ、手応えも何もないじゃねえか』
『もう一度叩いてみてください。
通常時、
内部で何も当たっていない時は、
押した位置で絶対にビタ止まりします。
台が引き込んでくれないんです』
勝田は眉をひそめながら、
二投目、三投目とレバーを叩いた。
そして四投目――レバーオンとともに、
勝田が左ボタンを適当に押し込んだ、
その瞬間だった。
――ズヌッ。
ボタンを押した位置から、
リールが重々しい手応えを残して
ズルリと3コマ滑り、
枠上にあった『7』の赤い塊が、
ヌメるように枠内中央へ
滑り込んできてピタリと止まった。
『……なっ!?』
勝田の指先がピクリと跳ねた。
ボタンを押した感触と、
リールの停止位置が明らかにズレたのだ。
『それが制御による“滑り”です』
槇村が静かに告げる。
『今、内部で
ボーナスのフラグが立ちました。
だから
リールが自分の意思を持ったように、
7の図柄を
無理やり引き込んできたんです。――
さあ、残りのリールも
“7”を狙って押してください』
勝田の心臓がどっと波打った。
パチンコには絶対にない、
自分の指先に伝わった『台の変容』。
「内部で何かが起きた」
という圧倒的な手応え。
勝田はごくりと唾を呑み込み、
流れるリールの赤7を目で追いながら、
呼吸を整え、流れるリールの
「7」らしき赤い塊を目で追おうとした。
明朝 8:00 に投稿します。
本作は、全くの架空の物語です。
実在の名称と同じ(あるいは似た)ものが
あったとしても、全く無関係です。




