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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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303/313

第303話 特大フィルターの設置と、大自然の容赦なき目詰まり

 暴れ狂っていた伝承の白鯨を『オカン流・深海のアカスリ』でスッキリと手懐け、次なる目標である『死の海の浄化』へと舵を切ったうちら一行。


 メガコーポが何百年も垂れ流してきた猛毒のヘドロを浄化するため、うちらはスラムの住人たちや中層のエリートたちを総動員して、前代未聞の『超特大・自然濾過フィルター』の製作に取り掛かっとった。


「おうい! 炭の袋はもっとぎっしり詰め込め! 隙間があったらそこから毒が漏れちまうぞ!」


 防水スーツに身を包んだリコが、巨大レンチを指揮棒代わりに振り回し、作業員たちに怒号を飛ばす。


 第七ドームの農業で余ったコンポスト用の『特大の木炭』と、海底都市の周辺に山のように沈んでいた『牡蠣カキの殻』。

 それらを、メガコーポの廃材で作った家一軒ほどもある巨大な金網の中に、何層にも重ねてミルフィーユ状に敷き詰めていくんや。


「静江さん、水質と流量の計算は完了しました。……ですが、やはり不安です。このフィルターの理論は完璧ですが、相手は何百年分も蓄積された『大自然のゴミ箱』です。果たして計算通りの耐久値が出るかどうか……」


 ミナちゃんが、情報端末を胸に抱きしめ、分厚いガラス窓の向こうで渦巻く真っ黒な海を見つめて震えとる。


「ミナちゃん、数字ばっかり気にしてたら胃ィに穴が開くで。計算で分からんことは、とりあえずやってみてから調整リフォームしたらええねん!」


 うちは、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ガハハと笑い飛ばした。


「姐さん! フィルターの組み上げ完了だ! ザックたちが、外の白鯨に網を繋ぐ準備をしてるぜ!」


 リコが、油と汗で顔を真っ黒にしながら、満足げに親指を立てた。


「よっしゃ! ほな、オカン・ユニオンの『特大・海洋お掃除プロジェクト』第一弾! フィルター設置作戦、スタートやでぇぇッ!」


===========


 うちらの乗る深海用輸送艦のハッチが開き、巨大なフィルターの塊がゆっくりと死の海へと押し出されていく。


『……キュオォォォォンッ!』


 外の海では、すっかりうちの「お風呂仲間」となった白鯨が、巨大なフィルターに繋がれたワイヤーを口にくわえ、楽しそうに尾ビレを振って待機しとった。


「よしよし、ええ子や! その網を、海底都市のドームの真下にある『一番太い排水パイプ』の出口に、スッポリと被せてきなはれ!」


 うちが艦内からマイクで指示を出すと、白鯨は賢く頷き、巨大なフィルターを引きずりながら、漆黒のヘドロの海を潜行していった。


 やがて、ミナちゃんの情報端末に、設置完了の青いシグナルが点灯した。


「設置完了しました! メガコーポの排水システムと、私たちの自然濾過フィルターが完全に接続されました!」


「おうよ! これで、ドームから排出される毒の廃液は、すべて炭と牡蠣殻を通って、無害な水として海に流れ出るはずだぜ!」


 ザックが、新しいプロペラシールドの腕をガシャリと鳴らして歓声を上げる。


「よっしゃ! ミナちゃん、バルブ全開や! 海のお掃除、開始やで!」


 うちの号令とともに、ミナちゃんがコンソールのレバーを力強く押し込んだ。


 ゴゴゴゴゴォォォォッ!!!


 海底都市の底から、凄まじい地鳴りのような音が響き渡る。

 モニター越しに見える巨大フィルターに向かって、メガコーポが溜め込んでいたドス黒い魔力廃液が、猛烈な勢いで流れ込み始めた。


「……フィルターを通った水が、外の海へ排出されています! 水質データ……アシッド(酸性)値、急激に低下! 毒素の九十パーセントが、炭と牡蠣殻によって中和・吸着されています!」


 ミナちゃんが、歓喜の声を上げる。


「すげえ! マジで成功だ! これで死の海が、少しずつ元の青さを取り戻していくぜ!」


 リコもザックも、艦内で肩を組んで喜びを爆発させた。


 順調すぎる滑り出し。

 ……やけど。おばちゃんは、この時、大自然のゴミ箱の『本当の恐ろしさ』を、まだ完全に舐めとったんや。


===========


 稼働開始から、わずか十分後。


 ピーーッ! ピーーッ! ピーーッ!!


 歓喜に沸いていた艦内に、突如として、けたたましいエラー警告音が鳴り響いた。


「な、なんだ!? どうしたミナ!」


 リコが慌ててモニターを覗き込む。


「し、静江さん! マズいです! フィルターの内部圧力が、異常なスピードで上昇しています! 限界値の三百パーセントを突破しました!」


「なんやて!? さっきまで順調に流れとったやないか!」


 うちがモニターに駆け寄ると、さっきまで綺麗な水を吐き出していたはずのフィルターが、ドス黒いタールのような物質で完全に覆い尽くされ、風船のようにパンパンに膨れ上がっとった。


「……目詰まりです! 廃液の中に含まれていた、ドロドロの魔力樹脂や未分解の重金属が、炭のミクロの穴を一瞬で塞いでしまったんです!」


 ミナちゃんの顔が、恐怖で完全に蒼白になっとる。


「それに、牡蠣の殻のアルカリ成分が、想定以上の酸性ヘドロの猛威に耐えきれず、急速に溶かされています! このままでは……フィルターの金網そのものが、酸で腐食して破断します!!」


