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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第300話 真の親玉の孤独と、オカン流・パイプの詰まり抜き

 自分の直感で適当なバルブを閉めた結果、危うく仲間全員を水没させかけるという「特大のオカンの大失態」。

 だが、その絶体絶命のピンチを、リコやザック、そしてミナちゃんという『泥臭い家族』の完璧な連携によって見事に乗り越え、うちらはついにインフラコアの浸水を完全に食い止めることに成功したんや。

 ドーム内に響き渡っていた轟音は消え去り、チャプ……チャプ……と、足元に残った水が壁にぶつかる音だけが静かに反響しとる。


「……ふぅ。ほんまに、あんたらがおらんかったら、おばちゃん今頃ワカメみたいにふやけて海の底やったわ。おおきにな」


 うちは、ずぶ濡れになった深海ネイビーブルーのスカジャンをギュッと絞りながら、仲間たちに向かってニカッと笑った。


「へへっ、どんなに無敵のオカンでも、たまにはアタシらの手助けが必要ってことだな! アタシのレンチと水流いじりのテクニック、最高に輝いてただろ!」


 巨大レンチを肩に担いだリコが、鼻の頭についた泥を乱暴に拭いながら誇らしげに笑う。

 彼女のツナギは油と泥水でぐちゃぐちゃやけど、その笑顔は海底都市のどの宝石よりもキラキラ輝いとった。


「おうよ! 家族の尻拭いをするのも、スラムの顔役の仕事だからな。……まぁ、少しばかりヒヤッとしたが、泥水すするのはスラムで慣れっこだ」


 ザックも、新しく換装したプロペラシールドの左腕の水をバシャバサと払いながら、頼もしく頷いた。

 かつてはスラムの底で絶望を抱えていた彼が、今や誰かを守るための「最強の盾」として、一歩も退かずにうちらを支えてくれとる。


「静江さん、浸水が止まったことで、最深部へのロックが解除されました。……この奥に、先ほどモニター越しに水没を宣言した『真のCEO』が潜んでいます」


 ミナちゃんが、防水仕様の恩恵で無事だった情報端末の青白い画面を見つめ、ゴクリと生唾を飲み込んで奥へ続く暗い通路を指差した。

 彼女の顔には、かつての上司であり、この都市のすべてを牛耳る絶対的な存在に対する恐怖がまだ微かに残っとる。


「よっしゃ! 水遊びはこれで終わりや! 今度こそ、あの性格のひん曲がった引きこもり社長に、特大のクレーム叩き込みに行くでぇぇッ!」


 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、水浸しの床を厚底ブーツでバチャバチャと踏み鳴らしながら、インフラコアの最深部へとズンズン歩みを進めた。

 仲間たちも、それぞれ武器を握り直し、うちの背中にピッタリと続いてくる。


 やがて、うちらの目の前に、分厚いチタン製の巨大な扉が姿を現した。

 ミナちゃんが端末を操作してロックを解除すると、プシュゥゥゥ……と重々しい音を立てて、最後の扉がゆっくりと開け放たれた。


 そこに広がっていたのは、これまでの無機質なオフィスや工場とは全く違う、異様で禍々しい空間やった。

 部屋の壁一面には、海底都市のすべての水と空気を循環させるための極太のパイプが、まるで人間の血管のように複雑に張り巡らされとる。

 そのパイプたちは、ズクン……ズクン……と不気味な脈動を繰り返し、部屋全体が巨大な生き物の体内にいるかのような錯覚を起こさせる。

 そして、そのパイプのすべてが一点に集中する部屋のド真ん中には、天井まで届くほどの巨大な透明の水槽が鎮座しとった。

 水槽の中には、薄緑色の特殊な保存液が満たされ、そこに一人の男が浮かんどる。

 無数のケーブルとチューブを全身に突き刺し、顔面には呼吸用のマスクを装着したその男こそが、この海底都市のシステムと完全に一体化し、四六時中インフラを監視・制御している『真の親玉(CEO)』やった。


『……あぁ……。私の完璧な計算式が……感情という不純なバグに汚染されていく……! 痛い……システムが、悲鳴を上げている……!』


 水槽の中で、CEOがもがき苦しみながら呻き声を上げている。

 彼が管理していた無菌社会のシステムは、うちらオカン・ユニオンが引き起こした「粉塵爆発」や「特大密輸営業」、そして住人たちの「泥臭い労働への歓喜」というノイズによって、完全にキャパオーバーを起こしとったんや。


「静江さん、見てください! 彼の体から伸びているパイプの中に、ドス黒いヘドロのようなものが詰まっています! あれがシステムの循環を妨げ、激しいエラーを引き起こしているんです!」


 ミナちゃんが、情報端末をスキャンしながら大声で叫ぶ。

 彼女の言う通り、水槽から伸びる一番太いメインパイプの継ぎ目部分に、真っ黒でコールタールのようなドロドロの物質がギッシリと詰まり、そこから先へ魔力が全く流れていかへん状態になっとった。


「血流(配管)が詰まったら、人間も機械も終わりやで! 自分ひとりで完璧に管理しようとするから、そうやってストレス(汚れ)がドロドロに溜まって目詰まり起こすんや!」


 うちは、パイプの詰まりを特大のサングラス越しにキッと睨みつけた。


「オカンが直々に、そのドロドロの配管をピカピカに『お掃除』したるわ!!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、スラムの大掃除でも大活躍した最強の魔法の洗剤……特大の『重曹』と、超強力な酸性の『お酢(クエン酸)』を取り出した。


