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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第291話 排気ダクトの焼却網と、オカン流・圧力鍋大爆発

 メガコーポのすべてを冷酷な計算式で支配するCEOが放った、重武装の特務殲滅部隊。

 彼らが一斉に放った極太の高熱レーザーを、特大のステンレス鍋蓋の『鏡面仕上げ』という究極の物理反射で見事に弾き返し、重曹スモークボムの煙幕で目を晦ませたうちら一行。

 意識を失った大男のザックをリコが肩に担ぎ上げ、真っ暗で工業排気の悪臭が立ち込める巨大な排気ダクトの中を、泥水と油にまみれながら必死に駆け抜けとった。


「ハァ、ハァ……! 静江さん、この辺りなら、もう追手のセンサーは届かないはずです!」


 ミナちゃんが、情報端末の青白いライトで周囲の入り組んだ配管を照らしながら、息も絶え絶えに叫んだ。

 かつては無菌室のような上層で働いていたエリートの彼女やが、今は純白の服も髪もドロドロに汚れ、それでも必死にうちらのナビゲートをこなしてくれとる。


「よっしゃ、一旦下ろすで! ミナちゃん、止血よう頑張ったな!」


 うちは、リコの手伝いをして、血まみれになったザックの巨体をダクトの冷たい鉄の床にそっと寝かせた。

 ザックの息は、嫌な音がするほど浅く、そして小刻みに震えとった。

 うちらを庇ってレーザーの直撃を受けた左腕の機械部分は、根元から完全に吹き飛んで黒焦げのコードが剥き出しになり、右脇腹の肉は深く抉られて、どす黒く焦げて嫌な匂いを放っとる。

 ミナちゃんが両手で必死に押さえていたおかげで失血死だけは免れとるが、その顔色は完全に土気色で、いつ心臓が止まってもおかしくない極限状態やった。


「ザックさん! ザックさん、目を開けてください! 死なないで……! 私たちを置いていかないで!」


 ミナちゃんが、彼から流れる血で両手を真っ赤に染めながら、涙をポロポロこぼして彼の頬に顔をすり寄せる。

 彼女にとって、ザックは階層の壁を越えて初めてできた、大切な『家族』や。絶対に失うわけにはいかへん。


「ミナちゃん、ちょっと退きなはれ! 意識ないまま飴ちゃんを口に突っ込んだら、気道に詰まらせて窒息してまうわ!」


 うちはミナちゃんを優しく横に退け、煤を被ってもなおギラギラと光を反射する深海ネイビーブルーのスカジャンの袖を、バサッと勢いよく捲り上げた。


「ミナちゃん! あんたの止血は完璧やった! 命のバトンはしっかり受け取ったで! あとはオカンの『特効薬』に任せなはれ!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込み、怪我や内臓の激しい損傷を修復する黄色の『レモン味』の飴ちゃんと、極限まで低下した体力を限界突破させる赤色の『イチゴ味』の飴ちゃんを取り出した。

