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【第7話】敗北者の怨嗟と、2号機への足音

第1部・メーカー編

「何の用ですか? 黒田部長」


槇村は受話器を耳に当てたまま、

配線図へ向けていたペンの手を

止めなかった。


冷ややかな声が

事務所の空気をごつりと濡らす。


『フン、

 相変わらず生意気な口を利きおって。……

 いいか、調子に乗るのも今のうちだぞ。

 お前が保全協会に申請している

 1号機の追加検定だがな、落ちるぞ。

 間違いなくな』


受話器の奥から、

黒田のねっとりとした嘲笑が漏れた。


「……何が言いたいんです?」


『我が東洋電機も、いよいよ

『回胴式遊技機』市場へ

 本格参入することになった。

 保全の理事には、うちの社長が

 昔から太いパイプを持っていてね。

 実績もない

 お前のような弱小メーカーが、

 いつまでも市場を独占できると

 思うなよ』


黒田の言葉の裏にある「根回し」の存在。


東洋電機は、かつて

槇村が提出した開発ノートを

破り捨てておきながら、

パチスロ市場の

爆発的成長を見定めるや否や、

大手の資本力と

天下り警察官への

泥臭いコネクションを使って

横から参入しようとしていた。


「そうですか。どうぞご自由に」


槇村は静かに息を吐いた。


『何だと……?』


「私が作っているのは、

 利権やコネで通す台ではありません。

 完璧なプログラムと、

 打つ者を魅了するロジックです。

 どんなに政治力を駆使しようと、

 打ち手(客)を裏切る

 つまらない機械しか作れない会社に、

 私たちは絶対に負けません」


「き、貴様……っ!

 後悔させてやるぞ!

 業界の厳しさを

 身にしみて知るがいい!」


激しいガチャ切り音とともに

通話が切れた。


「……黑田か?」


隣でスパナを握っていた山城が、

苦々しい顔で尋ねる。


「ええ。

 東洋電機が業界の政治力を使って、

 うちの型式試験を妨害する気です」


「くそったれが……!

 自分たちで開発する能力もないくせに、

 人脈だけで横取りしようってのか!」


「大丈夫です、山城さん」


槇村は破れたノートの表紙を撫(な)でた。


「保全協会の試験官も人間です。

 彼らが拒否できないほどの

『完璧な技術データ』と

『不正の入る隙もないハードウェア構造』

 を叩きつければ、

 政治力など吹き飛びます。

 それに……1号機の時代は、

 じきに終わります」


「えっ……? 1号機が終わる?」


山城が驚いて目を丸くした。


全国で『エルドラド』が飛ぶように売れ、

工場のラインが足りないほどの

バブルを迎えているというのに、だ。


「警察庁と保全協会は、

 1号機の爆発的な出玉性能と、

 全国で横行し始めた『裏ROM改造』を

 極度に警戒しています。

 間違いなく、近いうちに

『2号機規格』への移行……

 つまり、さらなる規制強化が来ます」


槇村はデスクの引き出しから、

まだ誰にも見せていない

新しい設計図面を取り出した。


「2号機では、

 これまでのコントロール制御に加えて、

 より厳格なフラグ管理システム――

『サンプリング用乱数回路の独立化』と

『ウエイト機能

(1ゲーム最短4.1秒の消化時間制限)』が

 義務付けられるはずです」


「4.1秒の規制……?

 それじゃあ、

 客が目押しでブン回して稼ぐ

 スピードが落ちちまうじゃねえか!」


「そうです。だからこそ、

 ただ回すだけでは退屈になる。……

 だから私たちは、2号機で

『新しいゲーム性』を開発します。

 出玉のスピードが抑えられるなら、

『リールバウンド』や

『ボーナス成立時の目滅(フラッシュ)』など、

 五感で楽しませる演出ロジックを

 コードの中に組み込むんです」


槇村の目は、すでに

黒田や大手の嫌がらせなど遥か下に置き、

次なる時代の

「技術革新」を見据えていた。


その二週間後。


保全協会の試験場にて、

黒田率いる東洋電機の試作機

『オリエント1号』は、

メインプログラムのフラグ引き込み処理の

不備(最大コマ数オーバーの誤動作)

により、不適合の判定を下された。


天下りコネクションを

信じ切っていた黒田は、

試験場の廊下で崩れ落ちたという。


一方、

槇村たちの『エルドラド』改良型は、

何ひとつ隙のない

完璧なシールド構造と

データプロテクトにより、

保全協会の型式試験をストレートで通過。


時代はついに、

規制と技術が激突する

「パチスロ2号機時代」の幕開けへと

向かっていく――。

本日 12:30 に投稿します。

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