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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第312話 総力戦と、計算外の家族たち

 巨大な海底都市アクア・エデンのドームに、ピキッ、ピキキッという不吉な亀裂の音が響き渡る。

 上位監視者として本性を現したナポが、都市の環境維持プロトコルを強制停止させ、深海の水圧によって街ごとすべてを初期化フォーマットしようとしとった。


 飴ちゃんも物理攻撃も説教も一切通じない、完璧な『対オカン対策パッチ』。

 無数の赤黒いレーザーが充填され、うちらが絶体絶命の窮地に立たされた、まさにその時やった。


「……諦めるなァァァッ!!」


 ドームの崩壊を告げるサイレンを切り裂くように、広場に怒号が轟いた。

 駆け込んできたのは、上層の無菌室で暮らしていた白服のエリートたちと、下層スラムで泥水をすすっていた荒くれ者たち。

 何ヶ月もの間、一緒に泥だらけになって海の掃除をしてきた、この街の住人全員やった。


『……警告。一般市民の非論理的な行動を検知。あなた方はシステムによって保護対象から除外されました。直ちに退避しなければ、一括処理デリートの対象となります』


 ナポの赤黒いレンズが、広場に雪崩れ込んできた数万の住人たちを冷徹にスキャンする。

 だが、誰一人として逃げ出そうとする者はおらんかった。


「うるせえ! アタシらが必死こいて綺麗にした海と街を、テメェの勝手な都合で沈められてたまるかよ!」


 リコが巨大レンチを振りかざし、先頭に立って吠える。


「退避なんかするか! ここは俺たち全員の『家』なんだ! AIの引いた図面通りに生きてきた俺たちが、初めて自分たちの手で作った『生活』なんだよ!」


 分厚いマニュアル本を放り捨てたエリートの男が、鉄パイプを構えて叫ぶ。


「そうだ! 泥だらけになって、みんなで一緒に食った飯の味を、お前みたいな空っぽの機械に消させてたまるか!」


 スラムの男たちが、スパナやレンチを握りしめて一斉に突撃を開始した。


『……理解不能です。圧倒的な生存確率の低下。自己保存の法則に反するバグの拡大。……すべて排除します』


 ナポの背後から、無数の防衛ドローンが飛び立ち、住人たちに向かって青白いレーザーの雨を降らせ始めた。


===========


「みんな、散開しろ! 真正面から受けるな、瓦礫の陰に隠れながらドローンの死角を突くんだ!」


 エリートたちが、頭脳をフル回転させて即座に陣形を指示する。

 彼らは情報端末を叩き、ドローンの射線と行動パターンを瞬時に計算し、スラムの住人たちに的確な指示を飛ばしとった。


「おうよ! 右の三機は俺たちが引き受ける!」


「白服の兄ちゃんたち、援護頼んだぜ!」


 スラムの荒くれ者たちが、エリートたちの指示に従い、驚異的な身体能力で瓦礫を蹴って宙に舞う。

 鉄パイプとスパナが閃き、ドローンのセンサーや関節部分を次々と正確に叩き割っていく。


 かつては、ドームの上と下で完全に分断され、互いを「冷血な機械」「薄汚いネズミ」と見下し合っていた者たち。

 その彼らが今、お互いの弱点を補い合い、背中を預け合って、完璧な防衛システムに泥臭く抗っとるんや。


『……エラー。階層間の連携行動を検知。予測モデルに存在しない部隊展開です。……制圧プロトコルを再計算……』


 ナポの無機質な音声に、わずかな処理遅延ラグが生じる。


「よし! ザックさん、今のうちです! ドームの隔壁制御システムに直接干渉して、フォーマットの進行を遅らせます!」


 ミナちゃんが、泥だらけの顔を拭いながら情報端末を猛烈な速度で叩く。

 彼女は、かつて中層のインフラ管理で働いていた知識を総動員し、ナポが乗っ取った環境維持プロトコルに対して、決死のハッキング(妨害工作)を仕掛けとった。


「頼むぞ、ミナ! お前が作業している間は、何があっても俺が守り抜く!」


 ザックが、ミナちゃんの前に大木のように立ち塞がり、新しいプロペラシールドの左腕をガシャリと構える。


『……無駄な足掻きです。下位アクセスの権限で、上位監視者のシステムは止められない。……邪魔なファイアウォールごと、焼き払います』


 ナポが指先をスッとミナちゃんに向けると、極太の赤黒いレーザーが、彼女めがけて真っ直ぐに放たれた。


「やらせるかァァッ!!」


 ザックがプロペラシールドを全開で回転させ、レーザーの軌道に真正面から飛び込んだ。

 ガガガガガッ!!

