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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明


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第36話 不法投棄の元締めと、魔境の入り口

 結局、筑前煮パーティーは「爆速」で済ませることになったわ。

 王宮の厨房で、逃げ腰の料理人たちを尻目に作り上げた大鍋いっぱいの筑前煮。エルゼちゃんや王妃様、それにアレンやカイルと一緒に食卓を囲んだけど、うちらの目はすでに「次」を見据えとった。


「静江さん、本当に行ってしまうのですね……」


 侯爵としての威厳を纏い始めたエルゼちゃんが、少し寂しそうに箸を置いた。


「ええねん、エルゼちゃん。王宮のドブさらいは終わったけどな、元栓を閉めなまたすぐにカビが飛んでくるわ。……ええか、あんたはここを『居抜き』でしっかり管理しなはれ。おばちゃんが戻ってきた時に、また埃が溜まってたら承知せえへんで」


「はい! ……必ず、あなたが誇れるような、清潔で正しい領地ルミナと王宮にしてみせます!」


 国王陛下は、うちらの門出に「洗浄督察官」の権限を魔族領への通行許可証として書き換えてくれた。あの狸親父、うちを追い払いたいんか、それとも本気で魔族領まで掃除させるつもりなんか……。まぁ、どっちでもええわ。


 王都を出て北東へ数日。


 馬車を走らせるにつれ、街道の景色はどんどん荒れ果てていった。


 最初はただの雑木林やったのが、徐々にねじれ、変色し、空気がねっとりと肌にまとわりつくようになってきたんや。


「……静江さん、ここから先が魔族領との境界、**『断絶の渓谷』**です。ここを越えれば、もう王国の法も騎士の加護も届きません」


 馬の手綱を握るアレンの声に、緊張が走る。


 カイルは馬車の中で、さっきから魔導書と睨めっこしながら、空気中の魔素マナの濃度を測っとった。


「……信じられません。酸素よりも、腐敗した感情の粒子の方が濃い。静江さん、水晶の準備を。ここからは視覚そのものが『あやかし』に惑わされる可能性があります」


「分かっとるわ。……あー、肩凝ったわぁ……」


 うちは水晶玉を膝の上に置き、深々と溜息をついた。


 地下牢の特殊清掃の疲れが、まだ精神にズッしりと残っとる。


 ふと窓の外を見ると、霧の中に、**「スーパーの買い物カートを引いて、夕暮れの横断歩道を渡る自分」**の姿が一瞬だけ見えた気がした。


(……あ、そうや。今日はポイント五倍デー……卵、もう一パック買わな……)


 あかん、また知恵熱や。


 うちはアイテムボックスからハチミツ飴を出し、ガリッと噛み砕いた。甘さが脳を叩き起こすと同時に、幻覚が消え、目の前に「本当の地獄」が姿を現した。


 渓谷を越えた先に広がっていたのは、空が赤紫色の雲に覆われ、地面からどす黒い霧が噴き出す異様な光景やった。


 木々は枯れ果てているのに、その表面を気味の悪いキノコやカビが覆い尽くし、時折、何かの呻き声のような風が吹き抜ける。


 馬が怯えて足を止める。


 アレンが剣の柄に手をかけ、カイルが防御魔法の準備をする中、うちは馬車から降りて、その「魔族領」の土をスカジャンの先で軽く蹴った。


 立ち込める悪臭。


 まとわりつく湿気。


 そして、何千年も放置されてきたであろう、魂の「澱み」。


 アレンやカイルが、その禍々しさに息を呑む中、うちはサングラスを少しだけずらして、魔族領の奥深く――屍術師ゾルゲが潜むという『腐肉の森』の方向を睨みつけた。


 そして、おばちゃんが魔族領に足を踏み入れて放った最初の一言は、恐怖でも驚きでもなかった。


「……なんやこれ。ここ、街全体のゴミ収集日が十年くらい止まっとんのか?」


 うちは腰に手を当てて、盛大に舌打ちをした。


「あー、汚い! 汚すぎるわ! 呪いやの魔力やの言う前に、まずはこの地面のヌメリ、なんとかしなはれ! こんなん、子供が歩いたら滑って転んで大怪我するやろが!」


 アレンとカイルが、ずっこけそうになるのを横目に、うちは腕まくりをした。


「ええか、兄ちゃんら。魔族領攻略やなんて大層なこと考えんでええ。これはな、**『近所でも有名な、超大型のゴミ屋敷』**へのガサ入れやと思え。……不法投棄の元締め、ゾルゲ。おばちゃんの堪忍袋の緒が切れたで。覚悟しなはれ!」


 おばちゃんの特殊清掃。

 いよいよ、国境を越えた「世界規模の大掃除」が始まったんや。


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