 ミナちゃんの言葉を証明するように、モニターの中のフィルターの鉄骨が、シュワシュワと不気味な泡を立てて溶け始め、ミリミリ……と悲鳴のような金属音を上げ始めた。


「あかん! このまま破裂したら、せっかく吸着した毒の原液が、一気に白鯨の顔面と海にぶちまけられてまう!」


 うちは、背筋が凍るような焦燥感に襲われた。

 台所の三角コーナーのネットが詰まるのとは次元が違う。何万トンという毒の塊が、今まさに暴発しようとしとるんや。


「ミナちゃん! 今すぐバルブを閉じなはれ! 濾過を緊急停止や!」


「だ、駄目です! 圧力がかかりすぎて、安全装置が機能しません! バルブがロックされて動きません!」


 ミナちゃんがコンソールを何度も叩くが、赤いエラー画面は消えへん。


「チッ! アタシが直接外に出て、レンチでバルブをぶっ叩いて閉めてくる!」


 リコが防水ヘルメットを被ろうとするが、うちは彼女の腕をガシッと掴んで止めた。


「アホか! 今外に出たら、破裂した猛毒の直撃を食らって、あんたの身体ごとドロドロに溶けてまうわ! 死にに行くようなもんや!」


「でも、このままじゃ……!」


===========


(……やはり、無謀でしたね。大自然の怒りと、数百年に及ぶ汚染の質量を、炭や貝殻といった非論理的で原始的な知恵だけで抑え込めるはずがない。……彼女のシステムは、この深海で完全に破綻を迎えたようです)


 艦の隅で、ポンコツのフリをしてしゃがみ込んでいたナポが、くすんだレンズの奥で冷徹に、そして計画の失敗を嘲笑うかのようにデータを明滅させとる。


『……ギョオォォォォ……ッ!』


 モニター越しに、白鯨が危険を察知し、フィルターから離れようと身悶えする声が聞こえてきた。


「……しゃあない! 究極の緊急措置や! 白鯨のワンちゃん! そのフィルターのワイヤーを離して、全力で上に向かって逃げなはれ!!」


 うちがマイクで叫ぶと、白鯨はワイヤーを口から放し、凄まじいスピードで海面へ向かって急浮上していった。


 その直後。


 バゴォォォォォォォンッ!!!


 限界を突破した特大フィルターが、深海の底で大爆発を起こした。


 吸着されていた高濃度の猛毒ヘドロが、周囲の海水を真っ黒に染め上げながら、凄まじい衝撃波となってうちらの輸送艦を直撃した。


「きゃあぁぁぁっ!」


「うおおおぉぉぉッ!」


 艦全体が木の葉のように激しく揺さぶられ、計器類から火花が吹き出す。

 うちらは床に叩きつけられ、コンソールにしがみつくのが精一杯やった。


 数分後。

 揺れがようやく収まり、非常用の赤いランプだけが点滅する艦内で、うちらは荒い息を吐きながら立ち上がった。


「……みんな、無事か?」


 うちは、ヒョウ柄のポンチョについた埃を払いながら、周囲を見渡した。


「……はい、なんとか。……でも、静江さん」


 ミナちゃんが、涙目でモニターの外部カメラの映像を指差した。


 そこには、跡形もなく吹き飛び、ただの鉄クズと炭の残骸になった特大フィルターの姿と。

 以前よりもさらにドス黒く、凶暴に渦巻く『死の海』の姿が映し出されとった。


「……アタシたちが何日もかけて作ったフィルターが、たった数分で……ゴミ屑になっちまった」


 リコが、レンチを床に落とし、力なくへたり込む。

 ザックも、悔しそうに壁を殴りつけた。


 圧倒的な敗北。

 オカンの生活の知恵が、大自然に蓄積された「規格外のゴミの質量」の前に、完全に弾き返された瞬間やった。


===========


「……」


 うちは、パイプ椅子を広げて、暗い艦内の中でどっかと腰を下ろした。


 重苦しい沈黙が、うちらを包み込む。

 誰もが、この深海の浄化という目標が、人間の手には負えない不可能の領域であると思い知らされ、心を折られかけとった。


 だが。


「……アハハハハハッ!!」


 うちは、暗い艦内に響き渡るような、腹の底からの大爆笑を上げた。


「ね、姐さん!? ショックで頭がおかしくなっちまったのか!?」


 リコがギョッとして顔を上げる。


「アホ! 誰がおかしくなるかいな!」


 うちは特大のサングラスを押し上げ、ギラギラとしたネイビーブルーのデコネイルで、モニターに映る真っ黒な海をビシッと指差した。


「ええか、あんたら! 掃除っちゅうのはな、一回でピカピカになるなんて虫のええ話は絶対にあらへんのや! 頑固な換気扇の油汚れも、何回も洗剤つけて、擦って、失敗して、ようやく綺麗になるもんやろが!」


「……静江さん」


「炭の目が詰まった? 牡蠣殻が溶けた? 上等やないの! それは、うちらのやり方が間違ってたんやない。『相手の汚れのガンコさ』がどれくらいか、身をもって知ることができたっちゅう、最高のデータ収集(準備運動)や!」


 うちはパイプ椅子から立ち上がり、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ直した。


「一回失敗したくらいで、へこたれてる暇はあらへんで! フィルターが破れたんなら、絶対に破れへん、もっとえげつない濾過システムを考え出せばええだけのことや! さぁ、みんな! 泣き言は終わりや! 第二回・特大お掃除作戦会議、始めるでぇぇッ!!」


 圧倒的な大自然の壁に叩きつけられ、特大の失敗を喫したうちら。

 だが、オカンの図太い前向きさは、一ミリも折れてへんかった。


 死の海を浄化する『再生フェーズ』の本当の苦戦と試行錯誤は、この大失敗を皮切りに、いよいよ泥臭く、そして熱く幕を開けたんや!


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