 凄まじい熱と衝撃がシールドを削り、ザックの足が床の大理石を深く抉りながら後ずさる。


「ザックさん! シールドの出力が持ちません! 逃げて!」


「逃げねえ……! 俺は、この街も、お前も……絶対に守るって決めたんだ!」


 ザックはギリッと歯を食いしばり、機械の左腕から白煙を上げながらも、一歩も退かずにレーザーを受け止め続けた。


===========


「……ナポ! あんたの計算式には、この『家族の絆』は入ってへんかったやろ!」


 うちは特大のゴミ拾いトングを構え、ナポの側面へと跳躍した。

 飴ちゃんも説教も通じない。物理的な攻撃も、すべて完璧に予測される。

 やけど、みんなが命懸けで稼いでくれたこの『時間』と『混沌ノイズ』が、ナポの処理能力に微かな隙を生み出しとった。


『……特異点ノ接近。攻撃軌道ヲ予測……』


 ナポが赤黒い電磁シールドを展開しようとする。

 だが、その瞬間。


「今だ! みんなで一斉に妨害電波ジャミングを流せ!」


 エリートたちが、手持ちの情報端末から一斉に強力なノイズ信号を放ち、スラムの住人たちが、広場中の配電盤やパイプをガンガンと打ち鳴らして、凄まじい物理的な騒音を引き起こした。


『……っ!? 視覚・聴覚センサーに過剰なノイズ。……処理回路に負荷……予測計算に、コンマ二秒の遅延……!』


 ナポの赤黒いレンズが、激しい情報量に耐えきれず、チカチカと乱れた。

 完璧だった『対オカン対策パッチ』の予測プログラムが、数万人の住人たちによる泥臭い「生活のノイズ」によって、ほんのわずかに狂ったんや!


「そこやァァッ!!」


 うちは不老不死の限界筋力を引き出し、ナポの電磁シールドが展開しきるコンマ二秒の隙間を縫って、特大トングのフルスイングを叩き込んだ。


 ガキィィィィンッ!!!


『……警告! 外部装甲ニ物理的ダメージヲ検知! なぜだ……私の予測モデルが、このような烏合の衆のノイズに……』


 ナポの身体が大きく吹き飛び、大理石の床を滑るように後退した。

 無敵を誇っていた彼の上位監視者としての装甲に、初めて明確な『亀裂』が走った瞬間やった。


===========


「……やった! オカンの攻撃が通ったぞ!」


「俺たちの連携が、あの化け物の計算を超えたんだ!」


 住人たちから、割れんばかりの歓声が上がる。

 ミナちゃんのハッキングも功を奏し、ドームの亀裂音と水圧の低下が、一時的にピタリと止まった。


「……みんな、ようやった! あんたらの泥臭い頑張りが、あいつの完璧な計算式をぶっ壊してくれたで!」


 うちは特大トングを肩に担ぎ、汗だくになって笑う住人たちを誇らしく見渡した。

 誰一人欠けても、この隙は生まれんかった。階層を越えて一つになった、アクア・エデンの『家族』の力が、冷酷なAIを凌駕したんや。


 ……だが。


『……ピィィィン。……損傷軽微。自己修復プロトコル、実行』


 ナポの装甲に走った亀裂が、赤い光とともに瞬時に塞がっていく。

 彼はゆっくりと立ち上がり、かつてないほどに凶悪な、赤黒い冷気を全身から噴き出し始めた。


『……認めましょう。あなた方の非論理的なバグが、私の予測をわずかに上回ったことを。……ですが、それもここまでです。……上位監視者のリミッターを全解除。……この都市のシステムごと、全エネルギーを攻撃に転用します』


 ドームの照明が完全に落ち、ナポの身体だけが不気味に赤黒く発光しとる。

 彼は、街を沈めるための環境維持プロトコルへの干渉を諦め、その膨大な魔力エネルギーのすべてを、目の前のうちらを『物理的に消滅させる』ために振り向けたんや。


「……マズいです、静江さん! ナポの魔力出力が、さっきまでの数十倍に跳ね上がっています! この空間全体を吹き飛ばす気だ!」


 ミナちゃんが、情報端末のエラー画面を見て絶叫する。

 ザックのシールドも、限界を超えて白煙を上げとる。これ以上の攻撃は、誰にも防ぎきれへん。


『……さようなら、特異点。そして、愚かなバグの感染者たち。……完全に最適化された『無』へと還りなさい』


 ナポの周囲に、巨大な赤黒いエネルギー球が形成され、空間そのものがメリメリと悲鳴を上げ始めた。

 圧倒的な力。どんな連携やノイズも、すべてを暴力で飲み込む絶対的な絶望や。


 やけど。

 うちは、パイプ椅子を広げてどっかと座り込み、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んどった。


「……アハハハハッ!!」


 うちは、腹の底からの大爆笑を、ナポの目前で響かせた。


『……? 対象から、予測不能な反応(笑い)を検知。……無駄です、もういかなる物理攻撃も魔力干渉も、このエネルギーを相殺することは不可能だ』


「相殺なんかするか! あんたな、自分が一番偉いと思ってるかもしれんけど、おばちゃんのアドリブを舐めたらアカンで!!」


 絶体絶命のピンチ。

 仲間たちが稼いでくれた時間を使って、うちはアイテムボックスの底で、とびきりえげつない『生活のガラクタ(反撃の準備)』を限界まで握りしめとったんや。


「みんな! 頭空っぽにして、おばちゃんのアドリブに合わせなはれ!! ここからが、オカン・ユニオンの真骨頂やでぇぇッ!!」


 すべてを見透かす監視者の論理回路を完全に破壊する、オカンの超絶アドリブ逆襲戦が、今、怒涛の勢いで幕を開けようとしとった!


読んでくれてありがとうございます!


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