表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/36

第20話 万道は一つを生み、万物は一道に帰す

僕が茶杯を置くと、表情は穏やかなままだったが、

母后の顔には罪悪感がにじんでいた。


「加護くん、此方の話をもう一度聞いてちょうだい。

あの時は、天禮寺テンレイジの住持が、

此方の信心深さを見てくださったのです。


それで万道紙バンドウシを授けてくださり、

此方は予知夢を見ました。

あの時、

天禮寺テンレイジが此方と加護くんを守ってくれると知ったのです。


此方は自ら望んでここへ来たのですよ。」


僕は再び煎茶の入った茶杯を手に取った。

香りは、先ほど宮中からここへ来るまでに身についた、

あの古びた気配を覆い隠してはくれなかった。


「万道は一つを生み、万物は一道となる!」


万道紙は、雑談めいた書物の中で見たことがあった。

あの時、老師はそれを使って


「人生は夢のようなものだ」


と語っていた。


今日、

母后から万道紙バンドウシの話を聞かされなければ、

吾もあれは荒唐無稽なものだと思っていた。


「加護くんが無事に大きくなったのを見て、

此方はもう十分満足しています。


けれど、此方はやはり姉上の靖雪王后と、

そなたの二哥の錦崇が心配なのです。

此方が知っている最後の未来は……」




蘭児墨ラン ジボクと、蘭夫人に気をつけて!」




母后はわずかに口を開いたまま、その場で固まった。

吾は驚かなかった。

母后は、吾が黒々とした榻に静かに座り、

すべてを聞いていたことに気づいていなかったのだ。


蘭児墨ラン ジボクは、儿の……弟なのですか?」


母后は静かにうなずいた。

手にした墨筆は宙で止まり、

黒い墨が筆先から紙へと落ちる。


吾は飲み終えた茶杯を、低い机の上へ戻した。


「儿はすでに調べました。


礼官の蘭勁文ラン キンブン

には実子がおらず、蘭児墨ラン ジボク

蘭夫人に伴われて宮中に入り、そのまま養子になりました。


ですが、児墨が養子にされた理由は分かっていません。

けれど先帝の遺詔を調べた時、

吾はひそかに隠し巻を見つけました。


その中には、父皇がもともと外にいた実の子を、

きちんと守るようにと、ぼんやりとですが記されていたのです。

そして、

その巻物に書かれていたその子が戻る時期は、

児墨が宮中に入った時期と一致していました!」


だが、吾が長く見てきた限りでは、

皇帝と蘭児墨の間に目立った関わりはない。

むしろ蘭夫人は花草の知識を買われて、

宮中の園林官を務めている。


宮廷の園林や花のしつらえは、

すべて彼女の手によるものだ。


父帝も春や夏に花を愛でる際には、

いつも彼女を呼んでいた。

その親しいやり取りは、もはや珍しいことではない。

ならば、こうした推測も、まったく根拠のない話ではないのだ。


「でも加護くん、どうしてそこまで確信しているのです? 

この世には、ただの偶然もたくさんあります......。」


「もともと僕は、母后のために天禮寺へ赴き、

平安の福紙を授かろうと思っていました。


ですが、天禮寺(テンレイジ)の住持は、

僕に万道紙を渡し、

夢に入れば未来の真相を垣間見られると申したのです」


僕はずっと、

それは皇子としての重圧が見せた悪夢にすぎないと思っていました。

ですが、母后は天禮寺(テンレイジ)を離れず、

僕が困った時には方法まで教えてくださる。

しかも、物事は母后の予見どおりに進んでいる。


それが事実だと、裏づけているようでした。


けれど僕は、悪夢から目覚めるたびに、

呪物を渡されたのだと思い込み、

その符紙を焼いてしまっていたのです。





当時の予知夢は、あまりにも鮮明だった……。

僕は、錦崇に対して申し訳なさすら感じていた。




だからこそ、あの後ろめたい未来を避けようと必死だった。

錦崇が不慮の死を遂げたことで、

梓談は僕と結婚することになる......。


僕は兄弟の遺した妻を支える立場から、

やがて梓談の夫として責任を負う立場へと変わっていた。


今、二十四歳の梓談が僕の部屋の前に立ちはだかっている。

桃色の上着は、慌てて羽織ったのか、乱れたままだった。


その夜はひどく冷たく、

僕の手にある、

冴えた寒光をまとった長剣と同じでした。


「郎君、どうか落ち着いてください。

謀反などすれば、朝廷の官人たちに唾棄され、

悪名が史書に残ってしまいます!」


「娘子、このままでは父上が我が国の領土を失ってしまう。

日々朝議にも出ず、庭で遊ぶばかりで、

諫言した僕を鳳淨殿へ追い返した。


前線で戦っていた霜将軍を呼び戻したと聞いた時点で、

もう父帝の神識は乱れ、国を治められぬのは明らかだ!


天禮寺にいる母后も、明日には無理やり宮中へ戻される。


侍女から聞いた、寝所にはすでに白綾の用意までされていると。


ならば僕が先に手を打たなければ!」


「お願い、落ち着いて......! 

うっ、

うっ、

妾はもう、これ以上大切な人を失いたくないのです!


郎君が無謀に大殿へ踏み込むより、

妾の母が入宮するのを待ってください。

もう知らせは届いています。


忠楽郡主なら、私たちを守れます。

遠雲殿下エンウンでんかも守ってくださいます!」




「僕が……守られる、必要があるのか?」




梓談は両手で僕の右手を強く握っていた。


指の関節は白くなり、

手の中の玉の扳指をきつく握りしめている。


その目元は、もう赤く腫れていた。


「娘子、どうか僕を許してくれ。

僕は……辺境で死んだ錦崇の代わりにはなれない。


それに、いつか後悔するかもしれない決断を、

これ以上待つこともできない!」


僕は背後から聞こえる泣き叫ぶ声を振り返らなかった。


長剣を黒い木綿の布で包み、

そのまま鳳淨殿をまっすぐ後にした。


僕が我に返った時には、すでに大理寺の獄中にいた。

いよいよ本筋に入ってきました!

ここから少しだけシリアス寄りになります。


どうか離れないでください……!

もし楽しんでいただけたら、

応援してもらえるとすごく嬉しいです。


いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