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【第10話】鉄火場の熱狂と、指先の攻防

第1部・メーカー編

「店長、あの連中……

 一般のお客さんに圧力をかけて

 追い出してますよ。

 なんとか注意できませんか?」


若い店員が奥の事務所で店長に訴える。


だが、店長は

苦々しい顔で首を振るだけだった。


「無理だ。

 あいつら法律の範囲内で打ってるし、

 下手に注意して

 店で暴れられたら、客の迷惑になる。

 それに……あいつらの積むドル箱が、

 店の『出玉アピール』に

 なっちまってるのも事実なんだ」


パチスロの普及に伴い、

全国のホールでこうした

「プロ軍団による島の占領」と

「一般客の疎外」が

深刻な社会問題になりつつあった。



その夜。


マキムラ・インダストリーの事務所で、

山城が

新聞の夕刊をテーブルに叩きつけた。


「見ろよ槇村! 記事になってるぞ。

『パチスロ島でトラブル急増、

 プロ軍団がホールを占拠』だと!

 ウチの『エルドラド2』が、

 奴らの集金マシンにされてるんだぞ!」


山城の怒りは収まらない。


「俺たちが作ったのは、

 客が自分の腕で楽しむための台だ!

 アニキ気取りのチンピラが

 一般客を脅して

 自分たちだけ、荒稼ぎするための

 道具じゃねえ!」


デスクで

次期モデルの仕様書を書いていた槇村は、

静かにペンを置いた。


「分かっています、山城さん」


「分かってるなら、

 なんとかできねえのか!?

 プロだけにいい思いをさせて、

 一般の客が

 嫌気がさして離れていったら、

 この業界は終わりだぞ!」


「権藤たちのようなプロが狙うのは、

 我が社のプログラミングが作り出した

『完璧な規則性』です」


槇村の眼差しが、

基板のブロック図へ向けられる。


「彼らは設定ごとの差枚数確率や、

 特定の出目の出現率を徹底的に計算し、

 その『隙』を突いている。……

 ならば、

 メーカーとして

 私たちが打つべき対策は一つです」


「対策……?

 プロだけを排除するプログラムなんて

 組めるのか?」


「プロを排除するのではなく、

『技術介入の幅』を広げるんです」


槇村は新しく書き起こした

アセンブラのフローチャートを示した。


「これまでの『エルドラド2』は、

 目押しさえできれば

 誰でも同じように

 ボーナスを揃えられました。

 台ごとの設定を判別すれば

 攻略できた。

 大量の軍団員を送り込んで

 数で占有する手法が通用した。

 ですが、次の『3号機規格』では、

『知的な技術介入』を組み込みます」


「知的な技術介入……?」


「ええ。

 単に図柄を狙うだけでなく、

 特定の絵柄を避けて

『リプレイ』や小役を効率よく取得し、

 打ち手の『選択』と『知識』によって

 出玉率が大きく変動するシステム――

 いわゆる

『DDT打法(小役回収打法)』の概念を、

 メーカー側のロジックとして

 あらかじめ仕込んでおくのです」


槇村の唇に、うっすらと

技術者としての矜持(きょうじ)が浮かぶ。


「知識のないプロ軍団が

 ただ回すだけでは、

 設定6でも最高効率を出せない。

 逆に、台の制御ロジックを

 深く理解した本物の打ち手だけが、

 最高のパフォーマンスを引き出せる……。

 台と人間との『知恵比べ』の領域へ、

 パチスロを引き上げます」


「……お前、どこまで先を見てんだ?」


山城は呆れたように笑い、

握りこぶしをポンと

手のひらに打ち付けた。


だが、この時、槇村の思い描く

「知恵比べ」の領域を、

メーカー側の想像を

遥かに超える精度で破壊しようとする

「悪魔的な才能」が、

秋葉原の片隅で

産声を上げようとしていた。


プロ軍団の暴力でも、

ヤクザの裏ROMでもない。


ただ一人、

オシロスコープの波形と

アセンブラコードだけを武器にする

19歳の青年――涼太の影が、

時代とともに迫りつつあった。

明朝 8:00 に投稿します。


【 パチスロ台「開発競争」】(2)


「型式試験は通っている。

 通ったんだ」


営業部の富永が声を荒げた。


「販売会社にはもう

 二万台分の約束がある。

 ホールは連チャンで客がついた。

 それを今さら、……」


「通ったのは、

 試験の時点で見せた動きだ」


技術課長の海老原が低く言った。


「試験機関は書面と実機で確認する。

 だが市場では、

 打ち手が台の内側を掘り当てる。

 彼らは我々より台を打っている」


会議は昼を過ぎても続いた。


法務担当は営業停止のリスクを、

経理は基板交換の費用試算を、

それぞれ書類にして持ち込んだ。


稟議(りんぎ)は三本、

部長印、専務印、社長印と上がっていく。


その間にも、

販売会社から電話が鳴り続けた。


篠原は席に戻り、

ROMの解析リストを広げた。


八キロバイトのプログラムの中に、

問題のカウンタ処理は

百四十行ほどある。


削るのは簡単だ。


だが削れば、

この台の面白さの背骨が折れる。


「抜くのか?」


背後から声がした。

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