憧れの思い人と憎らしい婚約者6
しばらくして戻ってきたライオネル様は、手に包帯を巻いていた。
衣服は焼け切れている。
何も言わずに、家を出るように扉の方に手をやり仕草で示してみせた。
「なぜです?」
「なぜ、と思うのは私の方だよ。なぜ、君のような貧相な小娘が私の相手なのか、と思っていたけれど。既に軍神の加護を受けているんじゃないか。それを知っていれば、もっと丁重にしたさ」
とライオネル様はおっしゃる。
加護?私は特別な洗礼を受けた覚えはない。姉たちと同様に、七つの頃に軍神の祝福を受けただけだ。五女である私は軍神の加護なんて、受けられる立場にいない。
「兵の屯所に戻るんだ。裁判所により、近衛兵に戻るようにとの沙汰があった」
「え、戻ってもよいのですか?」
「戻せとのことだ。誰が口添えしたのかは知らないけど」とライオネル様は、つまらなそうに吐き捨てた。
「では婚姻の話も、ひょっとすれば」
立ち消えたのでは?と尋ねようとすれば、
「残念だけど。婚姻は破棄しない。婚礼式を行うよ。加護を受けた巫女を離すわけがないだろう」
と私の手に指を絡め、ライオネル様はおっしゃる。
「しっかりと夫婦の務めは果たしてもらうよ」
ライオネル様を私は思わず睨みつけてしまった。
「ライオネル様は、ご器用ですね。たくさんの情愛を振りまいていらっしゃる」
と皮肉を放り込んでみる。ライオネル様と馬が合わないのは、端から分かりきっていた。
「器用で何が悪いんだい?お相手方にも、しっかりとした後ろ盾がある。単なるお遊びだ」
「こちらも単なる好みの問題ですので、お気になさらず」
と私は言う。
「彼女たちと縁を切れば、ミリアは満足なのかい?」
「端から相性がいまいちだと分かっている婚姻は、滑稽だと思うだけです。ただの戯言だとお思いください」
「そうだろうか?まだ、相性は確かめてないと思うけどね」
匂わせる視線を振り払うために、私は、
「それでは、失礼いたします」
と言ってその場を辞する。
ライオネル様のお屋敷を出て、宿舎に戻ることにした。
近衛兵の性質上、宿舎は王宮内にある。私が宿舎に戻ろうとすると、回廊の向こう側から煌びやかな気配の方々がやって来るのが見えた。




