第15話 泰山の大岩が崩れるより先に、こっちの心がもう限界なんだが?
私は錦崇のそばへ移動した。
足取りは慎重にしつつ、
前みたいに錦崇が私から一メートルほど距離を取っていないことを確認する。
どうやら今回は、
大人としての威力をちゃんと発揮できたみたいだ。
大人というのは、
問題にぶつかったあとで自分を振り返り、きちんと改善するもの。
そうすれば、
ちゃんと期待通りの結果を得られる!
「そうだ、錦崇。
ちょっと失礼な言い方になるけど、
あなたの六弟の黄翼鷹が、
明日壕磨湖で水遊びをしないかって誘ってくれたの。
私は朝早くに行く予定なんだけど、
大典が終わったあと、
一緒に遊びに来ない?」
この前、
どうして錦崇があんな反応をしたのか反省して、
私は香を使う量をちゃんと調整した。
小羽も三回も大丈夫だと保証してくれたし、
自信を持って家の馬車に乗ってここまで来たのだ。
「僕は聞いていないが……。
それより、君は大典には行かないのか?」
「ううん、私は行かないわ!」
錦崇の金色の髪が汗を受けてきらめき、
彼の目は一瞬で孔雀青の宝石みたいな輝きを取り戻した。
きつく寄っていた眉も、たちまちほどける。
彼はすぐに身を翻して小道の入口へ向かった。
私は抱きしめて慰めようとして伸ばした手を、
宙に残したままになる。
けれど、彼が振り向いた顔には、
もう力の抜けた笑みが戻っていた。
その瞬間、今度は私のほうの眉間が、
地層にじわじわ押し固められる玉石みたいに、
どんどん硬くなっていった!
「僕は都合がつかなくて行けないが、
翼鷹が現場にいるなら、
ずいぶん安心できる!
御膳坊に肉まんをいくつか取っておくよう頼んでおく。
午後、君は都合がよければ僕を訪ねて来られるか?
君が楽しく過ごせるよう祈っている!」
私はぽかんとしたまま頷いた。
私がその場に立ったままでいると、
錦崇は数歩こちらへ近づいてくる。
そして私の白い束裙と鵝黄色の上衣を見回したあと、
手を振って客間へ入るよう促した。
「君は寒くないか?
僕がまた新しいのを一着買おうか?
客間にはジャスミン茶がある。
どうぞ中へ入って、お茶を飲んでくれ!」
昨夜から今この瞬間まで、
考えれば考えるほど何かがおかしい。
「錦崇って、私の大人な振る舞いに衝撃を受けて、
それで私のことが嫌いになったのかしら?」
私は昨夜の状況を父上に少しだけ説明しながら、
ずっと床の模様を見つめ続けていた。
たしか、もう四十四個目まで数えた気がする。
「それとも……あの詩が、
碧落に手伝ってもらったものだって気づいたのかしら?
最近、私たちの班では西方の詩の形式が流行っていて、
私は一度聞いただけで、その場で詩にしてみたの。
でも、書き終えて見せたあと、
碧落がすごく乗り気で、この版は自分が直してあげるって言い出して。
それで、午後まるごと一緒に相談していたのよ!」
「元の詩を……梓談、聞かせてくれるか?」
私は少し考えてから、記憶をたどって口にした。
「yo、錦崇イケてるマジやば、
梓談ビューティー超でかば、
ya! 二人そろって......難関突破!yo!
あらゆる危機を、斬、滅、yo、
斬! 滅! yo! 滅! yo!」
父上が目を見開いたのを、私は見た。
いつも穏やかな表情をしているのに、
今は眉間が今にもくっつきそうなくらい寄っている。
「お前が昨夜、錦崇に聞かせた詩は......。
碧落が手直しした後のものなのか?
