第16話 飢えた者には食を、溺れた者はもう行かせてしまえ
一時前、楠祝師兄が湖で溺れた。
参仁が引き上げて応急処置をし、
私たちが呼んだ馬車で安壽院まで運ばれてきた。
「梓談……今の状況は本当にまずいわ。
禎家に知られたら困るもの。
万が一、邸報のあの噂好きの老鶴たちに嗅ぎつけられて、
ここまで取材に来て記事にでもされたら、
みんなまとめて非難されるわ......。」
安壽院の空気は相変わらず心地よくて、
さっきまで壕磨湖で浴びていた猛暑を忘れそうになる。
侑晴の今の顔は、
家で十年も飼っていた犬の「子白」がいなくなった時みたいだった。
周りの空気まで暗く沈んでいて、
全身が「心配」と書かれた掛け軸みたいに見える。
侑晴は子白と弟の 侑乾をとても大事にしている。
あの二人は、
この世で大切な家族だと前に言っていた。
「私たち、早く隠れないと!
梓談!」
さっきまで私の隣にいた侑晴は、
いつの間にか孔雀の屏風のそばにしゃがみ込んでいた。
周囲を見回して、
隣で俯いて考え込んでいた翼鷹を見つけると、
慌てて私の席のそばまで戻ってくる。
彼女は暑気払いの茶を一杯手に取り、
私は少し落ち着いてから、改めて周囲を見渡した。
さっきまで水遊びをしていた仲間たちは、
みんなこの小さな診察待合室に押し込まれている。
窓の外では木の葉が、
眠気を誘う玉笛みたいな音を立てていて、
頬のあたりに気だるさが積もっていくのを感じた。
これは公然の秘密だが、
国子監の生徒が少し休みたい時は、よく安壽院に来る。
安壽院は永楽殿下の後ろ盾があり、
太清宮全体がそのまま安壽院の施設として使われている。
生徒たちは侍衛にひと声かければ、
中に入って太医に診てもらったり、
空いている席で休んだりできる。
取り仕切っている賴太医はとても親切な人で、
私たちが相談を求めた時だけ、静かに体調を気遣ってくれる。
そうでなければ、
居心地のいい人目につかない隅をそのまま貸してくれて、
心が落ち着いたら各自で帰ればいい。
同じ組の皆も、病気でもないのに、
よく安壽院へふらりと来ていた。
「まったくもう!
今日は大典の日だから、
みんな何かあった時に備えて向こうへ回っているのよ。
今日の当番が私で助かったわ!
この子たちったら、どうしてこんなに不注意なの!」
私は気を取り直して、義母の賴太医に向かって手を振った。
彼女が黒く艶やかな髪を払うと、
薄く白粉をのせた顔は落ち着いていて、少しも乱れていなかった。
賴太医は居残っていた三人の院員に指示を出し、
顔色を失った楠祝を左手の治療室へ運ばせる。
それから、顔面蒼白の翼鷹師兄の方へ歩いていった。
その途中で、彼女は参仁の背を軽く叩いて感謝のしぐさを見せる。
参仁はへへっとした調子で頷いていた。
「私が悪いんだ!
楠祝が水の中に飛び込むのを止められなかった!」
星御師姐の顔には、自分にも医術の力があって、
そのまま中へ入って昏睡した楠祝を助けられたらいいのに、
という思いがそのまま浮かんでいた。
彼女は何度も目の前の真っ白な布の垂れ幕を見つめ、
手の中では白い囲い帽の端がねじれて形を変えている。
「この件は星御師姐とは無関係だ。
楠祝師兄を止めるべきだったのは、
僕だった!」
翼鷹は布の垂れ幕のそばを離れ、
二メートルほど先の窓辺へ歩いていった。
顎に手を添え、深く息をついてから、
賴太医へ視線を向ける。
「みんな、そんなに緊張しないで!
翼鷹殿下、臣が暑気払いの茶を用意しましたよ。
菊花と蜂蜜で調えてありますので、
心も体も落ち着きます!」
「心も体も落ち着く?」
翼鷹は太医の手にある、
香りの立つ褐色の茶を見下ろし、
それから笑顔いっぱいの太医を見上げた。
額には汗がにじみ、彼はそっと手を振る。
「えっ、ありがとう!
でも僕は今はいらない!」
私は手元の暑気払いの茶を見て、
さっき壕磨湖で水遊びをしていた時のことを思い出した。
翼鷹が箱を取り戻し、楊桃の砂糖漬けをひとつ口にした後のことだ。
楠祝の視線は銅盒の脇へ流れ、
そこに蓮の模様があるのに気づいたようだった。
口を大きく開けたのに、声は出ていなかった。
「みんなで食べよう!
僕が保証する、すごくうまいから!」
翼鷹は銅盒の中から大きめの楊桃をもうひとつ叉で刺し、
それからこちらへ来て、
その銅盒を私の手に渡してきた。
銅盒は今にも溶けそうな氷みたいにひんやりしていて、
中には糖蜜をまとった楊桃が並び、
甘い香りがふわりと立っていた。
けれど私はすぐに、侑晴の目つきがうっとりと定まらず、
翼鷹の後ろをふわふわした足取りで歩いていることに気づいた。
「梓談、
どうしよう?
さっき風が強すぎたみたいで、ずっと同じ場所に立っていられない気がするの......
??」
侑晴は少し頬を赤くして、小声でそう言った。
私は慌てて箱をいったん木の机に置く。
翼鷹の後ろを歩いていただけなのに、
なぜか風に煽られているみたいだった。
私は急いで、小羽にもらった蓮花粉を彼女の体に足し、
彼女を木陰まで連れ戻した。
どうやら少し暑気あたりの兆しがあるらしい。
落ち着かせてから、楊桃をひとつ口に含む。
岩蜜のような濃い甘さが広がり、
私は冷たい水を一本取って彼女に渡した。
「きゃっ!」
風がまた急に強く吹いてきて、
私は慌てて蓮花粉の蓋を閉めた。
けれど、その場にいた全員が星御師姐の驚いた声を聞き、
彼女が目を見開いて見つめる先を追う。
白い囲い帽が、風にさらわれて湖の上へ飛ばされていた。
やっと楠祝が想像してる星御争奪戦が始まるんですか?wwwww
急に暑くなってきて、こっちまで水遊びしたくなりました。
皆さんはこういう時、どこへ遊びに行くのが好きですか?




