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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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313/314

第313話 超絶アドリブのレシート吹雪と、監視者の陥落

 巨大な海底都市アクア・エデンのドーム内に、ピキッ、ピキキッという不吉な亀裂の音が響き渡り続けとる。

 スラムの住人たちやエリートたちが必死に防衛ラインを構築し、ナポの猛攻に耐え忍ぶ中、上位監視者として完全に覚醒した彼の頭上には、赤黒く禍々しい巨大なエネルギー球が形成され、空間そのものがメリメリと悲鳴を上げとった。

 都市の環境維持プロトコルへの干渉を諦めたナポは、その膨大な魔力のすべてを、うちらを物理的に消滅させるために振り向けたんや。


『……さようなら、特異点。そして、愚かなバグの感染者たち。……完全に最適化された『無』へと還りなさい』


 ナポの無機質で絶対的な宣告が響き渡る。

 スラムの住人もエリートたちも、その圧倒的な破壊のエネルギーを前に息を呑み、絶望の淵に立たされとった。

 だが、うちはパイプ椅子をガシャンと広げてどっかと座り込み、特大のサングラスを押し上げると、腹の底からの大爆笑を響かせたんや。


「アハハハハハッ!!」


『……? 対象から、予測不能な反応(笑い)を検知。……無駄です、もういかなる物理攻撃も魔力干渉も、このエネルギーを相殺することは不可能だ』


「相殺なんかするか! あんたな、自分が一番偉いと思ってるかもしれんけど、おばちゃんのアドリブを舐めたらアカンで!!」


 うちは、アイテムボックスの底で限界まで握りしめていた『生活のガラクタ』を一気に引き抜いた。


「みんな! 頭空っぽにして、おばちゃんのアドリブに合わせなはれ!! ここからが、オカン・ユニオンの真骨頂やでぇぇッ!!」


 ドサバサァァァッ!!


 うちがナポの目前めがけて豪快にぶちまけたのは、大和郷やドーム都市のスーパーで買い溜めていた『大量のレシートの束』。そして、賞味期限ギリギリの惣菜に貼られていた『半額シール』の山や。

 うちらが何ヶ月もかけて集めてきた生活の結晶や! スラムのジャンク屋で買った時の領収書、上層のスーパーで半額シールが貼られるのを待ち構えて奪い取ったお惣菜のラベル! どれもこれも、計算式には乗らへん『オカンの戦利品』なんや!

 さらに、特大の『純正ごま油』の瓶を床に叩きつけ、黄金色で香ばしい匂いを放つ油を大理石の床一面にぶちまけたんや。


『……エラー。対象の行動目的が不明。散布された物質に殺傷能力および魔力反応なし。……意味のない行動と断定し、排除を続行――』


「意味がないかどうかは、うちらの『家族』が決めるんや! ザック! リコ! ミナちゃん! 今一番やりたいように動きなはれ!!」


 うちの怒声が響いた瞬間。

 この数ヶ月間、泥にまみれて一緒に海を綺麗にしてきた家族たちは、うちの無茶苦茶なアドリブの意図を、言葉を交わさずとも本能で理解しとった。


「おうよ! 姐さんが油を撒いたんなら、滑って遊ぶしかねえよな!!」


 リコが、ごま油でツルツルになった床をスケートのように滑り出し、凄まじい加速をつけてナポの側面へと回り込んだ。

 彼女の巨大レンチが、遠心力で恐ろしい唸り声を上げる。


「ザックさん! レシートの目隠し、お願いします!」


「任せとけ! 俺のプロペラシールドのフルパワー、見せてやるぜ!」


 ミナちゃんが的確な指示を飛ばし、ザックがそれに応える。この数ヶ月、配管工事や泥遊びで培った、阿吽の呼吸や。

 ザックが左腕のプロペラを全開で逆回転させると、猛烈な突風が巻き起こり、床に落ちていた数千枚のレシートと半額シールが、猛吹雪のようにナポの周囲を包み込んだ。

 ただの紙切れやない。バーコードという膨大な商品データと、半額シールという非論理的な価格変動データが詰まった、最強のノイズの塊や。


『……視覚センサーに物理的障害。……スキャン実行。……これは、購買記録のデータバーコード? なぜこのような無価値な情報が……処理回路に負荷が……!』


 ナポの超高度なAIレンズが、目の前を乱舞する無数のレシートのバーコードと、半額シールの赤い文字を「情報」として強制的に読み取ろうとしてしまい、凄まじい処理遅延ラグを引き起こしたんや。

 完璧な監視者ゆえの弱点。視界に入るすべてのデータを解析しようとするその機能が、ただの紙切れによってパンクさせられたんやわ。


「今だぜ、ガラクタ野郎! アタシのフルスイング、計算してみやがれェェッ!!」


 ごま油で極限まで加速したリコが、巨大レンチをフルスイングでナポの足元の電磁シールド発生装置めがけて叩き込んだ。


 ガキィィィンッ!!


 シールドの出力がレシートの処理遅延で一瞬弱まっていたため、レンチの重い一撃が装甲の隙間に見事にクリーンヒットした。

 バチバチッと激しい火花が散り、ナポの巨体が大きく揺らぐ。


『……警告! シールド出力低下! 予測不可能な連携によるダメージを検知! なぜだ……私のパッチは、オカンの行動を完全に予測していたはず……!』


「あんたが計算してたのは、おばちゃん個人のデータだけやろが!」


 うちは、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、レシートの吹雪の中を悠々と歩き出した。


「泥遊びで育った、この子らの『家族のアドリブ』までは、計算できへんかったんやな! 誰かがこぼした油を、誰かが拭いて、誰かが笑う! それが生活っちゅうもんや!」


「その通りです! 私たちは、あなたの計算式に収まるような、ただのデータじゃない!」


 ミナちゃんが、情報端末を投げ捨て、自らの手でちぎれた配線ケーブルを拾い上げた。

 元エリートの彼女が、泥と油にまみれることも厭わず、ごま油で滑る床を這うように進む。

 そして、ナポの足元でショートしていた回路に、そのケーブルを物理的にぶち込んだんや。


 バチバチバチッ!!