 そして、それらを特大のすり鉢の中に放り込み、トングの持ち手で親の仇のようにゴリゴリと粉々に砕いていく。

 粉末状になった二つの飴ちゃんを、持参していた水筒の少量の綺麗な水に溶かし込み、特濃の『超回復シロップ』を作り上げた。


「ザック! スラムの顔役が、こんな暗いダクトの中でくたばってどないすんねん! 意地でも飲み込みなはれ!」


 うちは、意識を失って口を半開きにしているザックの口に、その特濃シロップを少しずつ、喉の奥へと直接流し込んでいった。

 ゴクリ……と、彼の喉仏が微かに動く。

 次の瞬間やった。

 飴の強烈な解毒・回復魔力がザックの身体の隅々にまで浸透し、彼を包み込むように淡い光が放たれた。

 シュワシュワ……と音を立てて、抉れていた右脇腹の傷口の細胞が急速に再生し、みるみるうちに新しい皮膚が覆っていく。

 吹き飛んだ左腕の根本も、焦げた組織が排出され、血がピタリと止まって綺麗に塞がった。


「……んんっ……」


 ザックが、微かに呻き声を上げて、ゆっくりと目を開けた。

 その顔には、先ほどまでの死相は完全に消え失せ、健康的な赤みが差しとる。これ以上の命の危険は、完全に消え去ったんや。


「……呼吸が、安定しました! ザックさん、助かったんですね……! 本当に、よかった……!」


 ミナちゃんが、安心から床にへたり込み、両手で顔を覆って泣き崩れる。


「おうよ! アタシらの最強の盾が、こんなとこでくたばるわけねえからな!」


 リコも、涙目になりながら巨大レンチをダクトの床にドンッと叩きつけ、ガハハと笑って誤魔化した。

 うちも、胸を撫で下ろして大きく息を吐き出す。

 ……やけど、オカン・ユニオンの絆を確かめ合って喜んでいられたのは、ほんのわずかな時間だけやった。


 ガゴォォォォンッ!!!


 突如として、ダクトの前後から凄まじい地鳴りのような音が響き渡り、分厚い鋼鉄のシャッターが猛スピードで落下してきて、うちらの退路と進路を完全に塞いでしもうたんや。

 真っ暗になったダクト内に、非常用の赤いランプだけが不気味に点滅を始める。


「な、なんだ!? 閉じ込められたぞ!」


 リコがレンチを振り上げ、鋼鉄のシャッターを力任せに殴りつけるが、火花が散るだけでビクともせえへん。


「だ、駄目です! このシャッター、メインタワーの外壁と同じ魔鋼鉄で作られています! 私のハッキング端末も、完全に外部から遮断されました!」


 ミナちゃんが、真っ赤にエラーを表示する情報端末を見て絶望の声を上げる。

 そして、ダクトの天井に設置されたスピーカーから、一切の感情を排した、冷酷なCEOの声が響き渡った。


『……特務部隊のレーザーを調理器具で反射するなどという、非論理的なエラー。……だが、どれほど小賢しい真似をしようと、物理的に完全に密閉された空間で、数千度の超高温の炎に焼かれれば、ただの灰になる』


 CEOの無慈悲な宣告とともに、ダクトの壁面の至る所にある巨大な送風口から、オレンジ色に光る強烈な『超高温の熱風』が、ゴォォォォッ! と凄まじい音を立てて吹き込み始めたんや。


「あつっ! 姐さん、このままじゃ本当に丸焼きになっちまうぜ!」


 リコが、自分の油まみれのツナギをパタパタと扇ぎながら悲鳴を上げる。

 一瞬にして、ダクト内は息をするのも肺が焼けそうになるほどの、灼熱の巨大なオーブンへと変貌した。

 温度は急激に上昇を続け、鉄の床がジリジリと焼け焦げるような熱を持ち始める。


「……これが、メガコーポのトップの冷酷さ……。私たちは、ここで……焼き殺されるのですね……」


 ミナちゃんが、あまりの熱気に耐えかねて膝をつき、ザックの無事な右腕にしがみついた。


「アホか! 諦めるんが早すぎるわ!」


 うちは、特大のゴミ拾いトングを床に叩きつけ、灼熱の熱風が吹き荒れるダクトの中で、仁王立ちになった。


「ええか! 密閉された空間で、ガンガンに熱が上がる。……それはまさに、オカンの大好きな『あれ』と同じ状況やないか!」


「あ、あれ……? 姐さん、何を言ってるんだ! 早くなんとかしねえと、マジで焦げちまう!」


 リコが焦燥に顔を歪めるが、うちはニヤリと極悪な笑みを浮かべ、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。


「密閉されて熱が上がるんやったら、そこに大量の水ぶち込んで『特大の圧力鍋』にしたれや!!」


 ドサドサドサッ!!