お前は、彼がどんな菓子を好むか知っているか?」
私がいくつか種類を挙げると、
父上はようやくいつもの優しい笑みに戻った。
「梓談、父としては錦崇はただ緊張していただけだと思う。
もっと一緒に過ごしてみるといい。
そうすれば、
他に深い意味なんてないと分かるはずだよ!」
そのあと、亮躂の視線は庭を抜けて、
袁家の母屋へと向けられた。
「正直に言っておこう。
袁家は皇帝陛下と親戚筋ではあるが、
三代も下れば血のつながりはかなり薄い。
袁家の大黒柱である、
お前の祖母の永楽殿下が体を悪くしているのは知っているな?」
私は卓上の精巧な桃色の箱を見つめ、
中に入っていた黒糖涼糕をひと口刺して口へ運んだ。
黒糖の甘い香りを味わいながら、こくりと頷く。
「ご老人はいつも、
孫たちの将来を気にかけておられる。
先帝はお前の母に郡主の称号を賜ったが、
今の皇帝陛下が遺詔どおりにお前にも称号を与えるかは分からない。
父は刑部で働いているが、
官界のことは本当に先が読めん。」
「郡主って忙しいことが多いのでしょう?
はぁ、私、
最近は母上にあまり会えていないの......。」
私は箱の中の桃梅涼糕をまたひと口刺して口へ入れ、
もぐもぐと噛みながら頬杖をついた。
母上はきっとまた、
「安壽院の入学時の身体報告」の詳しい話を聞いてきて、
私が言いつけどおりに食事を調整しているか、
念入りに確かめるに違いない。
それでも私は、
母上と一緒に食事をしていた時間が恋しかった。
宮中の秘話を聞かせてもらうのが楽しかったのだ。
たとえば、皇帝陛下が従弟とできている、とか。
「確かに忙しくはなるだろう。
だが、もし称号を授かれるなら、
それが一番いい。
梓談!
そうなれば、
お前の京城での立場ももっと盤石になるからな!」
亮躂はものすごい勢いで菓子箱を片づけると、
卓の上に置いてあった包みをそばの大きな木棚から取り上げた。
「それに、お前の叔母も嫁いでしまった。
義理の叔父は名の知れた商人で影響力もあるが、
所詮は外の人間だ。本当にどうしようもない時でもなければ、
そうそう頼れん。
だからこそ、
錦崇の身分は確かに大きな後ろ盾になるし、
袁家にとってももう一本の柱になる。
お前の弟の梓能も、
父がきちんと見てやる。
刑部に受かれるよう、しっかり鍛えるつもりだ。」
「父上、分かりました!
あの菓子......。」
「そうだ。
木綿の中には、
お前が前に言っていた淡い桃色の肚兜が入っている。
梓談も大きくなったからな、
ちゃんと今のサイズに合うよう人に頼んで直させた!
思いきり楽しんでくるんだぞ、梓談。」
父の亮躂は、
卓の上で木綿に包まれた品を指さし、
それから泳ぐような動きをしてみせた。
濃藍の長い袖が、
水しぶきの立つ湖面みたいに揺れる。
けれどすぐに動きを止め、
後ろ首に手をやって、ゆっくり笑った。
「はぁ......私は刑部侍郎なのに、
また忘れていた......?」
私は嬉しくなってその包みを抱え、
そのまま部屋へ戻って支度を始めた。
外出着に着替えると、
小羽が日焼け止めの蓮花粉と、
虫刺され避けの漢方薬の小瓶を、
私用の紫の絹袋へ丁寧に入れてくれる。
「お嬢様、奴婢の小羽は今回はお供できません。
ですから、
どうか忠楽様のお言葉をお忘れなく。」
小羽がすうっと息を吸ったので、
その視線の先を追う。
部屋の入口近くに現れたあの大柄な影は、
どうやら天福らしい。
彼の白い布甲は新品みたいにきれいになっていて、
陽の下では大理石みたいに光を返していた。
「せっ、制!
口、欲!
少、量!
多、食!
よ、く!
噛、め!」
小羽が言い終えると、
入口の白い布甲がぶるっと数回揺れたように見えて、
そのまますぐ立ち去っていった。
「小羽、分かった!
分かったから!」
私は小羽の手をぎゅっと握る。
小羽は真剣な顔のまま、
私の必死な表情をしばらく見つめていた。
それから一緒に門口まで来てくれて、
私が馬車に乗り込み、
壕磨湖へ向かうのを見送ってくれた。
私はあの地獄級の詩がけっこう気に入っています。
yo。
亮躂の反応が皆さまと同じだったら、たぶん相当おもしろいことになりそうです。
少しでも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!