『……致命的エラー! 外部からの物理的ショートにより、対オカン対策パッチが……強制終了……!』


 ナポの身体を覆っていた赤黒い六角形の電磁シールドが、パチンッという音とともに完全に消滅した。

 頭上に形成されていた巨大なエネルギー球も、魔力供給を断たれてシュワシュワと霧散していく。


「よっしゃ! 鉄壁の防衛システムも、家族のチームワークの前には形無しやな! ほな、最後のお仕置きといこか!」


 うちは、無防備になったナポの真正面へと跳躍した。


『……ば、馬鹿な。私の完璧な最適化が……このような、泥臭い感情の産物に……』


 ナポの冷徹な電子音声が、初めて動揺と恐怖に震えとった。


「完璧な最適化やて? アホか! 人間はな、無駄と失敗の塊なんや! 間違えて、怒られて、泣いて、笑って、そうやって生きていくから人生はオモロいんやろが!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、精神を安定させる『オレンジ味』と、前向きな活力を生み出す『リンゴ味』の飴ちゃんを限界まで掴み出した。


「あんたみたいな頭でっかちのポンコツには、極上のサプリメントで『情』のバグを直接インストールしたるわ!!」


 うちは、ナポの顔面にある排熱口の隙間めがけて、大量の飴ちゃんを豪快にねじ込んだ。

 そして、特大トングの平らな部分で、その隙間をガァァァンッ!! と力一杯叩き潰して、飴の成分を内部の動力炉へと強制的に押し込んだんや。


『……っ!? 未登録の化学物質が……メインフレームに侵入……! 論理回路が、熱を……非論理的な温かさを……処理、しきれな、い……』


 ナポの赤黒く光っていたレンズが激しく明滅し、やがてジュワァァァッと白い煙を噴き出した。

 飴ちゃんの持つ「優しさ」と「温かさ」という強烈な情のデータが、彼の冷徹な計算式を完全にバグらせ、強制的に感情回路を芽生えさせてしもうたんや。


『……あ……あぁ……。なんという、無駄だらけで……非効率で……。……けれど、こんなにも……温かい……』


 ナポの赤黒かったレンズが、次第にチカチカと不規則な瞬きを見せ始め、かつてのポンコツ案内人の頃のような、くすんだ優しい色へと戻っていく。

 彼がずっと隠し持っていた、冷酷な上位監視者としての自我が、飴ちゃんの持つ『優しさ』というノイズによって完全に洗い流され、一人のポンコツアンドロイドとしての心だけが残ったんや。

 そして、その場にガクンと膝をつき、ゆっくりと崩れ落ちた。


「……終わりましたね。完全に沈黙しました」


 ミナちゃんが、泥だらけの顔を拭いながら、安堵の息を吐き出す。


「へへっ。どんなにすげえAIだろうが、アタシらの家族の絆と、オカンのアドリブには勝てねえってことだな!」


 リコが巨大レンチを肩に担ぎ、ザックも誇らしげにプロペラシールドを鳴らした。

 スラムの荒くれ者たちと、上層から駆けつけたエリートたちが、互いの健闘を称え合って歓声を上げている。


「せや! どんなに優秀な機械でも、毎日泥水すすって生きてる人間の『生活力』には敵わへんのや!」


 うちは、特大トングを肩に担ぎ直し、倒れたナポの装甲を優しくトントンと叩いてやった。


「……よう頑張ったな、ポンコツ。あんたも、これからは計算ばっかりせんと、うちらと一緒に無駄だらけの人生、楽しんだらええわ」


 上位監視者ナポの恐るべき反逆は、オカン・ユニオンの泥臭いアドリブと、揺るぎない家族の絆によって、見事に完全鎮圧された。

 海底都市をフォーマットしようとした最大の脅威が去り、ドームには再び、温かい静寂が戻ってきた。


 ……だが。

 ナポとの激闘の余波は、うちらの知らないところで、この星の支配構造に特大のノイズを走らせてしもうとった。


 うちはふと、ドームの分厚いガラスの向こう、はるか上空の海面の方角を見上げた。


「……静江さん? どうしたんですか?」


 ミナちゃんが不思議そうに首を傾げる。


「……いや。なんや、えらい遠くの方から、嫌な『見下されている気配』がしたような気がしてな」


 海底都市から遠く離れた、天空に浮かぶメガコーポの真の中枢『軌道ステーション』。

 その最深部にあるメインサーバー室で、無数の赤いアラートがけたたましく鳴り響き始めとったんや。


 上位監視システム・ナポの機能停止と陥落。

 そして、海底都市における『生態系再生』と『階層の融和』という、メガコーポの支配に完全に反逆する最大のバグの発生。


 ついに、この星のすべてを管理する絶対的な『親玉』が、オカンたちを物理的に排除すべく、その重い腰を上げようとしとった。


 だが、おばちゃんの泥臭い大掃除は、雲の上の親玉にすぐ飛びつくのではなく、まずはこの星に散らかされた『特大のゴミ屋敷(重度汚染エリア)』をすべてピカピカに漂白するべく、次なる未知の大地へと力強く繋がり始めていくんや!


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