「リコ! ザック! あんたらで、あの水垢が一番溜まっとるパイプの継ぎ目に、こいつをぶち込む道を作りなはれ!」


「おうよ! 配管の掃除なら、ジャンク屋の十八番だぜ! どんなに固いボルトでも、アタシのレンチで一発でこじ開けてやる!」


「任せな! 高圧水流の防衛システムが作動してるが、俺のシールドで一気に押し通るぞ!」


 水槽の異常を検知し、部屋の四隅から高圧のウォーターカッターがうちらを排除しようと噴き出してきた。

 だが、ザックがプロペラシールドを最大出力で回転させ、激しい水流の壁を真っ向から受け止めて強引に『穴』を開ける。

 その隙間を縫って、リコが巨大レンチを構えたまま跳躍し、詰まりを起こしているパイプの継ぎ目にピタリと張り付いた。

 彼女は、錆びついて固着したボルトにレンチを噛ませ、全体重を乗せてガコンッ! と力任せに緩めたんや。


「姐さん! 今だァァッ! 隙間が開いたぜ!」


「行くで!! オカン特製、超強力発泡パイプクリーナーや!!」


 うちは、緩んだパイプの隙間めがけて、大量の重曹とお酢を同時に、バシャァァァッ!! と豪快に流し込んだ。


 ジュワアアアアァァァッ!!!


 酸とアルカリが混ざり合った瞬間、パイプの内部で凄まじい化学反応が起き、真っ白な泡が爆発的な勢いで膨れ上がった。


『……な、なんだこれは!? 私の内部回路に、未知の物質が……! 圧力が、許容範囲を超えていく……!』


 CEOが水槽の中で目をひん剥き、苦悶の表情を浮かべる。

 重曹とお酢が生み出したキメの細かい大量の泡が、パイプの奥深くまで入り込み、ガチガチにこびりついていた『ストレスの水垢ヘドロ』の分子構造を内側から破壊し、根こそぎ浮かせて剥がしていく。


「仕上げや! 汚れが浮いたら、最後は一気に洗い流すんが鉄則やで!!」


 うちは、アイテムボックスから、精神を安定させるオレンジ色の『オレンジ味』の飴ちゃんを限界まで大量に取り出し、すり鉢で粉々に砕いて、その泡の中にドバドバと投入した。


「あんたの押し殺した感情、全部一人で背負い込んだ重圧ごと、飴ちゃんの甘さで全部中和デトックスしたるわ!!」


 オレンジ飴の魔力がたっぷりと溶け込んだ特製洗浄液が、パイプを猛スピードで逆流し、ついにCEOが繋がれている巨大水槽へと直接流れ込んだんや。


 パキィィィンッ!!!


『……あ……あぁ……。私の、完璧な……冷たい世界が……』


 強烈なオレンジの香りと甘さが、青白かった水槽の保存液を、温かい黄金色へと変えていく。

 CEOを支配していた「完璧でなければならない」という強迫観念と、すべてを一人で抱え込んでいた孤独な重圧が、飴ちゃんの魔力によってスゥッと溶かされていった。


 ガガガガガッ!


 パイプの目詰まりが完全に解消されたことで、異常な圧力がかかっていた防衛システムがショートを起こし、うちらを攻撃していたすべての高圧水流がピタリと停止した。

 部屋を包んでいた赤黒い警告光も消え、穏やかな照明へと切り替わる。


「……ふぅ。これで、配管の詰まりもスッキリやな」


 うちは、水浸しになった床を歩き、静かに水が引いていく巨大水槽の前に立った。

 水槽のガラスがプシュッと開き、無数のケーブルから解放されたCEOが、床に力なくへたり込む。


「……私は……。この都市を完璧に守るために、自らの感情すらもバグだと思い込み……すべてを切り捨ててきた。たった一人で、この重圧に耐え続けることこそが正義だと信じて。……だが、一番目詰まりを起こして腐っていたのは、私の心だったのか……」


 冷酷無比だった真の親玉の目から、ポロポロと大粒の人間らしい涙がこぼれ落ちた。

 感情を殺した完璧な機械になろうとしていた男が、ついに人間としての弱さを取り戻した瞬間やった。


「せや。泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑う。それが人間の一番の『潤滑油』なんやわ。……あんたも、こんな狭い水槽に引きこもってんと、たまには外に出て、仲間と一緒に泥だらけになって飯でも食いなはれ。一人で抱え込むより、ずっとええ答えが見つかるはずやで」


 うちは特大トングを肩に担ぎ、泣き崩れるCEOの背中を、ポンと優しく叩いてやった。


「やりましたね、静江さん! 本当に、海底都市の親玉を倒しちゃいましたよ!」


 ミナちゃんが、涙を拭いながら満面の笑顔で駆け寄ってくる。


「へへっ、オカンの配管掃除は、メガコーポの最新システムよりも強えってことだな! どんな頑固な汚れも、アタシらのチームワークにかかりゃイチコロだぜ!」


 リコとザックも、ボロボロになった武器を下ろしてガハハと笑い合った。


「さぁて! これで海底都市アクア・エデンの大掃除も、いよいよほんまに完了やな!」


 うちは、深くギラギラと光るネイビーブルーのスカジャンを翻し、天井のさらに上……まだ見ぬ外の海と、広大な外の世界の方角をビシッと指差した。


「親玉の目が覚めたんやったら、あとはここの住人たちで、この街をええように作り変えていくやろ! うちらの『出張鑑定』は、休む間もなく次の現場へ向けて出航やでぇぇッ!!」


「「「おおぉぉぉぉぉッ!!!」」」


 海底都市を支配していた冷酷なシステムを、オカン流のパイプクリーナーと人情で完全に見事に洗い流したうちら一行。

 泥臭い家族の絆と圧倒的な生活の知恵を武器に、おばちゃんの怒涛の『大掃除の旅』は、新たな外の世界へと向けて、さらなるスケールで続いていくんや!


読んでくれてありがとうございます!


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