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【第13話】狂乱の宴と、解析の触媒

第1部・メーカー編(完)

「はい。

 メーカーが意図して仕込んだ

 ゲーム性ではなく、

 裏モノ業者が残した

 粗悪なバグ(穴)を突いて、

 ホールからコインを

 根こそぎ奪い去るような

『解析者』です」


槇村の目の奥に、

先を見据える知的な光が宿る。


「私たちは、決して

 裏モノに手を染めてはなりません。

 どれほど時代の波に飲まれようと、

 完璧で、美しく、

 打ち手の知性と技術に応える

『本物のプログラム』を作り続ける。

 それが、

 いずれ訪れる狂乱の時代の終焉(しゅうえん)で、

 マキムラ・インダストリーが

 唯一生き残る道です」


「……槇村。……」


山城は

溢(あふ)れ出そうになる熱いものを

飲み込み、

深く頷(うなず)いた。


「分かった。

 俺も腹をくくるよ。

 お前の書くコードが

 世界一だってこと、

 俺が一番知ってるからな!」


時代の裏側で、

歪(ゆが)んだ裏モノ文化が

猛威を振るう1991年。


槇村の予言通り、

粗悪な裏モノが蔓延(はびこ)る

ホールへ、

「プログラムの穴」を

暴(あば)きにやってくる

解析者の足音が、

すぐそこまで迫っていた。


1991年、冬。


『スーパーダイナマイト』を

はじめとする裏モノ狂騒は、

全国のホールを

完全なギャンブルの狂気へと

塗り替えていた。


「おい、あの店のダイナマイト、

 連チャンモードに入ったら

 メダルが足りねえぞ!」


「昨日は20万勝ったが、

 今日は昼までに10万飲まれた……

 頭がおかしくなりそうだ」


連日連夜、ホールには

金を握りしめた

男たちが群がり、

下皿に吸い込まれていく

メダルの音と、

けたたましい

ファンファーレの音で

狂乱の宴(うたげ)が続いていた。


だが、その狂乱の裏で、

マキムラ・インダストリーの予言は

現実のものとなり始めていた。


「槇村さん……!

 大変なことになりました!」


営業社員が、

興奮と困惑の入り交じった声で

事務所へ飛び込んできた。


「『グランドホール新宿』で

 大騒動です!

 設置したばかりの

『スーパーダイナマイト』の

 裏モノ島で、

 特定の変則押しをした客が、

 朝から

 一度も連チャンが止まらず、

 5万枚以上の出玉を

 叩き出したそうです!」


「なに……!? 5万枚だと!?」


山城が跳(は)ね起きた。


「ええ!

 店側が怪しんで

 途中で止めようとしたんですが、

 客側は

『正当に打っているだけだ』と

 譲らず、

 警察沙汰になりかけた挙句、

 ホールは一夜で

 数百万円の損害を出して

 営業停止状態に

 追い込まれました!」


槇村が指摘していた、

裏モノ業者による

継ぎはぎコードの欠陥――

スタック領域のオーバーフローと

乱数生成の破綻(はたん)が生んだ

「バグ(攻略法)」の発生だった。


粗悪な裏コードを仕込んだ

ブローカーはすでに連絡を絶ち、

ホール側は自己責任という名の

莫大な負債と

壊れた機械だけが取り残された。


「……見ろ、山城さん」


槇村は静かに

デスクのPCモニターを指し示した。


「これが、

 毒に手を染めた者の末路です。

 不正なプログラムは

 一時の蜜を見せますが、

 最後は自らの破綻によって

 ホールも業界も破壊する」


山城は

震える手でタバコに火をつけ、

深く煙を吐き出した。


「……恐ろしいな。

 まさか本当に

 お前が言った通りのことが

 起きるなんて……。

 じゃあ、

 あの5万枚を出したやつは、

 一体何者なんだ?」


「ただの客ではありません」


槇村の目が、知的な鋭さを増す。


「台のメカニズムと、

 裏コードが抱える

『周期の隙間』を

 完全に解読した人間です。……

 時代が、ついに

 そういう人間を

 生み出してしまった」


『グランドホール新宿』での

事件を皮切りに、

全国の裏モノ設置店で

相次いで

「謎の大量出玉事件」が

発生し始めた。


それは

プロ軍団による

暴力的な占領でもなく、

単なる

目押しによる技術介入でもない。


「プログラムを

 内部から食い破る解析者」

の存在。


「槇村、

 ウチの『エルドラド3』は……

 大丈夫なのか?」


「もちろんです」


槇村は迷いなく言いきった。


「私が組んだ

 アセンブラコードには、

 一切の無駄も、

 破綻(はたん)をきたすような隙も

 存在しません。

 私のプログラムを

 打ち破ろうとする者が

 現れるなら……

 それは

 不正なバグを突くのではなく、

 真っ向から

 私のロジックと

 対峙(たいじ)する時だけです」


メーカーとしてのプライドと、

一切の妥協を排した

完璧なコード。


1990年代初頭の狂乱期を経て、

マキムラ・インダストリーは

「技術と信頼の要塞(ようさい)」

として、

業界内で

確固たる地位を築きつつあった。


メーカー側としての

創世記・躍進のドラマは、

ここで一つの大きな節目を迎える。

読んでくださってます方々に篤くお礼申し上げます。

ありがとうございます。

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リアクション頂きまして、ありがとうございます。


10/9 8:00 に第2部 第1話を投稿します。

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