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第17話 「書漢」は空気が読めないが、まともな人間は読める

私たちは、

星御の手にあったヴェール付きの帽子が風に飛ばされ、

近くの湖面へ落ちるのを見た。


それは水の流れに乗って、

湖面の十メートルほど先にある突き出た岩に引っかかった。


「楠祝、ごめんなさい。

わざとじゃないの!」


「気にしなくていいよ、星御!

その帽子が気に入っているなら、同じ型は吾も見たことがある。

新しいものが欲しいなら、吾が買ってあげるよ!」


黄翼鷹は明るい笑顔を浮かべ、

青い瞳で優しく星御を見つめた。


「黄!翼!鷹!」


楠祝の顔は怒りで歪み、

その皺は砕けて潰れた赤い玉髄みたいだった。


「それは私が星御に贈った誕生日プレゼントだ!


私!が!贈っ!た!


プレゼントなんだぞ!」


「なるほど。

なら、君がまた星御に帽子を贈るのなら、

僕は反対しないよ!」


「お前と勝負だ!」


まるで一刻も早く長袍の拘束から抜け出したいみたいに、

楠祝は薄灰色の袍を脱ぎ捨て、

桃色の三角水着をさらけ出した。


私が驚いたのは、

錦崇と同じく白く整った肌をした楠祝師兄が、

体つきまでかなり引き締まっていたことだ。

特に太腿は、思わず目を引かれるほど太く力強かった。


「楠祝、主将!

馬槍部の一員として言わせてもらうけど、

ここは馬槍の練習場じゃない。勝負したいなら、

明日なら僕は空いている!」


「誰が今、お前みたいな最低野郎と馬槍で勝負するか!

去年、僕が腰を痛めていなければ、

安寿院に出場を止められたりしなければ、

お前が優勝できるはずなかっただろう!


同じ部で、お前は副将だ。


僕たちは......。

泳ぎで勝負だ!」


私は、目の前で荒く息をつきながら、

ときおり水面をにらむ楠祝師兄を見た。


一昨年、

大学院で開かれた馬槍大会の賀詞を見たことがあるけれど、

優勝者の欄には禎楠祝と記されていた。


翼鷹は去年入部したばかりなのに、

今年は楠祝師兄と並んでシード選手になっている。


「楠祝、やめてよ!

たしか、あなた泳げなかったでしょう......?」


楠祝師兄は自信ありげに笑って星御を一瞥し、

それから翼鷹を指さし、さらに湖面の十メートルほど先、

突き出た岩に引っかかった白い帽子を指した。


「僕が泳げないわけないだろ。


でなきゃ、船の上で襲われたとき、

どうやって安全な場所まで泳ぐんだ?


星御、お前は心配するな!


先にあの白い帽子を取って、

星御のところへ持ち帰ったほうが勝ちだ!


僕が勝ったら、

お前たちは僕と星御と一緒に星亭へ来てもらう。

お前が勝ったら、僕は立ち去る!」


「僕は君と泳ぎで勝負したくない。

壕磨湖の地形は磨板みたいに起伏が多くて、

水の流れも読みにくいんだ。


やっぱり新しい帽子を星御に買ってあげるほうがいいと思うよ!


だいたい、考えなしの莽夫っていうのは、

自分を守る方法も考えずに、

勇ましい真似ばかりしたがるものだからね!」


「お前みたいなやつと、

これ以上くだらない話をする気はない!」


「待って、楠祝。


僕たちはどちらも馬槍の優勝者なんだから、

もっと良い方法を見極めるべきで......」


「副将、主将が行ってしまいました......。」


翼鷹は目を見開いて參仁を見た。

さっき私は見ていた。


そばにいた参仁が、

素早く右足を踏み出して右手を伸ばしたのを。


その動きは火花みたいに鋭く、

まるで道具を固定するために素早く回す車輪みたいだった。


けれど、楠祝はもう湖へ飛び込んでいて、

そのまま目標へ向かって勢いよく泳いでいった。


「禎家って、

こういう書漢(しょかん)ばかり出るのかしら。


父がよく言っていたわ。

漢は勇ましさ、書は知識。

でも、思考がなければ意味がないって。」


参仁は立ち上がり、翼鷹の隣に並んで、

同じように楠祝の動きを見つめた。


ただ見ているだけで、

彼が湖面を進む速さは異様なほどだった。


まるで桃色の魚鱗をきらめかせる蛟龍の玉のようで、

絹糸めいた波しぶきが雲霧のようにその白い身体へ絡みついていた。


逞しい脚は石槌のように、

青い鉱石めいた湖面を砕き、

鮮やかな青石の飛沫を散らしていく。


跳ね上がる一つ一つの水滴は、

小さな砕けた宝石みたいに澄んでいて、

すぐにまた湖の中へ沈んでいった。


楠祝の動きには少しの迷いもなく、

白い帽子を掴むとすぐに身を翻し、

そのまま岸へ向かって泳ぎ戻ってきた。


しかも、その速さはさらに増していた。


私たちは皆、岸辺に集まり、

近づいてくる楠祝師兄の姿を見つめていた。

楠祝が岸まで六メートルほどのところまで来た時、

翼鷹の険しかった眉もいくらか和らいだ。


けれど、意外というものは、

皆が気を緩めた時に限って起こる。


あと三メートル。

湖の中にいた楠祝は、

唐突に水面で動きを止めた。


それまでの優雅な泳ぎはかき乱されたように崩れ、

手足を激しく振り回して、大きな水しぶきを上げた。

「書漢」は私が作った言葉です。

ぴったりくる古風な表現が見つからず、自分なりの感覚で書いてみました。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしければ感想やフォロー、応援で伝えてもらえると励みになります。

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