婚約者を消した二夜目1
「お兄様達は、何にも分かっていないんだね。ミリアの事をあんなふうに言うなんて」
とウィリエール様はおっしゃるけれども、ランドルフ様もリドムンド様も単なるお戯れなのだろうと思う。
「私のことはお気になさらず」
「ミリアは使命感で言ってくれたと思うけど。僕を主だと言ってくれて嬉しいよ」
とウィリエール様は微笑むのだ。柔らかな微笑みには心があらわれる思いがした。
この方は心が清らかだ。継承権の謀略なんて似合わない、と私は思う。
「もったいないお言葉です」
私が言うと、ウィリエール様は私の束ねた髪の先を掴む。
「今晩も一緒に眠ってくれないかな」
「そ、それは出来ません。一夜かぎりならばまだしも。それでは」
「ライオネルとの婚約を消せばいい?」
「え?」
「婚約者がいないなら。僕との共寝は問題ないと思う」
ウィリエール様はそんな風に言うけれど、婚約が消せるわけがない。
「婚約がなくなることは、ありません」
正直、悲しい現実ではあるけれど、本当のことだ。
「出来るよ」
とウィリエール様は歌うようにおっしゃった。
「そんなことは、無理です」
ウィリエール様は指先をくるくるとまわしてみせる。すると、指先から小さな龍が飛び出て来た。
「え?」
「僕の使い魔だよ。ラドルっていう」
使い魔?
つまりウィリエール様は魔物と契約をしているの?私が疑問を口にしようとする前に、
「ライオネルを消しちゃおう」
「消す?」
穏やかではない単語が出て、私はギョッとしてしまう。
けれど、ウィリエール様は至って穏やかに、
「消してしまえば、ミリアは自由だ」
とおっしゃるのだった。
何かの比喩でしょうか?と私が尋ねると、ううん、消すんだ、と念を押す。
そして、
「ラドル、消してきて」
と一言放てば、くるりん、と黒い龍が宙返りをして、飛んでいく。
回廊の窓から飛んでいくのだった。
数秒後、地響きのような音がする。私はウィリエール様の傍にぴたりとはりつき、様子をうかがった。ウィリエール様は、終わったね、と呟くだけだ。
終わった?