 うちがアイテムボックスから取り出したのは、大和郷や海底都市での冒険の間に備蓄しておいた『大量の綺麗な水が入った複数の巨大なポリタンク』やった。


「リコ! ザック! あんたらの腕力で、このポリタンクの水を、一番熱風が吹き出しとる送風口の奥めがけて、全力でぶちまけんかい!!」


「み、水を!? そうか、水蒸気爆発スチームエクスプロージョンか!!」


 リコが、うちの無茶苦茶なオカン理論の真意に気づき、目を限界まで見開いた。

 超高温に熱せられた密閉空間に、大量の水分が急激に投入されると、水は一瞬にして数千倍の体積を持つ『水蒸気』へと膨張する。

 逃げ場のない密閉されたダクトの中でそれが起これば、膨れ上がった圧力は、最も脆弱な部分……つまり、うちらを閉じ込めている鋼鉄のシャッターを内側から吹き飛ばす『圧倒的な破壊力』へと変わるんや!


「おうよ! アタシらの意地、見せてやるぜ!」


「……任せな、オカン。貰った命、きっちり使い切ってやる!」


 ザックが痛みを堪えて立ち上がり、無事な右腕で特大のポリタンクを軽々と持ち上げる。リコも渾身の力を込めてポリタンクを構えた。


「行くでぇぇッ!! オカン特製、圧力鍋大爆発のスタートや!!」


 うちの号令とともに、リコとザックが、超高温の熱風を噴き出している送風口めがけて、大量の水を一気にぶちまけた!

 バシャァァァァッ!!!

 水が灼熱のヒーターと鉄の壁に触れた瞬間。


 ジュゴォォォォォォォッ!!!!


 鼓膜を破るような凄まじい轟音とともに、水は一瞬にして超高圧の水蒸気へと姿を変え、ダクト内は真っ白な蒸気で完全に視界がゼロになった。

 凄まじい膨張圧力が、うちらの鼓膜をギリギリと締め付ける。

 そして、その逃げ場を失った圧力エネルギーは、ついに限界点を突破した。


 ズドゴォォォォォォォンッ!!!!!


 ダクトの前後を塞いでいた分厚い魔鋼鉄のシャッターが、オカンの「圧力鍋理論」が生み出した超絶的な水蒸気爆発に耐えきれず、外側に向かって紙切れのように飴細工のごとく吹き飛ばされたんや!

 爆風とともに真っ白な蒸気が外へ一気に噴出し、うちらの退路と進路が再び大きく口を開けた。


「……ぷはぁっ! や、やった! シャッターが吹き飛んだぜ!」


 リコが、真っ白な蒸気の中で咳き込みながらも、歓喜の雄叫びを上げる。

 ザックもミナちゃんも、熱風から解放されて床にへたり込み、大きく息を吸い込んどる。


「……おい、親玉さん。モニター越しに聞こえとるか」


 うちは、蒸気が晴れゆく中、背中の『勝負』の金糸刺繍を監視カメラに見せつけるようにして、特大トングを肩に力強く担ぎ直した。


「圧力鍋で作った料理はな、蓋を開けた瞬間が一番熱々で美味いんやで。……これからは、コソコソ隠れて営業なんかしたれへん」


 うちは、吹き飛んだシャッターの先……上層へと続く巨大なエレベーターホールの入り口を真っ向から睨みつけた。


「うちらオカン・ユニオンの特大出張営業……いや、上層へのカチ込みの始まりや! 首洗って待っときなはれや!!」


 CEOの無慈悲な焼却網を、オカン流の「圧力鍋大爆発」で文字通り吹き飛ばしたうちら一行。

 スラムの底から這い上がってきた泥臭い反逆者たちの、完璧な無菌社会への怒涛の進撃が、いよいよ本格的に火を吹き始めとったんや!


読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

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みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。

引き続きよろしくお願いします!

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